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ADAS/自動運転車開発でニーズが高まるドライビングシミュレーター…AB Dynamics

7/13(木) 8:45配信

レスポンス

AB Dynamicsが新型のドライビングシミュレーターを発表した。ADAS・自動運転車両を含む新車の開発に応用可能な製品で、高精度な3DモデリングデータやF1ウィリアムズの技術を採り入れるなどし、コンパクトながらマルチキネティックな制御、高レスポンス低レイテンシな制御が特徴だ。

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発表会では、最新ドライビングシミュレーターの技術、開発現場の状況など、興味深い話が聞けた。

●第3世代のドライビングシミュレーター

代表的なドライビングシミュレーターに、6本の巨大なアクチュエーターを制御することで、車の動きを再現する「Hexapod」と呼ばれるタイプがある。もともとはフライトシミュレーター用に開発されたもので、遊園地のアトラクションに応用されることもあるが、自動車用のシミュレーターとしても普及している。

Hexapodが、ドライビングシミュレーターの第1世代とするなら、現在は第2世代のシミュレーターも普及している。第2世代は「Hybrid」と呼ばれ、Hexapodの下にアクチュエーター配置し、車のヨー方向の動きを忠実に再現しようというものだ。というのは、Hexapodは飛行機の動きを再現するには大きな問題はないが、自動車のように平面上での旋回、スピンのような動きが再現しにくい。Hybridでは追加された3本のアクチュエーターが車のXY運動をシミュレートしてくれる。

しかし別系統のアクチュエーターを別々に制御するため、それぞれの応答特性が異なり、スムースな動き難しかったり、周波数特性の違いから共振や干渉などの問題も発生する。機械の不自然な動きがGのスパイクとして現れたりもする。

このようなズレは、正確なシミュレーションの妨げになり設計やテスト結果にも影響し、ドライバーのシミュレーター酔いの原因にもなる。また、2系統のアクチュエーターを協調制御するため、制御する軸が増えるほど(現実の動きに近づけるほど)、シミュレーターの可動範囲が狭くなるという問題もある。Y軸方向の動きにロールを同時に加える制御の可動範囲が狭くなるのが第2世代Hexapodの弱点だ。

第2世代までのドライビングシミュレーターの問題点を改善するために考えられたのが第3世代の「aVDS:advanced Vehicle Driving Simulator」だ。開発元は英国の「AB Dynamics」という会社だ。AB Dynamics(ABD)は、実車を乗せるシミュレーターの他、ADAS機能や自動運転車両の開発に必要なキネティック計測器、各種測定器、ペダルロボット・ステアリングロボット、GST(Guided Soft Target)と呼ばれる自走するダミーカー(フォームボディによりぶつかっても安全)やVRU(Vulnerable Road User:歩行者・自転車など交通弱者)のダミー駆動システムを手がけている。

●aVDSの動作原理と特徴

ABDが新しく市場に投入しようとしているドライビングシミュレーターは、F1チームのウィリアムズの子会社であるWilliams Advanced Engineeringが3年前に開発したフォーミュラーカー用の新型シミュレータープラットフォームを利用している。これをパートナーであるABDが、レーシングドライバーの養成だけでない自動車のさまざまなコンポーネントの開発に応用できる、汎用ドライビングシミュレーターとして開発したものだ。

特徴は、2本のレール上に配置された合計4つ三角形のフレーム構造をレールの動きとともに自在に制御する機構だ。三角形のフレームもレールになっており、シミュレーターの台座はこの上に挟まれるよう載っている。レール1本につき4つのアクチュエーターが取り付けられ、2本のレールの幅、4つのフレームの位置と幅によって台座は任意の動きを再現する。

大きなアクチュエーターを利用するHexapodより素早い動きが可能で、複雑な動きを制御しても可動範囲の狭まりが少ない。制御に対する応答性能がよく遅延(レイテンシ)が少ない。実車を載せることはできないが、240度のスクリーンや制御システム含めてコンパクトなため設置も楽だ。動作音も小さいため、よりリアルなシミュレーションが可能だ。Hexapodや大型のシミュレーターはアクチュエーターの音がノイズとなることがある。

国内にはドームを使った巨大シミュレーターを持つメーカーもある。このような大掛かりなシミュレーターほどの可動範囲はないが、制御の初期応答が速いと内耳の前庭神経はより強いGを感じるので、コンパクトながら加減速の再現の幅で全体のリアルさをカバーしている(Adrian Simms氏 Business Manager Laboratory Test Systems, AB Dynamics)。

●あらゆる開発環境に対応するシミュレーションソフト:rFpro

シミュレーターの性能は、機構の良しあしだけで決まるわけではない。搭載される制御ソフトウェア、とくにスクリーンに投影される画像の制御機能も重要だ。aVDSはrFproという高精細な3Dシミュレーターソフトを搭載している。カメラ、スキャナー、ToFセンサー(レーザー測距)などを搭載した車を利用して、高精細な3D点群データと画像データをベースにリアルな道路や環境を再現できるとともに、主だった対象をモデル生成することもできる。

これらは、天候、昼夜などあらゆる条件、路面の荒れ具合、劣化した白線などを任意に設定できる。建物や標識の影、街灯や信号機の明かり、建物や他の車の反射光、映り込む景色も時間ごとのシミュレーションが可能で、現実の映像とほぼ同じ映像を任意に再現する。

必要なら、路面のミュー、水たまり、温度といったパラメータも設定可能で、ADAS制御のシミュレーションなどに十分に対応しているという。なお、シミュレーターには、ステアリングやペダルなどに振動や反力を制御する機能もあり、路面の凹凸や水たまりに入るときの抵抗感も再現できるという。

シミュレーションのモデルソフトウェアも、専用ソフトではなく、Dymola、SIMPACK、Simulink、AVL-VSM、ASM、dSPACE、veDYNA、CarSim、CarMaker、LMS Amesimといったシミュレーターツール、モデルソフトウェア、さらにC++にも対応している。

●自動運転技術の開発に不可欠となる高精度シミュレーター

このような高性能なドライビングシミュレーターの需要は、ADASや自動運転技術の普及に伴い、大きくなっているという。ABDでもこの4年で従業員数が倍増している。ADASや自動運転は、路上試験も重要だが、その前にテスト走行やシミュレーションを十分に行う必要がある。しかし、テストコースでは再現できる状況が限られてしまう。aVDSのようなリアルなシミュレーターがあれば、テスト・開発工数およびコストを下げることができる。

たとえば、新車の開発コストとテスト項目の関係でいくと、テスト全体の1%程度をシミュレーションで済ませれば500万ドル程度のコストメリットが生まれるという。シミュレーションによる仮想化テストの利点は、小さい範囲での適用でもコスト削減効果が高いことだ。2020年までに80%までシミュレーションによるテストの仮想化が可能という楽観的な見方もあるそうだが、同社は20%程度の仮想化テストで、プロトタイプを作る前に何度もモデル設計を試すことが可能になるという(Chris Hoyle, Managing Director, rFpro)。

2018年にはEuroNCAPにおいて、駐車車両に隠れた歩行者などVRU保護の規制が増えるなど、ADAS技術の要件もどんどん高度化している。高速道路上でレべル3、4以上の自動運転(支援)走行を実現するにしても、シミュレーターによる複合条件のテストは欠かせないし、開発工程でのシミュレーターテストの比率は増えることが予想される。

ABDでは、内には英国本社にaVDSのデモ環境を用意し、日本を含む世界中の自動車メーカー、Tier1サプライヤーに販売を開始していく予定だ。

《レスポンス 中尾真二》

最終更新:7/13(木) 8:45
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