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昆虫食の奥深い世界 「未来の食料源」普及へ試行錯誤、カメムシはパクチーの香り?

7/15(土) 10:01配信

産経新聞

 醤油(しょうゆ)醸造の発祥の地として日本遺産に認定された和歌山県湯浅町で、蚕の繭を発酵させて作る醤油風調味料「シルク醤油」の試作が進んでいる。来年の販売に向けて、8月にはインターネット経由で資金を募るクラウドファンディングを開始する。和歌山県では2年前、イナゴを使った醤油のような味わいの昆虫発酵調味料「イナゴソース」も誕生。独自のタンパク源として「昆虫食」の普及に取り組む人たちが試行錯誤を続けている。(山田淳史)

 シルク醤油は、イナゴソース開発にも関わった「湯浅醤油」(湯浅町)の新古敏朗社長と、大阪府岬町と和歌山市に事務所を置く「昆虫エネルギー研究所」の佐藤裕一代表らが発案。大豆の代わりに蚕の繭を使用し、麹や塩も入れて発酵させて作る。

 昨年1月から試作を繰り返し、新古社長は「初めて味見したときは、何でこんなに甘いのかと驚いた。大豆や小麦からくる味わいとは違った」と話す。ただ、販売できるだけの量を醸造するには多額の材料費が必要となる。高級な繭を購入する場合、1キロ10万円以上もかかるからだ。

 そこでクラウドファンディングで資金を募ることにした。期間は8月1日から9月10日ごろまでを予定し、目標額に達した場合、一定額以上を出資した人にシルク醤油をプレゼントすること考えているという。また佐藤代表は、8月5日に東大阪大学短期大学部(大阪府東大阪市)でシルク醤油の試飲会を予定するなど、各地での試飲会の開催も検討。一人でも多く出資者を増やしたい意向だ。

 佐藤代表は「寿司(すし)だって、生ものを嫌うアメリカ人のことを考え、ネタをアボカドにするなどしてカリフォルニアロールを作った。それが結局、寿司文化の普及につながったのだと思う。シルク醤油が『昆虫食のカリフォルニアロール』のような存在になれば」と期待。新古社長は「シルクロードにちなみ、ヨーロッパの高級レストランなど海外に売り込みたい」と話す。

 昆虫エネルギー研究所を平成23年に設立し、昆虫食の普及を目指す佐藤代表。昆虫食体験は約20年前にさかのぼる。旅行先のタイ東北部やラオスが昆虫をよく食べる地域だったため、「昆虫を味わうことが普通になった」という。昆虫を食べずに穀物や魚、肉などを食べる習慣は「食の欧米化」と断じ、研究所では毎年、兵庫県伊丹市で、一般の人が参加できる「関西虫食いフェスティバル」を主催。動画サイトでもその様子を紹介している。

 「すっげえ、カナブンやっ。ほんまに衣がついてない」。動画では、参加した男性が驚きながらカナブンの素揚げをおいしそうに食べる様子が映っていた。料理を担当したフランス料理のシェフが虫や野菜などを炒めてサッと皿に盛ったり、養殖した外国産のゴキブリを揚げたりする様子も。セミの幼虫を煮込んだ料理なども登場し、参加者らが次々と手を伸ばしていた。

 また、「カメムシはパクチーの香りに似ている」という昆虫料理の研究家の話で笑いが起きる場面も。同フェスは23年の開催以来、リピーターも増えているといい、佐藤代表は「当初は抵抗のあった人も多かったが、今では普通に『おいしい』と言ってくれる」と話す。

 それでも、昆虫食は見た目などから敬遠する人は多い。佐藤代表は「昆虫食は日本でまだまだマイナーだが、メジャーにする“入り口”になればと考えたのがシルク醤油だった」と説明する。

 和歌山県で27年に誕生した「イナゴソース」は、紀の川市の地域活性化支援団体「いなか伝承社」(田中寛人代表)が作った。佐藤代表とも知り合いの田中代表が「これまでにないものを」とイナゴを使うことを思いつき、新古社長のアドバイスを受けて完成させた。売れ行きは今ひとつだだが、料理人ら興味を持った人たちから注文があるという。

 田中代表は「『うちの団体ではこんなものまでつくれるんだぞ』というアピール用の商品だった。ほかにも、いろいろな昆虫を使った調味料を保管しているので、研究者に成分を分析してもらい、『肌によい』など効能が分かれば(昆虫調味料は)もっと広まると思う」と話す。

 昆虫食は他の地域にもある。長野県伊那市ではハチノコとイナゴ、ザザムシを「三大珍味」として土産品として売り出している。山々に囲まれた土地柄から、この地域では昆虫は貴重なタンパク源として、つくだ煮などにして食べられてきた。市観光課の唐木猛主査は「20~30年ぐらい前は食卓に並んでいて、私もイナゴのつくだ煮を載せてごはんを食べた記憶がある。甘辛く煮付けてあるから、変な味はしない。しかし、流通が発達してさまざまな食料が調達できるようになった今は以前ほど食べなくなった」と話す。

 昆虫食は土産物店や一部のスーパー、居酒屋の一品として並ぶこともあるそうだが、一般家庭では珍しい食材になったようだ。どんなときも絶えることがなく、「未来の食料源」ともいわれる昆虫。料理や調味料として味わう動きは広まっていくのだろうか。

最終更新:7/15(土) 10:01
産経新聞