ここから本文です

Microsoftはなぜ、大幅人員削減に踏み切るのか

7/15(土) 12:02配信

ITmedia エンタープライズ

 米Microsoftが、セールス、マーケティング部門などの人員削減を実施することが明らかになった。具体的な規模は明らかにしていないが、一部報道では3000人とも4000人ともいわれている。

【画像】新たなパートナー向け組織を率いるロン・ハドルストン氏

 セールス、マーケティング部門が対象になるということは、各国の子会社も対象に含まれ、当然、日本マイクロソフトも影響を受ける可能性がある。

 なぜ、米Microsoftはこの部門の人員削減に乗り出すのか――。この問いに正確に答えるためには、これまでMicrosoftが行ってきた人員削減の延長線上で捉えてはいけない。

●クラウドに注力した“コンサンプション重視”の体制へ

 米Microsoftは2014年に、1万8000人という大規模な人員削減を行ったことがあり、その大半は買収したNokiaの携帯電話事業に従事するスタッフだった。その後、2016年にも約3000人規模の人員削減を実施している。

  だが、今回の人員削減はこれまでのものとは意味合いが異なると見ていい。マイクロソフトが“セールス、マーケティング部門の組織を一から構築し直す”という大手術に取り組む――つまり、約15年に渡って作ってきた組織をいったん、壊そうというわけだ。

 一言でいえば、ライセンス販売をベースにしていたこれまでの組織から、クラウドによるコンサンプション(消費)をベースとするセールス、マーケティング体制への移行だといっていい。

 既にここ数年、Microsoftは、クラウドをベースとしたセールス、マーケティング体制への変革に取り組んできた。「CSP(クラウドソリューションプロバイダー)プログラム」と呼ぶ、クラウド販売パートナーを対象にした制度を導入したのはその最たるものだろう。

 しかし、ベースとなっていたのは、“ライセンス販売に最適化したセールス、マーケティング体制”であり、まるで「パッチを当てながら最新の状況に対応する」ようなツギハギ感があったのは否めない。

 だが、そのツギハギにも、いよいよ限界が生じる段階に入ってきたということだろう。Windowsでいえば、これまでのように“パッチを当てる”のではなく、新たなバージョンへ進化させる段階に至ったか、あるいは、まったく異なるカーネルをベースにしたWindowsに作り替える、といったところか。

 今回の組織改革は、それくらい大規模な転換が必要だったともいえるだろう。

●“1チーム”体制でパートナーシップの在り方を変革

 現時点では、Microsoft自らが組織の再構築の内容について詳細に語っているわけではない。そのため、セールス、マーケティングの体制がどこまで大きく変わるかを詳細には示せないのが正直なところだが、現在、明らかになっている一部の情報から、変革の一端を垣間見ることはできる。

 例えば、パートナー向けの組織として、米Microsoftは「One Commercial Partner」という組織を新設した。その名の通り、全てのパートナーを1つの窓口で担当する組織だ。

 これまでの組織では、エンタープライズ企業向けパートナー、中堅・中小企業向けパートナーといった切り口のほか、公共・文教市場をはじめとする業界別パートナーへの対応、あるいは、ソフトウェア開発を行うISVパートナーへの対応など、規模や業種、パートナーの得意分野などに分類した形で、それぞれの組織が連携を図っていた。

 つまり、パートナーが対象とする顧客の従業員数や売上規模、PCの導入台数やWindowsのライセンス契約数などでパートナーを分類し、それを基にした支援策やインセンティブプログラムを個別に用意していたというわけだ。

 だが、新たなパートナー向け組織では、そうした垣根を一度取り外し、コンサンプションという観点から、支援を行っていくものになるという。

 米Microsoftは、2017年7月9日から、ワシントンD.C.でパートナー向けイベント「Microsoft Inspire 2017」を開催し、初日の基調講演には、サティア・ナデラCEOとともに、パートナー向け新組織であるOne Commercial Partnerを担当するコーポレートバイスプレジデントのロン・ハドルストン氏が登壇。新たなパートナー組織について説明した。

 その中で、ハドルストン氏は、「Microsoftは、パートナーシップの在り方を変えていく。1つのコマーシャルパートナー組織に役割を集約し、担当する顧客の規模に関係なく1つのチームで支援する。そして、2億5000万ドルを投資し、パートナーと顧客とを結ぶための仕組みを新たにつくる」と発言。パートナーと顧客との接点を結ぶ役割を担う「チャネルマネージャー」を新設し、適切なパートナーに、適切なタイミングで、適切な顧客を紹介するといった共同作業を促進することを明らかにした。

 新たな組織は、クラウドビジネスにおいては、これまで以上に密接な関係をパートナーと築く必要があるとの考えに基づいて作られている。「Azure」によるクラウドビジネスでは、その多くがMicrosoftのデータセンターを活用する。そのため、クラウドサービスの提供においては、ライセンスビジネスとは異なる緊密な連携が求められる。営業やマーケティングにおいも、これまで以上に共同で推進するための新たな関係が必要になってくるのは当然だ。

 さらに、パートナー向け支援プログラムも、「Azureをどう売るのかといったことを軸足に、新たなセールスインセンティブの仕組みへと再構築する」(ハドルストン氏)という。

 すでに中堅・中小企業向けの支援策では、受注ベースではなく、案件ベースでインセンティブを支払う仕組みを採用するなど、ライセンスビジネスでは考えられない、新たな仕組みを採用してきた経緯がある。

 それは、パートナーや顧客の規模という観点とは別の視点で用意された制度ともいえる。今後、こうした新たなインセンティブの仕組みを採用しやすい組織体制へと移行する狙いもあるのだろう。

●目指すのは顧客やパートナーのために役立つ再編

 こうしてみると、今回の人員削減は、“セールス、マーケティング組織の大規模な変革”が前提にあることが見逃せない。パートナーの窓口を一本化することに伴い、不要となった組織もあれば、新設した組織もある。それに伴って、必要とされる人材も大きく変化することになるだろう。

 つまり、「人員削減」はむしろ、あとからついてきたものであり、大規模な組織変更に伴う「職務ポジションの再編」が本質といえるだろう。新規のポジションが多数用意される一方で、再編によって既存ポジションの多くが削減されるという結果が、人員削減という結論に至るわけだ。

 米Microsoftの公式コメントでも、「Microsoftは、顧客やパートナーのために役立つ変更を実施する。その結果、一部の従業員に対して、自分の仕事や職位がなくなることを通知した」としたものの、「いくつかの場所への投資が増加し、別の場所への再展開する可能性もある」としている。

 いずれにしろ、クラウドビジネスを中心とした新たな組織へと、セールス、マーケティング部門がシフトすることになるのは明らかだ。そしてここでは人員削減だけではなく、“クラウドを生業とする会社”へと、完全に生まれ変わるための新規採用を計画している点も見逃せない。つまり“削減するだけ”ではなく、増員する部分もあるということだ。

 日本マイクロソフトへの影響は気になるところだが、パートナー向け組織の一本化は同様に進められるものの、人員削減の影響はないといえそうだ。むしろ増員の可能性があるともいえる。人員削減のイメージが先行した感がある今回のニュースだが、むしろその前提となる組織の大規模な改革にこそ、ニュースとしての本質があることを押さえておくべきだ。