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AIは優秀な人材を採用できるのか

7/13(木) 7:10配信

ITmedia ビジネスオンライン

 ソフトバンクは2017年5月、新卒の採用業務に米IBMの人工知能(AI)「Watson」を導入すると発表した。AI化の対象となるのは、応募者から寄せられたエントリーシートの採点。AIにエントリーシートを読み込ませ、合格点だった場合にはそのまま通過させ、不合格だった場合には、再度、人事担当者が確認した上で合否を判定するという。

【採用活動はどこまで自動化できるのか】

 AIに関する話題が盛り上がっているところに絶妙のタイミングでリリースされたこともあり、各メディアでは「とうとう採用にまでAIが」といったトーンで取り上げられた。

 ただ、今回の取り組みは、そこまで驚くような話ではない。10年以上前の新卒採用活動は、企業側が採用対象となる学生を学校名などで絞っていたので、無数の応募が寄せられるということはなかったが、今日の採用は基本的にオープンに実施するのが原則である。このため、有名企業にはさばき切れないほどのエントリーシートが寄せられることになる。

 こうしたエントリーシートの中には、企業が求める水準に全く達しないのものや、ふざけた内容が記述してあるものなどが多数含まれる。企業の採用担当者にしてみれば、能力や意思のある学生とのコミュニケーションに時間を割きたいと考えるのは自然なことであり、こうした不適当なエントリーシートを排除する作業はできるだけ効率化したい。今回のAI導入はあくまでこうした目的で行われるものだ。

 一世代前のAIは、自然言語の解析能力が低く、一般的な文書の読解に難があったが、近年のAIは格段に能力が向上している。エントリーシートを読み込ませて分析すれば、内容が支離滅裂であったり、文法が無視されているといった判別は、ごく簡単に実施できる。

 もともと機械化に対するニーズが強い業務にAIが導入されただけの話であり、採用の仕組みが根本的に変わるという話ではないのだ。万が一の事態に備え、人が再度、確認するという措置も組み込まれており、大きな問題は発生しないだろう。

●従来の適性試験と大きな違いはない

 企業の採用活動全般にAIが導入されるのは時間の問題といってよい。日用品大手のユニリーバなど、グローバル企業の中にはAIベースの採用を本格化しているところもある。同社では2016年以降、リクルーターなどを使った従来型の採用活動から、AIによる採用にシフトしており、この方法で既に450人以上を採用している。

 エントリーシートを読み込んだAIは、必要な条件に合致する応募者を自動で選抜し、この段階で約半数に絞る。ここを通過した応募者は、指定された12個のオンラインゲームに取り組み、集中力や記憶力などが判定される。

 その後、ようやく面接となるが、この段階でも直接、顔を合わせたコミュニケーションにはならない。与えられたテーマの回答を動画で送信するという「デジタル面接」が待ち構えているからだ。ここを突破するとようやく、人と直接会っての面接となり、最終的な合格者が選抜される。この取り組みは、同社の日本法人であるユニリーバ・ジャパンでも実施されている。

 ユニリーバの取り組みは、採用活動のかなりの部分までAIが支配しているように見える。だが、これも少し冷静になって考えてみれば、従来の採用プロセスと本質的な違いはないことが分かる。

 従来の新卒採用においても、リクルートが開発したSPIに代表される、いわゆる適性検査を課すところは多い。SPIは言語を使った論理的思考を問うものと、数学的思考を問うものの2種類で構成されており、受験者の基礎能力の判定に用いられている。

 ユニリーバの取り組みも基本的にはこうした方法と大差はない。違いがあるとすれば、会場に受験生が集まり一斉に試験を受けるのか、一連のプロセスがWebで完結しているのかという点だけである。

●採用基準もAIが作る時代に?

 ただ、こうした採用活動が普及し、いわゆるビッグデータが蓄積されてくると、状況は再び変化する可能性がある。AIを使って実際に採用された人がどの程度のパフォーマンスを発揮したのか、その成果についてAI自身が学習するようになってくるからだ。

 現在の採用活動は、会社が希望する学生の能力や性格について、採用担当者がはっきり認識していることが大前提となっており、AIは業務の効率化を側面的に支援しているに過ぎない。だが、AIが採用後の結果(入社後のパフォーマンス)について自己学習する段階に入ると、採用基準もAIが作れるようになる。

 そうなると、従来の基準では想像もしなかった人材をAIが推薦してくる可能性がある。そのとき、AIがなぜその人物を選んだのかについて採用担当者は理解できないかもしれない。しかし、AIは過去のデータから入社後に優秀な成績を残せる可能性の高い人材を導き出しているのだ。

 実際、AIを使った囲碁や将棋の世界では、AIがなぜその手を選択したのかエンジニアは理解できていない。また小売店のフロアにおける陳列やスタッフの配置をAIに分析させたケースでも、なぜAIのアドバイス通りにすると売り上げが増加するのか分からないケースがあるという。

 現実には、採用担当者によって選抜された候補者と、AIによって選抜された候補者をうまくミックスする方法が選択される可能性が高く、採用そのものが全てAIに代替されるとは考えにくい。だが、AIによる評価の比重が高まってくることは間違いないし、将来的には全てをAIに任せる企業が出てくるかもしれない。


(加谷珪一)