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「ツール・ド・フランス」を究極の臨場感で楽しむ方法を考えたら、一緒に走るしかなかった

7/14(金) 8:00配信

Impress Watch

 7月1日から23日まで、サイクルロードレースの最高峰「ツール・ド・フランス 2017」が開催されている。ドイツを起点にフランスの北部から南部を巡り、最後に首都パリへと至る全21ステージ、3,500km以上を走破する大会だ。

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 このツール・ド・フランスの中継を日本で放送しているのが「J SPORTS」。BSデジタル放送やCATVで見ることができる有料チャンネルだが、ツール・ド・フランスを含むそれらさまざまなスポーツイベントは「J SPORTS オンデマンド」でインターネットライブ配信も行なっている。

 J SPORTS オンデマンドによるツール・ド・フランスのライブ配信の見どころは、「マルチ画面」だ。複数のカメラ映像を好きなように切り替えて視聴でき、選手を背後から追いかけるバイクカメラ視点の映像をずっと眺めることもできる。

 これを利用すれば、お茶の間でフランスの景色を眺めながらVRサイクリング、みたいな楽しみ方ができるのではないか……。筆者はさっそくリビングのテレビ前に通勤用自転車とサイクルトレーナー(固定式のローラー台)を置き、選手らと一緒にバーチャルツール・ド・フランスという名の地獄トレーニングに出かけることにしたのである。

■月額1,800円で、PC、スマートフォンなどで視聴可能

 最初にJ SPORTS オンデマンドがどういうものか、おさらいしておこう。

 J SPORTS オンデマンドは、国内外のスポーツ中継を、Webブラウザやスマートフォン、タブレットアプリから視聴できるオンデマンド ライブ動画配信サービス。ツール・ド・フランスをはじめとするサイクルロードレースに加え、ラグビー、モータースポーツ、野球、ウィンタースポーツ、バドミントンなど、多数のコンテンツが用意されている。

 各コンテンツジャンルごとに契約して視聴する形になっていて、サイクルロードレースについては月額1,800円(25歳以下は月額900円)で見放題となる。もちろん現在はツール・ド・フランスがメインコンテンツとなるだろう。7月23日までのほぼ毎日、19時前から24時過ぎの深夜までレースの模様を伝えるライブ配信が行なわれ、レースの休息日となる7月10日、17日とレース終了後の24日も、ハイライトをまとめた番組がライブ配信される。

 ライブ配信の一番の見どころが、最大7つのカメラ映像を切り替えて見られる「マルチ画面」機能だ。スマートフォンやタブレットのアプリでは、それらのカメラ映像をスイッチングする国際映像の中継画面1つだけしか見られないが、PCのWebブラウザでは、その国際映像のメイン中継画面に加え、さらに6つのカメラ映像から自由に選択して視聴できる。

 同時に見ることができるのは7画面中最大4画面まで。4つ並べて見るのもいいし、気に入った画面を1つだけ拡大してフルスクリーンで再生することもできる。メイン中継画面以外は多くが選手らと並走するバイクから撮影されたもので、選手の視点に近いアングルからスピード感のある映像を楽しめる。

 スマートフォン・タブレットアプリはChromecastに対応し、Chromecastを接続したテレビなどにライブ動画を映し出せる。PCでも、Chromeブラウザで視聴している場合はChromecastに映像をキャストできる。複数画面を同時再生している時はそのWebページ全体が、1つの画面のみ大きく表示している場合はその画面のみが、それぞれChromecastにキャストされる仕組みだ。

 ただ、冒頭で「VRサイクリングみたいな楽しみ方ができるのでは」と書いたけれど、実際のところ、現在は360度パノラマ映像は提供されていないし、画面を左右2分割してVRスコープで立体視するコンテンツもない。唯一、VRスコープで見られるコンテンツがあるとすれば、YouTubeで無料配信される休息日のハイライト番組くらいだろう。スマートフォン向けのYouTubeがもともと備えているVR表示機能を使うことで、一応立体視は可能だ。

■見て見ぬフリをしていたレース時間

 それでも、ツール・ド・フランスの全ステージをもれなく、PCだけとはいえ最大7画面で視聴できるというコンテンツの充実度はすばらしい。これを自宅で、もっと臨場感たっぷりに味わえないだろうか。そう考えて今回挑んだのが、ライブ中継の間、ディスプレイの前で筆者自身も自転車をこぐ、バーチャルツール・ド・フランス体験である。

 簡単に言えば、リビングのテレビ前にサイクルトレーナーを置き、そこに自転車をセットしたうえで、PC版のJ SPORTS オンデマンドでライブ配信を受信する。それでもって、映像をChromecastにキャストしてテレビ画面に表示させつつ、とにかくひたすら自転車をこぎまくるというものだ。

 7画面あるうちから、選手達と並走するバイクの映像を選んで目の前に表示させておけば、まるで自分がレースの舞台であるフランスの地を走っているような気分になれるはず。それに、一流の選手達と一緒にサイクリングができるなんて、なんてすばらしいことだろう!

 しかし、筆者は1つ、重大な事実を見逃していた。いや、知ってはいたのだが、「フランスの地を自転車で走(ったつもりにな)りたい」という気持ちが強すぎて、あまり深く考えないようにあえて目を逸らしていたのだ。

 ツール・ド・フランスのライブ中継が夜19時前後から日が変わる深夜までやっている、ということを(ステージによって開始・終了時刻は前後する)。

 そう、選手のみなさんは5時間以上ぶっ通しで走り続けているのだ。ツール・ド・フランスは全21ステージあるが、1日に走る1ステージの距離は最大で200kmを超える。それを平均時速40km前後で走り通すのだから、本当にとんでもない体力だ。J SPORTS オンデマンドでは、その5時間以上をつぶさに、一切の省略なしで中継する。単に視聴するだけならこれほどうれしいエンターテインメントコンテンツはないが、自転車をこぎながら見るとなると話は別である。

 とはいえ、「最初から最後まで自転車をこぐ必要はない」のだ。あくまでもこれは筆者が勝手に自転車をこいでツール・ド・フランスっぽさを体験するだけなのだから、自分の好きなタイミングでやめてもいい。ところが、実際に始めてみるとそうも言っていられなくなる。詳しくは後述するが、一度始めるとやめられない不思議な魔力(事情)がこのバーチャルツール・ド・フランスにはあるのだ。

■長時間トレーニングに万全の備えを

 そんなわけで、おそらくは長丁場になるバーチャルツール・ド・フランス。これにチャレンジするにあたってはいくつか注意点がある。1つは、今回に限らず室内でサイクルトレーナーを使う際の共通の問題、熱中症だ。屋外でのサイクリングなら走り続けることで走行風を浴びることになり、ある程度体を冷やしてくれるものだが、室内では当然ながら移動することがなく無風なので、そのままでは尋常ではない量の発汗にさらされる。

 そのため、エアコンをガンガンに効かせておく。さらにサーキュレーターを設置し、自分に向けて強風を浴びせることで、熱中症防止効果が高まるだけでなく、走行風を再現することによる臨場感アップも狙えるだろう。

 熱中症防止という意味では、水分補給も重要だ。特に今回のような長時間トレーニングでは、あらかじめ身の回りに適当な量の水分補給用ドリンクを用意しておきたい。今回筆者は夏の屋外でスポーツする際によく携行する、粉末状のアクエリアス(1リットル分)を2リットルの水で割ったものを作り、トレーニング中にすぐに手の届く場所に置いた。

 そして、自転車レースなどのロングライドでは、食料補給も忘れてはならない大事な要素。ツール・ド・フランスでは、選手がレース中に補給食を口にする姿をよく見る。走行中でも適切にエネルギー補給しないと、いわゆるハンガーノック(長時間のスポーツ時に、極度の低血糖状態になること)になって体が動かなくなってしまうからだ。室内トレーニングでも、長時間になるなら食料をどうするか考えておく必要があるだろう。

 今回筆者が用意したアイテムは以下の通りだ。

Chromecast Ultraを接続したテレビJ SPORTS オンデマンド再生用PC通勤用クロスバイクミノウラのサイクルトレーナー汗拭き用のタオルBluetooth接続のハートレートモニターBluetooth接続のケイデンス・車速センサーiPhone(Wahoo Fitnessアプリ)ドリンク(2リットル)晩ご飯とデザート
■純粋にレースを楽しめるのはやはりメインの中継映像か

 チャレンジした当日、J SPORTS オンデマンドのツール・ド・フランス 第9ステージの中継は、レーススタート時刻の目安となる19時より前から始まった。選手達が隊列を組んでウォームアップを始め、スタート地点を通過するのは19時ちょうどか、それより少し前だ。なので、当日は18時過ぎからリビングで準備を始め、18時50分にJ SPORTS オンデマンドのライブ配信を受信。スタートに間に合うよう18時55分に乗車し、こぎ始めた。第9ステージ、高低差の大きい4つの峠を超える180kmあまりのコースだ。

 最初に選んだのは、選手の後ろ姿を捉えるバイクからの映像。バイクのタンデムシートに座ったカメラマンが、運転している人の頭越しに撮影することが多いので、視点としては通常よりも高いのだが、十分に「選手たちと一緒に走っている感」が出る。

 欲を言えば、よりいっそう景色が楽しめるようにもう少し画質が高ければ……と感じる。没入感という意味ではディスプレイサイズの方が影響は大きそうだが、いずれにしても圧縮率の高めの画像は精細さに欠くため、「フランスの雄大な景色のなかにいる感覚」といったリアリティはなかなか伴わない。

 また、しばらく自転車をこいでいて感じたが、絶対にバイクカメラの映像がいい、ということもない。ずっと同じカメラからの映像は、確かにその場の状況を克明に伝えてくれる臨場感はあるが、ずっと進行方向を映し出しているわけではなく、時には後方を向いたり、カメラマンが他の作業をしているのか、あるいは休憩しているのか、レースとは関係のない地面を映したりすることもある。トンネルに入れば電波が届かないのか映像が途切れることもあり、そういう意味でも、必ず没入感が得られる、というわけではないのだ。

 その点、スイッチングのあるメインの中継映像は、複数台のカメラから届くさまざまな映像からベストなものがスタッフ(スイッチャー)の手により選択されて配信されているわけで、映像が途切れることは(ほぼ)ないし、なにより選手名や各種データを画面内に表示するのでレースの状況をしっかり把握できるのがメリットだ。

 バイクカメラ視点の映像だけだと楽しくない、というわけではないけれど、5時間も見続けるとさすがに単調で飽きがくるだろう。自転車をこぎながらにしても、普通に視聴するにしても、メインの中継映像を中心に楽しみ、時々気になったら他のカメラの映像をのぞいてみる、という視聴スタイルが良いのではないだろうか。自転車をこいでいる場合は、いつでも画面を切り替えられるよう、手の届く場所にPCを置いておきたいところだ。

■お尻の痛み対策、トイレ対策も考えておこう

 さて、毎日19時頃からスタートするツール・ド・フランスだが、この時間帯はちょうど晩ご飯と重なるタイミングだ。この時、自宅のサイクルトレーナーであれば手放し運転もOKで、ポケットサイズの補給食ではなく、温かい普通の食事を両手で食べられるのも利点と言える。

 ただ、起伏ある屋外の公道で走るのとは違い、常にこぎ続けないと車輪が止まってしまうため、こぐのをサボれないのがつらい。時速20kmほどのゆっくりとしたペースとはいえ、こちらは休むことなくこぎ続けるなか、映像では選手たちが時速70~80kmで下り坂をかっ飛ばしており、思わず「ずるい」とつぶやいてしまう。

 1時間ほど経過したところで、早くも心が折れてギブアップしたくなり、2時間ほどで今度はトイレに行きたくなる。ツール・ド・フランスのような長丁場のレースでは、レース中に道ばたで用を足したりすることもあるらしいが、筆者の場合、ここでいったんトイレ休憩を取ってしまうと再び自転車をこぐ気力を保てる自信が全くなかったので、水分補給のペースを少し落としつつ、我慢することにした。

 それよりも、ハンパではないお尻の痛みが襲いかかってくるため、尿意なのか痛みなのかが判別つかない。痛みの少ないポイントを探ろうと常に姿勢を変えるため、画面もまともに見られないほど。何度も言うように、いつ休憩しても、やめてもいいのである。しかし、休憩したが最後、そのまま諦める可能性が高いし、やめたところでリビングにデンと置かれた自転車とサイクルトレーナーを片付けない限りはリラックスできない。選手達とともに迎えるゴールに何か新しい気づきがあるかもしれない……などともっともらしい言い訳を考えたりもしたが、結局のところ、意地だ。

 峠道の多い第9ステージでは、上り坂のスローペースが地獄のように感じる。こちらは自転車のギアを4速、サイクルトレーナーの負荷を(13段階中)5段階という軽めの設定にしていて、平坦路だろうが坂道だろうが一定の負荷にしていたのだが、上り坂では中継画面内に表示されているゴールまでの距離の減少ペースが一気に落ちるので、精神的にきつい。代わりに、山頂を通過して下り坂に入ると、どんどん残距離が減っていくのが爽快だ。

 けれども、スタートから3時間ほどたつと、もはや足は惰性で回り続けているようなもので、ケイデンスは50rpm、時速13km前後にまで落ち込んでいた。選手達の表情にも疲労の色が濃くなってくるが、そのつらさに心底共感できる。普通に視聴していたら感じることのないこの気持ち……自然と応援にも力が入るというものだ。誰でもいいから早くゴールしてくれ、と。

■走行距離は選手たちの半分以下! それでも消費カロリーは……

 何度も諦めたくなる気持ちを乗り越え、最後のゴール直前にはラストスパートをかけて時速42.5kmを記録しながら、5時間9分あまりのトレーニングを終了した。平均時速は15.19km、総走行距離は78.34km。選手たちは同じ時間で181.5kmを走りきっているので、その半分にも届いていない。同じ時間走ってみて、プロ選手のすごさを改めて実感するというものだ。

 ちなみに、映像から判断できる勾配に合わせてサイクルトレーナーの負荷を上げ下げすると、より選手達との一体感みたいなものが得られるに違いない。が、さすがにそこまでのリアリティを求めると、5時間も走り続けるのは自分の体力から考えてまず不可能。最初からすっぱり諦めて軽めの負荷に固定したのは正解だった。

 ところで、消費カロリーはというと、なんと2,878kCalを記録した。効率の良いトレーニングと言えるかどうかは別として、その足で全マシにしたラーメン二郎を食べ行ってもおそらく許されるレベルだ(終了時刻は夜中0時を過ぎていたので店は閉まっているだろうが)。

 ツール・ド・フランスをバーチャルで体験したい、という目的だけでこんなトレーニングを毎日続けるのは不可能だけれど、ツール・ド・フランスがいかにタフなレースなのかを思い知ることはできる。ライブ配信終了の23日まで残り日数は少ないが、自転車トレーニングに、好きな選手への感情移入に、J SPORTS オンデマンドとサイクルトレーナーを組み合わせたバーチャルなツール・ド・フランスを体験してみるのはいかがだろうか。

AV Watch,日沼諭史

最終更新:7/14(金) 15:07
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