ここから本文です

小林麻央さん「愛してる」残せた平穏死 「自宅が世界最高の特別室」であることの証明

7/15(土) 16:56配信

夕刊フジ

 【ドクター和のニッポン臨終図巻】(12)小林麻央さん

 歌舞伎役者、市川海老蔵の妻で、フリーアナウンサーの小林麻央さんが亡くなって数週間がたちました。一部メディアは、最初の段階で麻央さんの乳がんを見逃した医者の「犯人捜し」をしているようですが、そんなことをして誰のためになるのでしょうか。医療はいつも不確実性の上に成り立っています。どんなに優秀な医者でもすべてのがんを早期に発見することは不可能です。また、もっと早くに発見できていたら治せたかもという仮定の話には意味がありません。

 一部メディアは、最初の段階で麻央さんの乳がんを見逃した医者の「犯人捜し」をしているようですが、そんなことをして誰のためになるのでしょうか。医療はいつも不確実性の上に成り立っています。どんなに優秀な医者でもすべてのがんを早期に発見することは不可能です。また、もっと早くに発見できていたら治せたかもという仮定の話には意味がありません。

 こうした評論は結果的に世の医療不信を増幅し、何よりも麻央さんを「運が悪かった人」「かわいそうな人」に貶(おとし)めるだけではないか。

 生前、麻央さん自身はこう言っていたではないですか。

 「人の死は、病気であるかにかかわらず、いつ訪れるかわかりません。例えば、私が今死んだら、人はどう思うでしょうか。『まだ34歳の若さで、可哀想に』『小さな子供を残して、可哀想に』でしょうか?? 私は、そんなふうに思われたくはありません。なぜなら、病気になったことが私の人生を代表する出来事ではないからです」(昨年11月、英BBCに寄せた手記より)

 心を揺さぶられました。まだ34歳。私からすれば娘のような年齢の人がこのような考えに至るとは。スゴイ女性です。さすが成田屋のお嫁さんです。

 こうした強い心を保っていた人だから、最期は自宅で過ごそうと決めることができたのでしょう。若いがん患者さんほど、最期まで何とかして治そうと、がんの治療を続けようとします。キュア(治療)からケア(積極的な治療ではなく、自宅で痛みや苦しみを取り除き穏やかな日々を過ごせることに重点を置く緩和ケア)への移行ができずに病院で最期を迎えています。

 しかし、ご夫婦のブログを拝読するかぎり、麻央さんは入院医療から在宅医療に自然な形で切り替えています。人生最期の1カ月の過ごし方が大切。在宅医や訪問看護師による緩和ケアを受けたからこそ、死の2日前までブログを更新し、ジュースを飲み、家族と会話ができていた。

 最期の瞬間は、夫の帰りを待って「愛している」と…。もし病院でたくさんの点滴を受けて鎮静をかけられていたら、最期の言葉を残すこともかなわなかったはずです。

 麻央さんの最期は、私がずっと言い続けている在宅での「平穏死」であり、「自宅が世界最高の特別室」であることの証明です。亡くなった翌朝も、お子さんたちはママの足をさすり、同じ部屋で寝たとか。これも病院ではかなわなかったはずです。

 自分の最期を覚悟していたのか。旅立つ姿を子供に見せたことは母親として最後の教育で最高の贈り物でした。2人のお子さんは、きっと立派な大人になるでしょう。

 ■長尾和宏(ながお・かずひろ) 医学博士。東京医大卒業後、大阪大第二内科入局。1995年、兵庫県尼崎市で長尾クリニックを開業。外来診療から在宅医療まで「人を診る」総合診療を目指す。近著「薬のやめどき」「痛くない死に方」はいずれもベストセラー。関西国際大学客員教授。

最終更新:7/15(土) 17:26
夕刊フジ