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「プーチン親衛隊」に強大権限のワケ 軍も配下に置ける大統領令に署名 「隊長は後継者」観測も

7/13(木) 11:15配信

産経新聞

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(64)に直属する治安組織「国家親衛隊」は、ロシア軍を配下に置くこともできる-。プーチン氏がこんな大統領令に署名したことがさまざまな観測を呼んでいる。国家親衛隊は1年余り前、国内の治安維持を目的とする旧内務省軍などを母体に編成され、すでに陸軍を超える36~38万人を擁するとされる。そこに軍をも従属させられるとしたプーチン氏の真意は何なのか。(モスクワ 遠藤良介)

 プーチン氏が5月下旬に署名した国家親衛隊に関する大統領令は、軍の部隊を、任務遂行のために親衛隊の指揮下に入れることができるとした。ロシアでは1990年代のチェチェン独立紛争の際、軍が内務省部隊と共同作戦を行った事例こそあるものの、法律的に明文化されるのは前代未聞のことである。

 国家親衛隊は昨年4月、国内の争乱などに対処する内務省軍や、同省の特殊部隊、機動隊などを省から切り離し、大統領直属に再編する形で創設された。閣僚級の隊長には、プーチン氏の警護責任者を長年務めたビクトル・ゾロトフ氏が任命されており、「革命」やクーデターを警戒するプーチン氏が強力な「私兵部隊」を最側近に委ねたのだと考えられてきた。

 親衛隊の主な任務はテロ対策や治安維持とされ、「過激主義」への対処や不許可デモを鎮圧することも含まれる。組織犯罪への対応や国内武器流通の管理など広範な権限が与えられ、大きな資金源とされる内務省外郭の警備会社も親衛隊に移管された。

 それに加え、今度は、いざというときに軍を配下に置くことができる-とまでされたのである。

 国家親衛隊長の顧問官を務めるバルエフスキー元露軍参謀総長は5月、独立新聞軍事版に発表した論文で次のように記している。

 「ロシアの基本的脅威は外ではなく、内にある。国家親衛隊は、国内情勢を揺さぶり、国家をリビアやシリア、ウクライナのような状態にしようという思慮の足りない行為への警告のために設けられた」

 親衛隊の創設や増強について、大きな理由が明確に語られている。

 中東での「アラブの春」やウクライナでの2014年の親露派政権崩壊といった出来事は、米国が「民主主義の輸出」を狙って糸を引いたものだ。プーチン氏は大まじめにこう考えており、18年3月の大統領選に向けていっそう猜疑心を募らせている。プーチン氏が、反政権運動やデモを武力で鎮圧することを想定し、親衛隊の強化に動いているとの見方は強い。

 実際、今年3月にモスクワなどで行われた反政権デモでは約1300人、6月のデモでは1600人以上の参加者が一斉に拘束され、親衛隊による暴力的行動も多数目撃された。軍事専門家の一人は、「いざというとき、(親衛隊に)自国民への発砲を拒む部隊が出ることも想定し、軍の投入を可能にしたのではないか」と語る。

 最近、軍のトップであるセルゲイ・ショイグ国防相の人気が高まっていることとの関連を指摘する声もある。ショイグ氏は1994~2012年の長きにわたり、非常事態相として災害時の陣頭指揮に立った人物。国防相としても、14年のクリミア併合や15年からのシリア介入を通じて存在感を増し、世論調査ではロシア第2の人気政治家となっている。

 プーチン氏ないしは周辺が「政治の季節」を前に、ショイグ氏や軍の威信低下を狙って“牽制(けんせい)球”を投げたのではないか-というわけだ。逆に、「軍をも配下にできる」とされたゾロトフ親衛隊長については、プーチン氏の後継候補に指名される可能性も指摘されている。

 一部メディアによると、ソ連崩壊後のロシアでは、軍部によるクーデターの試みが4度あったとされる。昨年7月にはやはり強権体制のトルコでクーデター未遂が起きており、プーチン氏がこの面での警戒心を強めていてもおかしくない。

 一方、国家親衛隊の強大化が進むことで気になるのは、内務省やプーチン氏の出身母体、連邦保安局(FSB)の動向である。最近の親衛隊は、「テロの阻止に成功」といったニュース発表を通じ、FSBのお株を奪うような形でも存在感を増している。プーチン氏の親衛隊への肩入れが、今度はFSBなどの反発や、治安機関同士の内紛を招く皮肉な展開も十分にあり得る。

最終更新:7/13(木) 11:15
産経新聞