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初の米ロ首脳会談 シリアなど溝は埋まらず

7/14(金) 10:02配信

ニュースソクラ

【ロシアと世界を見る目】「相性はよかった」が・・・

 ドナルド・トランプ米大統領が就任して約半年。彼が昨年の大統領選挙運動中に対ロシア関係改善の意志を明確にしていたことを考えると、すでに制裁の緩和など変化があってもおかしくはないはずだが、そうなっていない。米国で一向に収まる気配のない「ロシアゲート」のせいだ。

 1991年末のソ連崩壊後、最悪の状態にあるとも言われる米ロ関係が続く中、トランプ、ウラジーミル・プーチン両大統領の会談が7日、G20首脳会議が開かれていたハンブルグでようやく実現した。関係打開への展望は開かれたのだろうか。

 会談に同席したレックス・ティラーソン米国務長官は会談終了後の会見で、2人の「相性(chemistry)」は大変良かったと解説した。

 プーチン大統領もG20首脳会議閉幕後の8日の会見で、「個人的関係は確立されたと思う」と述べ、「テレビでみるトランプ氏は実物とは大変違う」との印象を明らかにした。どう違ったのかは指摘しなかったが、より気さくで話しやすい人物だという良い印象を受けたのだろう。

 会談が良い雰囲気の中で予定の30分を大幅に超え2時間15分に及んだことは、関係改善を期待する者にとってはとにかく一歩前進だ。

 だが、会談の結果、両国関係に横たわる問題が実質的に解決に向かうという展望が開かれたとは言えない。

 個別の問題の中で具体的な成果として指摘できるのは、シリア南西部でシリア政府軍と反政府軍に停戦を実現させるとの合意であろう。イラク軍がイスラム過激派「イスラム国(IS)」の拠点であるイラクのモスルを奪還したとのニュースが流れた同じ9日、その停戦が発効した。

 この停戦がいつまで続くか分からないが、合意がないよりもあった方が前進したことは違いない。今後は飛行禁止区域の設定、米ロによるその共同管理、IS掃討への共同作戦、人道援助での協力などが当面の課題となるだろうが、従来から比較的落ち着いていた南西部の停戦合意とは違い、山のような困難が待ち構えている。

 そもそも米ロ間にはバッシャール・アル・アサド大統領に対する基本的な認識の違いがある。米国にとってアサド大統領は化学兵器で自国民を殺す極悪非道の指導者でただちに追放すべきだが、ロシアは彼がいるからこそシリアはISに乗っ取られないで済んでいるとみる。南西部の停戦合意でシリア和平への展望が切り開かれたとみることはできない。

 今回の会談でシリア問題以上に注目されたのは、両大統領がロシアゲートにどう言及するかである。ロシアゲートの核心はロシアの情報機関が昨年、米大統領選が展開されている最中に、米民主党本部のコンピューターにハッキングを仕掛け、eメールを盗み出し、その内容をウィキリークスに漏洩することで選挙に介入したという疑惑である。

 トランプ大統領は9日のTwitterで、会談でこの問題を2度取り上げ、プーチン大統領にやったのかどうか聞いたと明かした。プーチン大統領はこれまで同様、否定した。

 プーチン大統領は会見でこの時のやり取りについて、トランプ大統領からの質問にできる限り答え、「彼はそれを踏まえ、私に同意してくれたと思うが、彼がどう感じているかは彼に聞いてほしい」と述べた。

 トランプ大統領が納得したかどうか本人は明らかにしていないが、恐らくうなずきながら聞き入ったのだろう。

 両大統領は結局、サイバーセキュリティについて共同で対処する方策を話し合う場を設けることで合意した。これも一歩前進と言えば、前進かもしれない。

 米国は欧州諸国などとともに2014年のロシアによるウクライナのクリミア併合や東部ドンバス地方への対応に抗議して経済制裁を課しており、トランプ政権が対ロ関係を改善させるとすれば、制裁緩和あるいは解除がその象徴になるはずだが、トランプ大統領のTwitterでは、制裁は議題に上らなかったという。

 両国の間の懸案にはこのほか、ドンバス地方の和平、北朝鮮の核兵器開発への対処などがあり、会談でも取り上げたが具体的な成果というほどのものはなかったようだ。

 会談に対するロシア国内の反応は総じて好意的だ。しかし、米国内では厳しい見方が目立つ。

 サイバーセキュリティの合意について共和党のリンゼイ・グラム上院議員は、「私が経験した中で最もひどい話だとは思わないが、それに近い」とこき下ろし、昨年、トランプ氏と共和党の大統領候補指名を争ったマルコ・ルビオ上院議員は、サイバーセキュリティでプーチン大統領と組むことは、悪い冗談だと一蹴した。

 トランプ大統領が対ロ関係改善の意志を持つことは、昨年の大統領選運動期間中の発言で明らかだが、ロシアゲート、そして米国内の厳しい対ロ認識の足かせを受けている。その足かせが外れるのか、それともますます強い足かせをはめられるのか、まずはロシアゲートを担当しているロバート・モラー特別検察官の捜査が出す結論が焦点だ。

 プーチン大統領は8日の会見で、「昨日の話合いでみられたように関係を築き続けられるなら、少なくとも部分的には、必要とされる協調関係を回復できるだろう」と述べた。順調に対話が進んでも「部分的」にとどまるという慎重な見方だ。ロシアはシリアなどの問題で下手に出ることはないとクギをさしたようでもあり、米ロ関係は依然、前途多難だ。

■小田 健:ロシアと世界を見る目(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)
1973年東京外国語大学ロシア語科卒。日本経済新聞社入社。モスクワ、ロンドン駐在、論説委員などを務め2011年退社。
現在、国際教養大学客員教授。

最終更新:7/14(金) 10:02
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