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「テイ・ゲンウコウ」?中国出身のNBA選手に“音読み”で対応できるのか…

7/14(金) 9:30配信

スポニチアネックス

 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】1972年。日中の国交が回復した時、当時の田中角栄と周恩来の日中両首相はこんな合意を交わしている。「人の名前は互いにその国の読み方でいきましょう」。どちらも漢字文化を持つ国同士。「音」より「文字」を優先させる取り決めだった。

 だから現在、習近平・国家主席は日本では「しゅう・きんぺい」であり、安倍晋三首相は中国では「アーペイチンサン」。お互いの国民が相手の呼び方を耳にすると、たぶん自国のリーダーの名前であっても誰なのかがわからなくなる。地名は上海のように部分的にそのままの音で読む都市もあるが限定的。北京は「ペキン」と読んでも通じないし、英語表記の「BEIJING」は「ベイジン」であるにもかかわらず「ペイチン」にも聞こえるから、違う国の言語というのはやはり難しい。

 日韓両国では音をそのまま字におきかえられる「カタカナ」と「ハングル」という“武器”があるが、中国語は漢字を音に当てはめるので、日本人で名前にひらがなやカタカナが含まれている方は、中国では自分の知らない漢字が名前に入っていたりする。

 さて、7月1日に始まったNBAのサマーリーグに1人の中国選手が挑戦している。マーベリクスのユニホームを着て世界最高峰のリーグでプレーしているのは、中国代表で昨季の中国リーグでMVPにも輝いたディン・ヤンユーハン。201センチで23歳のガードだ。中国の選手なのになぜ漢字で表記しなかったのか?それには理由がある。彼は新疆ウイグル自治区のカラマイ出身。ここは東トルキスタンと呼ばれていた地区で、ウイグル族、漢族、カザフ族などさまざまな民族が居住している多民族地域だ。

 ディンの民族的背景はよくわからない。ただこの地域の出身者の名前には姓がなかったり、違う言語の発音に無理やり漢字を当てはめたケースも見られるという。ディンの名前を中国式に記すと「丁彦雨航」となる。これでディン・ヤンユーハンなのだ。しかし、1972年の合意に従えば、丁は「テイ」もしくは「チョウ」。彦の音読みは「ゲン」なので全部つなげると日本ではテイ・ゲンウコウ。まるで別人になってしまうのだ。

 実は中国出身のセンターの姚明がロケッツでプレーしていた際、日本のテレビ系メディアは「ヨウメイ」と発音していた。実際は「ヤオミン」でNBAでもその発音で通っている。新聞メディアに属する私は何度も漢字の横に「ヤオミン」とルビを振ったが、日本だけが世界とは違う発音をしていた。ただ漢字では2文字しかなく「ヨウメイ」が「ヤオミン」であることを認識することは、さほど難しいことではなかった。

 ところが今回は4文字。“丁彦雨航”はサマーリーグのピストンズ戦(6日)では29分出場して13得点をマークし、ディフェンスでもハッスルプレーを何度も見せるなど、なかなかの存在感を示している。このままキャンプに呼ばれる可能性も大。そして、もし開幕ロースターに残って日本でその試合がオンエアされたとき、アナウンサーは彼の名前をなんと発音するのだろうか?

 故田中元首相も、まさかそんな問題が発生するとは思わなかっただろう。だが、この合意はそろそろスポーツ界から排除すべき時を迎えている。ディン・ヤンユーハンをテイ・ゲンウコウと発音するのは誰がどう見ても(聞いても?)バイオレーション。ユニホームの背中に記された「DING」の文字を尊重すべきだ。 (専門委員)

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、佐賀県嬉野町生まれ。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。スーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会に6年連続で出場。