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NHK「テレビなし世帯」からのネット受信料徴収案にネット民ざわつく ネットのみは1260円?

7/13(木) 16:30配信

産経新聞

 NHKが、「テレビなし世帯」からも受信料を徴収しようとしている。テレビ放送とインターネットの「常時同時配信」(2019年の実施見込み)の受信料を検討していた同局の有識者会議が、「ネット経由の視聴者」を対象とする課金システムを、「テレビ契約」とは別に設ける方針を、答申案の中で示したのだ。同時配信のニーズすら十分につかみ切れていないなかで、視聴者の理解が得られるのか、早くも疑問の声が上がっている。

■ホリエモンの批判に拍手喝采

 「クソだな」

 答申案の内容が明らかになった6月27日、元ライブドア社長で実業家の堀江貴文さん(44)はネット上のニュース共有サービス「NEWS PICKS(ニューズピックス)」に、ただ一言、こう書き込んだ。

 きれいな言葉ではないが、サービス利用者からは喝采を持って迎えられた。同サイトの「Likes(ライクス)」と呼ばれる賛意はたちまちにして700を超えた。

 ネット上では、反対の声が相次いだ。

 「ネット同時配信なんか誰も頼んでない」「押し売りやめてください」-。

 答申案では、具体的な徴収の仕方などが明示されず、「新たな受信料」が登場すると大々的に報道されたこともあり、視聴者の困惑した様子がうかがえた。

■5人の有識者がまとめる

 答申案をまとめたのは、会計学など5人の有識者がメンバーとなるNHK会長の諮問機関「NHK受信料制度等検討委員会」。座長は安藤英義・専修大大学院教授(会計学)で、鈴木秀美・慶応義塾大メディア・コミュニケーション研究所教授(憲法)、山内弘●(=隆の生の上に一)・一橋大大学院教授(経済学)、山野目章夫・早稲田大大学院教授(民放)、山本隆司・東京大大学院教授(行政法)が委員を務める。オブザーバーとして、平松剛実弁護士も参加している。

 答申案によると、新たな受信料は次のようなものが想定されている。

 (1)支払いは世帯単位

 (2)スマートフォンやパソコンを持っているだけでは請求されず、例えば、スマホで受信用アプリのインストールやID登録などした段階での請求を想定

 (3)すでにテレビの受信契約を結んでいる世帯には、追加負担を求めない-などだ。

 答申案では金額は明示されなかったが、新たな受信料は、テレビ放送(地上契約)と同じ月額1260円が検討されているようだ。

■「受信料での運用妥当」「選択の自由尊重を」

 この「テレビなし世帯」からの「ネット受信料」をめぐっては、有識者からもさまざまな意見が出ている。

 ネット受信料の新設を肯定的に捉えるのは、中央大研究開発機構の辻井重男教授(情報セキュリティー)だ。

  「放送と通信の融合はますます進んでいく。テレビとのネットの同時配信もテレビ放送と同様に受信料で運営すべきだろう」

 辻井教授は、2006年に次世代の公共放送のあり方を当時のNHK会長に答申した「デジタル時代のNHK懇談会」の座長を務めた経験を持つ。

 「受信料は、日本の公共放送の質を上げるために、賛助金として払おうという理念だ。NHKには、ある程度のお金をかけて良い番組を作ってもらいたい」

 筑波大の掛谷英紀准教授(映像メディア工学)は、スマートフォンなど受信端末を持っているだけでは徴収しないとする点に着目し、「支払うか否か選択の自由が視聴者側に保障されているのなら問題はない」と指摘する。ただ、「若い世代が中心となるネット視聴者層が、月額1千円以上をかけてNHKをネットで見ようとは思わないのではないか」とも述べる。

 掛谷准教授は、テレビに取り付けるとNHKだけ受信を拒否できるアンテナ用フィルター「イラネッチケー」の開発者で、受信料を強制的に徴収する同局の姿勢に疑問を呈してきた。

 「将来、NHKの受信用アプリが全てのスマホに標準装備されているようなことにならないよう注意する必要がある。いまの受信料におけるテレビがそうであるように、端末を持っているだけで請求されることにならないよう警戒しなければならない」と話す。

■NHKのネット格上げ宣言に 民放幹部「えっ?」

 「将来的に本来業務とする」

 7月4日、総務省では、NHKの同時配信を議論する有識者検討会が開かれた。出席したNHK幹部は、ネット配信の位置づけについてこう表明した。

 NHKの本来の業務はあくまでもテレビ放送で、ネット配信はそれを補完する業務に過ぎない。だが、同局幹部による発言によれば将来、ネットがテレビと同格の「メーンの事業」に格上げされることになる。

 このタイミングでの“宣言”に、テレビ関係者からは「NHKの有識者会議が答申案で打ち出したネット受信料の新設に正当性を持たせる狙いがあるのではないか」という見方も出たが、民放には青天の霹靂(へきれき)で、すかさず反発した。

 TBSの武田信二社長は翌5日の定例会見で「大変な違和感がある」と断言し、次のように続けた。

 「放送におけるのと同様の公平性を、ネットで担保できるのか。あくまで『補完的な業務』という認識だったはずなのに、『本来業務』だと議論もなしに言い切られると、『えっ?』という感じだ」

■総務相が苦言もNHK会長はだんまり?

 今のところ、テレビとネットの同時配信の先行きは不透明だ。

 NHKが実施するには、放送法を改正しなくてはならない。そのためには、国民的な理解が不可欠だが、放送メディアの片翼を担う民放各社のほとんどは同時配信の参入に慎重姿勢を崩していない。

 配信に必要なインフラ整備に莫大な費用がかかるうえ、テレビ放送に比べていまだに広告単価が低いネットに視聴者を奪われると、ビジネスモデルが描けなくなるからだ。

 さらに、NHKが昨年実施した同時配信の試験放送でも、視聴者の利用率は6%にとどまっており、同時配信の確固たるニーズすら見通せていないのが実情だ。

 そのため、見方によっては、NHKが“独断専行”しているかのような印象を与えもする。

 では、NHKは、なぜそれほどまでにネット同時配信の実現に力を入れるのか。

 その背景には、ネットがテレビに代わって存在感を示しつつある「視聴環境の変化」がある。関係者は語る。

 「ネットがテレビに取って代わる未来を見越して、受信料収入の確保を目指したものだといえる」

 このように現状だと、同時配信を進める環境が整わないにもかかわらず、「受信料新設」という財源論が先行しすぎている感は否めない。

 7月4日の総務省の有識者検討会では、高市早苗総務相から、NHKの拙速さをいさめるかのような苦言が飛び出した。

 「(NHKの同時配信が)すでに受信契約のある世帯のサービス向上なのか、テレビのない若者への訴求策なのか、サービスのイメージがまだ具体的に明らかになっていない」

 2日後の6日に行われたNHKの上田良一会長の定例会見でも、同時配信のネット受信料に集中したが、上田会長は具体的な内容に言及しなかった。

 「どう考えているか、今の時点では答えを控えたい」

 反発を強める民放側には「お互いの立場を理解しながらやっていく、というのが私のスタンス」と一定の気遣いを示しつつも、「(民放側と)合意に達しないとやらない、ということになるかどうか…。(民放とは)必ずしも立場が一緒ではないから」などと、19年の同時配信開始への意欲はたっぷりであることを示した。(文化部 放送取材班)

最終更新:7/13(木) 16:30
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