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利益優先?鉄道愛? 鉄道会社の株主総会報道を俯瞰する

7/14(金) 7:10配信

ITmedia ビジネスオンライン

 これは、いわゆる“ほのぼのニュース”かもしれない。

 6月13日に開催された阪急阪神ホールディングスの株主総会の質疑応答で、男性株主が「急行用電車の色を変えるつもりはないか」と要望した。オレンジ色が気に入らないという。株主総会を報じた産経新聞の記事によると「気分が悪いので口にも出したくない球団の色を連想する」からだという。

【かつては「赤胴車」だった8000系】

 球団というところでお察しの通り、阪神電鉄の子会社に阪神タイガースがある。しかし、急行用電車はオレンジ色、これはすなわち読売ジャイアンツのシンボルカラーだ。ジャイアンツは日本で最も歴史あるプロ野球球団、タイガースは2番目。両球団は宿命のライバル。阪神巨人戦といえば数々の名勝負を生み出してきた伝統の試合だ。

 阪神甲子園球場で阪神巨人戦が開催され、巨人が勝ち、阪神が負けると、阪神ファンは失意のうちに帰宅する。その時に乗る電車が、憎き巨人軍の色。運行する会社は阪神電鉄だ。これは裏切りに等しい、とタイガースファンは感じている。プロ野球の人気が低迷していると言われる中、これほどまでに野球を愛するファンがいる。そこにまず敬意を表したい。

●阪神電鉄の色変更の理由

 これに対する会社側の回答も面白い。

「これまでにも同じようなご意見はあった」と前置きした上で「次期リニューアルのときに検討、議論したいが、急行系車両の色は現状のまま」と回答した(2017年6月13日産経新聞)。

 これまでにもあったのか……。詳しい情報を探す。野球太郎というサイトによれば、株主総会にタイガースのユニホームを着たファン株主が現れる。タイガースが不調だと辛辣(しんらつ)なダメ出しが入り、監督やコーチの退任要求など人事まで言及するらしい。今年はタイガースが好調で、辛辣な意見は無かったという。しかし、上記のように電車の色にダメ出しが入った。

 やり玉に挙がった車両は9300系電車と8000系電車だ。どちらも白い車体で、正面と側面の窓周りがオレンジ色である。9300系は2001年に登場した。8000系は当初、クリームと赤(バーミリオン)で塗装されていたが、02年からのリニューアルによって、順次9300系と同じオレンジに塗り替えられた。

 もちろん、阪神電鉄に「ジャイアンツと同じ色」という意図はなかっただろう。もともと、阪神電鉄の電車の色は、各駅停車用がクリームと青、急行用はクリームと赤だった。塗装変更のきっかけは1995年の阪神淡路大震災だったという。各駅停車用の新型車両を導入するときに、青から水色を主体とした新塗装に変更した。沿線に明るいイメージを与えたと話題になった。ならば次は急行用電車も、というわけで、赤色の車両をより明るくするために、オレンジ色を採用した。

 ちなみに、同じ急行用電車でも近鉄に直通する車両はイエローが採用されている。つまり、阪神電鉄の車体の色は3種類になった。電車の色を明るく、沿線の雰囲気を明るく、と配慮した結果、ジャイアンツ色になってしまった。

 興味深い点は、この男性株主だ。電車の色を変えるとなると、それなりのコストが発生する。つまり、余分な費用を会社に負担させようとしている。コストが増えれば利益も減るわけで、配当も減額になるかもしれない。株主の立場からすると、利益を上げて配当を増やしてほしいわけで、コストを増やせという提案は株主の本来の立場を逸脱している。

 それでもこの株主は、ライバル球団の色の電車に乗りたくなかったのだ。彼が会社に求めたものは、利益ではなく、阪神タイガースの活躍だった。

●JR東日本の株主「JR北海道に支援を」

 6月23日に開催されたJR東日本の株主総会では「JR北海道を支援すべきではないか」という質問があったと東洋経済オンラインが報じている。JR北海道は一連の事故と不祥事に由来する経営悪化状態にある。今にも路線の半分を整理しようという状況だ。JR東日本はJR北海道に対して人材派遣、新型気動車の共同開発、共同企画きっぷ、大人の休日倶楽部などの提携を実施している。

 かねてより、JR東日本とJR北海道を合併してはどうか、という声も上がっていた。ネット上でささやかれるだけではなく、2月28日の参議院予算委員会で麻生太郎財務相がアイデアの1つとして言及していた。麻生氏の発言は、JR北海道の努力不足を挙げる新聞記者は経営をやったことがないという批判の上で出ている。

 しかし、麻生氏こそ株式会社の仕組みを理解しているだろうか。赤字のJR北海道との合併は配当低下を招く。黒字のJR東日本の株主にとって了承できる話ではない。しかし、ここにきて、株主側から支援を求める声が上がっている。この株主も、配当利益より鉄道存続を求めている。もっともJR東日本ほどの会社になれば、さまざまなポジションからの発言がある。株主総会の発言権、提案権を得るために株主になったという人もいるだろう。

 私もJR東日本の上場時に1株株主となって、後学のために株主総会に出たことがある。少数意見については「参考にいたします」で締められて終わってしまった。そんな質問の1つかもしれない。しかし、全ての株主が利益優先というわけではない、ということも分かった。鉄道を愛する株主、鉄道の可能性を信じる株主も少なくない。少数意見にも真摯(しんし)な態度で向き合ってほしい。

 東洋経済オンラインではもう1つ、西武鉄道の株主総会も報じている。西武鉄道も阪神電鉄と同じく野球チームを抱えている。さすがに電車の色を塗り替えてという話はなかったようだ。興味深い話として、「池袋線ばかり設備投資が行われている」と、新宿線沿線住民が不満を表している。池袋線は副都心線に乗り入れるが、新宿線は都心に直通しない。羽田、成田空港アクセスが不便などの意見が出た。

 大手私鉄は車内ポスターなどで沿線住民の株主参加を呼び掛けている。株主優待も無料乗車券だから、その恩恵を受けられる沿線の人々にとって、株主になることは魅力的だ。会社側にとっても、株主総会という形で利用者との意見交換ができるという状況は、恵まれた環境と言えそうだ。外資系ファンドより、沿線住民の方が心強い味方。西武鉄道は身をもって体験している。

 この連載の前回の記事では、小田急電鉄の株主総会で保存車両の行方と鉄道博物館建設の質問が出たと書いた。コストが掛かる案件を株主が提案するという意味で、阪神電鉄やJR東日本の株主に通じている。しかし、そのコストを稼ぐために頑張れ、という応援の意味もあるだろう。

●株主から路線整理を突き付けられる

 締めくくりとして、JR九州とJR北海道の事例を紹介する。JR九州は16年10月に株式上場して以来、初の株主総会だった。鉄道部門が赤字で、不動産など非鉄道事業の好調によって上場を果たしただけに、利益を求める株主は鉄道に冷たい。6月24日の佐賀新聞によると、不採算路線については「第三セクター化を検討すべき」という意見があったという。

 こうした動きを予見したのか、JR九州の沿線自治体がJR九州株を購入し、株主として関与する動きがある。2月3日の産経新聞によると、日南線沿線の宮崎県日南市は3800株を取得、宮崎県串間市もJR九州株取得のために1000万円を予算化した。吉都線沿線の宮崎県えびの市も1000万円を予算化。高原町も続く。

 JR九州に関して言えば、非鉄道事業が成功した理由は、鉄道事業に真摯に取り組み、沿線地域から信頼を得たからだと私は思っている。赤字でも、地域のために精いっぱいの努力をする。その姿勢こそがJR九州の礎である。会社側が鉄道を存続したいと考えているならば、それを株主に説明する責任がある。

 JR北海道は非上場で、全株式を鉄道建設・運輸施設整備支援機構が保有している。6月23日の北海道新聞によると、株主として、路線見直し問題を着実に、スピードを上げて進めるよう会社側に求めた。こちらも株主から鉄道事業の縮小を求められた格好だ。

 本来、株式会社とは、事業に対して賛同した出資者が資金を提供し、成功報酬として利益の分配を受ける仕組みだ。しかし、証券取引市場の登場と発達によって、事業に関心がなくても利回りを重視して株式投資が行われるようになった。バブル景気のころからそれは顕著になったように思う。資金の流動化という意味では良いかもしれない。しかし、事業に理解のない株主によって、事業の目的に合わない株主要求がまかり通る状態も不幸だ。

 鉄道事業の事例に絞っただけでも、企業と株主の関係を考える良い機会となった。人工知能(AI)による証券取引が広まったいま、鉄道事業を理解する株主の役割は大きい。

(杉山淳一)