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軽貨物版Uber「PickGo」が日本の物流を変える

7/14(金) 7:00配信

アスキー

軽貨物版Uberともいうべきサービス「PickGo」を運営するCBcloud株式会社代表取締役CEO 松本隆一氏に、日本版物流ラストワンマイルの現状を聞いた。
 いくらサイバー空間上でEC市場が拡大しようとも、最後はリアルな「モノの移動」が伴う。日本における配送の「ラストワンマイル」をめぐる状況に課題は多い。Amazon.co.jpの利用者拡大が配送の負荷を上げ、宅配事業者が悲鳴を上げているのは皆さんもご存じのことだろう。「軽貨物の輸送問題」をクリアしなければ、これ以上のEC市場拡大は困難なのかもしれない。
 
 一方で、軽貨物を取り扱うドライバーは「個人事業主」が多いのだという。だが、中小企業のドライバーが6万3000業者存在し、14.3兆円の市場が存在するにもかかわらず、明るい話が出てこない。ここには「アナログ的、属人的な問題」がある。
 
 そんな状況下、軽貨物ドライバーと荷主を「マッチング」させることで解決できるのではないかと考える企業がある。それが軽貨物版Uberともいうべきサービス「PickGo」(ピックゴー)だ。旧サービス名「軽town」として、2016年6月より運営を行っているCBcloud株式会社代表取締役CEO 松本隆一氏に、日本版物流ラストワンマイルの現状を聞いた。
 

想像以上にアナログな世界「軽貨物輸送」
 「PickGo」は、荷主とドライバーをマッチングするためのプラットフォームだ。構想の背景には、軽貨物を取り扱う小さな企業を営んでいた松本氏の義父の存在が大きかった。松本氏自らも手伝った経験から、その状況を「アナログ的」と表現する。
 
 「ドライバーと配送車を集める、ドライバーが報告する、荷主からの連絡を受けるなどが、すべてFAXと電話で行なわれる。いくら社内システムなどを効率化しても、最後はアナログ。そして、電話はなかなかつながらない。1台の配送車をつかまえるのに30回電話することもざら。業界的にこれが普通」だと、松本氏は振り返る。
 
 軽貨物のドライバーは「個人事業主」として活動している人がほとんどで、松本氏の義父も多くの個人事業主と”つながる”ことで組織を作っていた。そしてピラミッドの上位構造である大手配送業者から、急ぎの依頼電話がかかってくる。もちろん、個人事業主という立場上、「割のよくない仕事」は断る権利がある。だが、仕事を選択できる状況がありつつも、大手配送業者が搾取しているととられかねない契約を結んでいる事業主もおり、多くの「ロス」があり、松本氏も多くの苦労を見たという。
 
 そしてこの状況はいまも変わらないという。ウェブの掲示板を経由して仕事の発注/マッチングを行なっているドライバーもいるが、多くはいまでも電話中心の連絡に頼っており、ドライバー全体の40%が50歳以上で、高齢化も進んでいることからスマートフォンもあまり普及していない。
 
 その結果、荷主とドライバーのマッチングには時間がかかり、配送時間にも影響する。さらにドライバーの報酬も低く、典型的な下請け構造によるロスが根強く残る。典型的な「3K」であるため、魅力に欠け、若手ドライバーもこの世界になかなか入ってこない。負のスパイラルが回り続けているいっぽうで、EC市場だけが拡大しているのが現状だ。
 
 松本氏の義父も、24時間電話をかけ続け、疲労困憊(こんぱい)の中にあっても「ドライバーの役に立ちたい」という思いがあったという。松本氏はその姿を見て、スマホとITの力で変革を起こせないかと考える。そのときの思いは、手書きの企画書という形で現実化する。「軽town」として始まるサービスがPickGoの原型だ。
 
軽貨物の分野なら、Uber以上のものが日本でできる
 流通業界の構造を変えなくてはならない――CBcloudはミスマッチを改善すべく、物流のラストワンマイルを解決するプラットフォームとして「軽town」を2016年6月よりスタートした。そのお手本ともいうべき構造は、アメリカで拡大していたシェアリングサービスの「Uber」だ。
 
 Uberは既存のタクシーよりも3~4割安い料金で、ドライバーだけでなく利用者にも評価制度がある。ドライバー・利用者それぞれが「品質」を考えるようになり、どんどんよいサービスが形作れる。
 
 これを手本に「PickGo」は、軽貨物版のUberを目指す。軽貨物を運ぶドライバーに登録してもらい、荷主が登録した仕事を、ドライバーがピックアップしていく。荷主は利用料の10~15%程度を、プラットフォームである軽townに手数料として支払う。それでも、ドライバーに入る収入は「これまでの倍以上」となるという。松本氏は、実績として月額およそ70万円を稼ぐドライバーも出てきていると述べる。
 
 PickGoのポイントは、「マッチングのスピード」にあるという。たとえばビールをレストランや居酒屋に届ける、建築現場へ足りなくなった部品を届けるなど、ほとんどの場合は急いで荷物を届けることが求められている。従来は電話を駆使しドライバーを探すということをしていたが、空いているドライバーを見つけるまで電話をかけ続け、結果として30分以上の時間がかかっていた。その課題を、PickGoでは「15分以内に決まる」という実績で解決する。
 
 「配送が行なえないということが、荷主の最も大きなリスクだと考えている。そのため、配送ニーズができたときに15分以内でマッチングできるということで大きな評価をいただいている。荷主にはコストもリスクも下がって早く届けられるというメリットを、そしてドライバーには給与水準を上げ、限られた時間を有効に使えるというメリットを提供できる」(松本氏)
 
 軽town時の実績で、ドライバーからの声も温かなものが多いという。「いい案件が選べるという声が多いだけでなく、荷主から感謝の言葉やお褒めの言葉が『ログ』というかたちで残ることがうれしいと言われた」(松本氏)。このように受け入れられた秘訣として、松本氏は細かな言葉使いに「ドライバー用語」を使ったこともポイントだと述べる。「『分かる人が作っている』と思われるように、ドライバーなら当たり前に使う言葉をいれている。一方で、PickGoのスマホアプリは、スマホに慣れていない人にでも使えるようにしている」
 
 PickGoでは、プラットフォーム上での直接マッチングによるコスト削減のほか迅速な配送マッチング、さらにアプリから現在位置と到着予想時間がわかるといった点も含めて、従来からの圧倒的なコストダウンが目指されている。
 
ドライバーを魅力ある仕事に変え、若い人たちの選択肢を増やす
 マッチングの速さとコスト削減が狙えるため、軽貨物の現状を変える可能性を見せるPickGoだが、松本氏の狙いはさらにその先にある。個人事業主によるドライバー市場の変革だ。
 
 PickGoは現在、登録ドライバーが月に200台のペースで増加、配送の依頼数も直近6ヵ月で10倍になるなど、順調な伸びを示している。88%の依頼も15分以内でマッチングする。また登録済みの個人事業主は1300名にのぼる。しかし、松本氏はまだまだドライバー数が足りないと考えているという。
 
 個人事業主のドライバーは、これまでであれば大手、中小の企業と契約することで仕事をもらうというスタイルも多かった。しかしほとんどの場合は大手企業に有利な契約になりがちで、このままでは魅力が少ない。大手企業と契約を結ぶと、ほかの仕事を受けられないリスクも大きい。これは、流通の担い手が減っている背景のひとつでもある。しかし、PickGoのような“中立的なマッチングシステム”が存在していれば、専業のドライバーではなくても「空いた時間を軽貨物運送に使う」という働き方もできるはずだと松本氏は考えている。
 
 実際、日本における軽貨物運送を行なうためには、陸運局に申請し、届出を出す必要がある。しかしこれは約30分程度で完了する作業で、自動車と運転免許、そして申請さえ完了していればできる仕事なのだ。ここには日本において規制で展開が遅れるUberなどのような、法的な問題もないという。「このようなサービスがあれば、空いた時間だけドライバーになるなど、軽貨物を運ぶドライバーの枠を大きく拡げられる」(松本氏)。
 
メンターとしてPickGoを支えるGoogle
 そしてPickGoを運営するCBCloudには、強力なパートナーが後ろを支えている。それはGoogleだ。同社はGoogle AdWordsにおけるスタートアップ支援プログラムとしてPickGoを支えているだけでなく、メンターとしてさまざまな支援を行なってきた。
 
 Google日本法人のマーケティングマネージャーである佐川大介氏は、2016年春に開催されたKDDI ∞(ムゲン)ラボのイベントで松本氏と出会い、メンターとなることを決めた。マップやドライバー募集など、グーグルの各種サービスとの親和性が高いことだけでなく、今後は収集したデータの機械学習処理や、ドライバーのための最適ルート検索、ウェブサイト/アプリのUI、UX支援など、多くの部分で実装支援をする予定とのことだ。
 
 サービスから1年を経て、多くの実績も積み上がった。最新データとしては、発注してからマッチング、そして積み荷が完了するまでの平均が「63分28秒」になった。荷主側もこの数値を評価している。「これまでは運べないリスクを考え、最大利用時を考えたトラック/ドライバー確保をしていた企業も、呼びたいときに呼ぶスタイルに変えることができ、コストメリットも出てくる」と松本氏は述べる。
 
すべてのドライバーに、そして義理の父にささげるサービスを
 普段街中で見過ごしている黒地に黄色ナンバーが、国内の流通を担う個人事業主だ。だが、その背景には、一筋縄ではいかない業界構造があった。
 
 「物流は波動を描く、予測がきかない部分」と松本氏は語っており、ECやデジタルマーケティングが発達した現在でも、”配送できないリスク”は依然として存在するという。だが結局そのために下請けによる多重構造で割を食っていたのは、ドライバーであり配送業者側だった。
 
 またこれまで、「宅急便で送るにはコストが高く、自分でレンタカーして運ぶには煩雑すぎる」といったニーズにおいて、配送の選択肢があまりに少なかった。「PickGO for Personal」として8月9日よりCtoC向けに単身引越し需要の獲得に乗り出したのも、そういったこれまで埋められてこなかったニーズに対応する形の1つと言える。
 
 目下、アマゾンとヤマト運輸などをめぐる配送業者不足など、わかりやすい業界課題も噴出している。既存の配達業者以外の構築関係の中で、CBCloudが連携する可能性も多いにあるだろう。
 
 業界、ドライバー、さらに外部の力を借りて、CBCloudは日本の配送業を変えるさらなる未来を描いている。シンプルなマッチングサービスに見えるが、従来のプロだけではない、地域のドライバーの数も一気に増えるような将来像も期待したい。
 
 PickGoの今後の展開は「B2C」だという。そのために必要なものとして、松本氏は「マーケティング活動」「開発」「人員」そして「営業」を挙げる。グーグルのデジタルマーケティング技術も活用し、スピードをさらに加速させる営業戦略を考えているという。
 
 さらに、松本氏は「ドライバー」という仕事をさらに発展させたいとも考えているという。「たとえばモノを運ぶだけじゃなくて、家で困っているとことを手助けするビジネスにも展開ができる。スーパーでまとめ買いしたモノを、家まで運んでくれるようなドライバー。古い団地では高齢化が進み、スーパーに行くのも大変。たとえばそういう場所でもグループを作って、みんなの買い物をまとめて配送してくれるドライバー。街にそういうドライバーがあふれればうれしいのでは」(松本氏)。
 
 「ドライバー」のひと言で表現されていた人たちの働きを知る松本氏、そしてこの業界に携わるきっかけを作った義父は、ドライバーたちのパーソナリティーや暖かみ、苦しいときに助けられたことを忘れていない。50人ほどのドライバーを束ね、不眠不休でドライバーたちのために働いた義理の父は、サービスが開始する前にこの世を去った。「ドライバー第一で考えたこのサービスをみたら、ドライバーたちのために働いた義理の父も、きっと喜んでくれているんじゃないかと」(松本氏)
 
 ごく近い将来、ITの力で「モノを運ぶ」という、絶対になくならない作業の課題が解消されていくはずだ。「すべてのものには、物流というコストが乗っている。でも、そのことに私たちはあまり意識をしていなかった。そこに、PickGoは注力したい」
 
●CBcloud株式会社
2013年10月設立。軽貨物クラウドソーシング事業を展開。軽貨物分野から一般貨物分野、BtoBからBtoCまで幅広い分野で展開。
2016年9月にVCより資金調達を実施。今後、シリーズAでの追加調達を予定。
スタッフ数は2017年6月時点で13名。エンジニアおよび営業職を募集中。
 
 
文● 宮田健 聞き手・編集●北島幹雄/ASCII STARTUP 撮影●曽根田元

最終更新:7/14(金) 11:59
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