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予想以上の混戦。その鍵となるタイヤに迫る!/ノブ青木の知って得するMotoGP

7/14(金) 17:23配信

オートスポーツweb

 スズキで開発ライダーを務め、日本最大の二輪レースイベント、鈴鹿8時間耐久ロードレースにも参戦する青木宣篤が、世界最高峰のロードレースであるMotoGPをわかりやすくお届け。第4回は、大混戦となっている2017年シーズン前半戦を振り返る。何故ここまで混戦となっているのか? その鍵となっているタイヤに迫る。

【画像】フロントタイヤをつぶしてコーナーインするマルク・マルケス

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「マーベリック・ビニャーレスがブッちぎるんじゃないか?」、「今年のチャンピオンはビニャーレスで決まりだろうね」。今シーズンの開幕前テストでは、そんな風にささやかれていた。しかも、かなりの大声で(笑)。実際、ヤマハYZR-M1を走らせるビニャーレスには死角がまったく見当たらず、ワタシ自身も「今年はビニャーレス!」と確信していたのだ。しかし……。

 シーズンが開幕すると、確かにビニャーレスは速かった。いきなり開幕2連勝を飾り、誰もが「やっぱりね」と思った。「これは手が付けられないぞ」と。

 だが、第9戦ドイツGPを終えてみれば、ポイントリーダーはいつの間にか129点を獲得しているレプソル・ホンダのマルク・マルケス。

 ビニャーレスは5点差で2番手につけているものの、その直後には1点差でドゥカティのアンドレア・ドビジオーゾ、さらにその4点差でチームメイトのバレンティーノ・ロッシが控えているという混戦模様。前半戦を終えて、トップのマルケスから4番手ロッシまでの間はわずか10点差と、強豪がひしめき合っているのだ。

 そりゃあ、開幕前テストですべてが分かるわけではない。だが、ここまでの混戦になるとは誰も予想していなかったはずだ。2017年シーズンのMotoGPでは、いったい何が起こっているのだろうか……!?

 鍵となっているのは、タイヤだ。2009~2015年までの7年間、MotoGPはブリヂストンタイヤのワンメイクだった。しかし、2016年からミシュランタイヤにスイッチ。その特性の違いに、各チームは1年以上経った今も翻弄されている。

■ミシュランとブリヂストンの違いとは?
 ブリヂストンとミシュランは、それほど特性が異なるのだ。端的に言えば、ふたつの特徴が挙げられる。「フロントのブリヂストン/リヤのミシュラン」そして「コンパウンドのブリヂストン/構造のミシュラン」だ。それぞれ簡単に説明しよう。

 まずは「フロントのブリヂストン/リヤのミシュラン」。これはそれぞれの強みだ。ブリヂストンは、とにかくフロントタイヤの出来が素晴らしかった。剛性が高いので、ガツンと思いっ切りブレーキングでき、高い安心感のなか、マシンを勢いよくベタッと寝かせられた。一方のミシュランは、リヤタイヤが素晴らしい。接地感も良好、グリップレベルも非常に高い。

 そして「コンパウンドのブリヂストン/構造のミシュラン」。これはグリップの出し方だ。ブリヂストンは「直接路面にくっついてるのはゴムでしょ!」と、トレッド(タイヤ表面)のコンパウンド開発に重きを置いていた。ケース剛性をとにかく高めているから、つぶれにくい反面、使いこなせればハードブレーキング時にも頼れる安心感があった。

 一方のミシュランは、タイヤ構造そのものからもグリップを出そうとする。ケースをつぶすことで、高いグリップを発生させようというのだ。

 同じように黒くて丸いタイヤだが、ブリヂストンとミシュランではキャラクターがまったく異なることがお分かりいただけただろうか? しかも昨年は、タイヤメーカーの変更と同時に、リム径も16.5インチから17インチに変更された。たかが0.5インチ、つまり1.25cmの違いと思われるかもしれないが、これも大きかった。タイヤ外径は変わらないので、リム径が大きくなるとその分タイヤのハイト(サイドの高さ)は低くなる。このことで、タイヤ自体が持つショック吸収性や路面追従性などサスペンション機能が低下してしまうのだ。

 ちなみにミシュランが17インチに変更したのは、市販車用タイヤへの技術的フィードバックをより行いやすくするためだ。レースでしか使われない16.5インチを開発するより、市販車で一般的な17インチを開発した方がよい、という判断だ。

 正直、我々ライダーとしては16.5インチの方がイイことが多いのだが、市販車のタイヤ性能向上ももちろん大切。致し方ない……。

 話をまとめよう。ミシュランタイヤにスイッチして以降、今季に至るまで、フロントから転倒するライダーが多く見受けられる。これは多くのMotoGPライダーがブリヂストン+16.5インチのリム径によるフロント頼りの走りに慣れてしまっているからだ。

 ワタシがテストした感触では、ミシュランのフロントタイヤも決して悪いワケじゃない。ただ、リヤがかなり良い分、フロントが劣っているように感じてしまう。しかも、0.5インチのリム径増加のせいで、超シビアな限界領域が分かりにくくなってしまった。結果的にフロントを探りながらのライディングになり、それでもついスカッと転んでしまう、というワケだ。

 さらに詳しく説明すると、4輪でいうプッシュアンダーに近い現象が起きているようだ。リヤのグリップレベルが高い分、フロントを押してしまうイメージだ。スロットルを開け始めた所でフロントからスコンと転んでしまうのは、ほとんどこのパターンだろう。4輪の場合は「曲がらない~っ!」というアンダーステアで済むが、2輪の場合は転倒してしまうのがイタイところ。

 それにしても今年は、昨年以上にレース展開が読みにくくなっている。これはフレームとタイヤのマッチングがよりシビアになっていることの表れだ。サーキット路面とタイヤ、そしてフレームがどう組み合わさった時にうまく行くのか、逆にどういう時に外れるのか、レースが終わってみなければ分からない。当たるも八卦、当たらぬも八卦、言ってみればバクチのようなシーズンになっている。ライダーとしてはたまったものではないが、観る側としてはこんなに面白いシーズンもない(笑)。

 ミシュランはタイヤ構造をつねにアップデートしており、ケース剛性も変化させているようだ。今シーズン始めにはやや柔らかめのケース剛性になったが、ライダーからの不満もあり、今は硬めになっている。

 そういう微妙なアップデートが、フレームによって良く作用したり、悪く作用したりしている。それがまた恐ろしくシビアで、ちょっとしたことでライダーの成績も乱高下してしまうのだ。

 そんななか、気が付けばマルケスがポイントリーダーの座に就いている。ホンダは今年、エンジンの点火順序を変えており、実はそれほどピークパワーが出ているワケじゃない。ピークパワーよりも、扱い切れるパワーを重視している。それが功を奏しているのと、マルケスがオトナになって、我慢すべき時に我慢できるようになったからだろう。

 だが、そのホンダと言えども、タイヤとフレームのマッチングには苦労しており、決して盤石じゃない。ヤマハはフレームの作り込みがうまく行きつつあるが、ビニャーレスの自信が若干ヨロメキ始めており、精神的には弱っているようだ。むしろロッシの方がチャレンジャーとして勢いがあるように見える。

 ドゥカティ勢も持ち前のエンジンパワーでゴリ押ししているし、ヤマハのサテライトチームであるテック3もマッチングがいいのか調子いいし、いやはや、本当にどのマシンに乗るどのライダーが上位に来るか、まったく分からない。MotoGPはしばらく夏休み。8月6日、チェコGP決勝で誰が表彰台のてっぺんに立っているのやら……。

 さて、ワタクシごとですが、「MotoMapSUPPLY FutureAccess」から今年も鈴鹿8耐に参戦します!

 ライダーは、全日本で実績十分の今野由寛選手、オーストラリア・スーパーバイク選手権チャンピオン経験者のジョシュ・ウォータース選手、そしてワタシの3人。

 鈴鹿8耐は、耐久レースとはいえスプリントレースが8時間連続するようなもの。真夏の暑さのなか、相当にキツイ戦いになりますが、体作りも含めてチーム一丸となって全力で臨んでいます。すでに1回目の合同テストを終えていますが、正直、まだ手応えはナシ……。もう1度テストがあるので、そこでまとめられていくつもりです。

 鈴鹿8耐は今年で40周年の節目。同チームで一昨年は10位、昨年は5位だったので、今年は5位以上、プライベータートップをモギ獲るつもり。ライバルチームもなかなかの速さですが、ズバリ、表彰台をめざします! ぜひ鈴鹿サーキットまで応援に来てくださいね!!

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■青木宣篤

1971年生まれ。群馬県出身。全日本ロードレース選手権を経て、1993~2004年までロードレース世界選手権に参戦し活躍。現在は豊富な経験を生かしてスズキ・MotoGPマシンの開発ライダーを務めながら、日本最大の二輪レースイベント・鈴鹿8時間耐久で上位につけるなど、レーサーとしても「現役」。

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