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進む日本の再評価、オープンイノベーションの場はシリコンバレーに

7/13(木) 17:00配信

日刊工業新聞電子版

■夢を共有する者だけが前に進む

 大企業が、ほかの企業や大学と協業しながらイノベーションを生み出すオープンイノベーションへと舵を切っている。しかも、海外のベンチャーなどと組む例が増え、とりわけスタートアップの集積地でもあるシリコンバレーへの注目度はかつてないほど高い。それこそ大企業も中堅・中小もスタートアップも地方自治体も、雪崩を打つようにシリコンバレー詣でにいそしんでいる。

 ただ、現地に行きさえすれば、シリコンバレー企業と関係を構築すれば成功が確約される、という類のものでもない。やはり、入念な準備や心構え、交渉の進め方、さらに日本の本社を説得するワザも時には必要になるようだ。

 6月末に都内で開かれた「シリコンバレー・ニュージャパン・サミット2017東京」。シリコンバレーのベンチャー企業との連携を進めたい大企業の関係者を中心に400人以上が会場に詰めかけた。11月末に60社以上のシリコンバレーのスタートアップをスタンフォード大学に招いて開催するイベントのプレ大会の位置づけ。初回となる昨年は、スタンフォード大での会合に日本から約200人が参加したという。

 「現在のシリコンバレーでは日本が再評価されている。今度はシリコンバレーが日本の大企業、中堅・中小企業、スタートアップのアジャスト(適合)する場となり、日本の強みを生かせるのではないか」。スタンフォード・シリコンバレー・ニュージャパン・プロジェクトのプロジェクトリーダーを務めるスタンフォード大アジア太平洋研究所研究員の櫛田健児氏は、同サミットの講演で、シリコンバレーをオープンイノベーションの相手に選ぶ理由をこう説明する。

 シリコンバレーとのオープンイノベーションに熱心な企業の一つが富士通。富士通サニーベールキャンパスの一角に支援施設となる「オープンイノベーション・ゲートウエー(OIG)」を2015年開設。これとは別に国内外のスタートアップとのマッチングも始め、サニーベールを本拠地とするクラウドセキュリティーの米ソーハ・システムズなどとの協業を果たしている。

 登壇した富士通戦略企画統括部シニアディレクターの徳永奈緒美氏は、マッチングがうまくいっている要因として、「協業の検討期間を3カ月と区切って集中的に検討したこと」をまず挙げる。事業部の幹部にコミットして参加してもらいながら、事業マッチングを推進するサポートチームを日本側、北米側それぞれに設置するなど工夫も凝らしている。

 オープンイノベーションでも「ダントツ」戦略をとるのがコマツ。ドローンで建設現場を空撮し、測量やデータ解析を行う米スカイキャッチ(サンフランシスコ)とは、2014年8月の協議開始からわずか3カ月で両社の提携を発表。翌月の15年2月にはICTを活用した「スマートコンストラクション」への導入を始めている。

 同社CTO室技術イノベーション企画部長の冨樫良一氏は、「決定権を持っている人の動きは速い。コマツは創業から96年、やるとなったら迷いはない」と話す。現場責任者への権限委譲が、垂直立ち上げのスピード経営やイノベーション創出につながっているようだ。

 異色なのがパソコンソフトの販売・開発を手がけるソースネクストだろう。松田憲幸社長自身が、5年前からシリコンバレーのパロアルトに住んでいるからだ。理由は簡単。米国での商談でも1回でまとまるケースは少なく、権限を持つ人間が現地に住んでしまった方が手っ取り早い。さらに、アップル、グーグルはじめ株式時価総額で世界上位の企業が集積していることから、「シリコンバレーに住まないと成功はない」と確信し、家族と一緒に移り住んだ。

 それどころか「商談相手を招いてホームパーティーを始めたら、ディール(契約)が決まりだした」(松田社長)。米国のビジネスマンはビジネスライクと思われがちだが、大事なのは人間同士の信頼関係の構築。シリコンバレーとの密接なつながりが、同社に活力をもたらしている。

 『シリコンバレー発アルゴリズム革命の衝撃』の著書もある櫛田氏は、「何々銀座が本物の銀座を超えられないように、何とかバレーをいくら作ってもシリコンバレーの複製は無理」としつつ、「ワーストプラクティス(最悪の慣行)」を避けてシリコンバレーを活用することの重要性を説く。

 代表的なワーストプラクティスは、目的がはっきりしない表敬訪問や情報交換を装った一方的な情報収集。シリコンバレーではこうした行為が嫌がられ、日本企業による表敬訪問が何社も続くと、「日本企業に会ってくれなくなる」(櫛田氏)という。

 富士通の徳永氏も、恋愛と同じように「夢のない人」「あいまいな男」がシリコンバレーでは嫌われることから、未来を語り、凛々しく決断するようアドバイス。繰り返しになるが、コマツでは目的意識とスピード感を持った提携協議、ソースネクストでは社長自らが現地で信頼を勝ち得ることで、ビジネスの好循環を作り出している。いずれも、これからオープンイノベーションを進める企業にとっては有効なヒントとなる。

 一方で、技術の概念実証やプロトタイプづくりを行うホンダ系の独立会社として、17年4月にマウンテンビューに新設されたホンダR&Dイノベーションズ。リクルート出身の杉本直樹CEOは、ITでは短期間に技術が陳腐化することから、動きが速いスタートアップのスピードに合わせることと、本社の幹部に大企業とは全く異なるスタートアップの実情を理解してもらうことに腐心したという。

 その上で、マインドセットを変えるには「千の言葉よりもモノで見せる。日本企業のカルチャーを突破するには、それが大きなステップになる」(杉本CEO)と明かす。

 「NIH(ノット・インベンテッド・ヒア=ここで発明されたものではない)症候群」と言われるように、かつては自社技術にこだわるあまり、他社との協業に後ろ向きな日本企業も多かった。反対に、複数の主体が協力するオープンイノベーションには、ここも、あちらもない。夢を共有する者だけが前に進む。