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<医療>「アスペルガー症候群」五つの特徴

7/15(土) 10:00配信

毎日新聞

 対人関係に障害などがある「アスペルガー症候群」は発達障害の中でも有名です。実は現在、専門家の間では、この名前は使われていません。発達障害の診断基準として世界的に使用されているアメリカ精神医学会策定の「精神疾患の診断と統計マニュアル 2013年改訂第5版(DSM-5)」で、アスペルガー症候群を自閉症などと包括して、「自閉症スペクトラム障害(ASD)」と改めたためです。ASDの中の旧・アスペルガー症候群については最近、ホルモンを使った治療の効果が注目されています。旧・アスペルガー症候群の特徴と治療法を、くどうちあき脳神経外科クリニックの工藤千秋院長に聞きました。【ジャーナリスト・村上和巳】

 ◇社会人生活で現れる特徴

 日本国内には現在、アスペルガー症候群の人が人口の1%いるといわれています。この計算ならば国内には120万人いることになります。そんなアスペルガー症候群の人が、社会人として生活を送っている際に顕在化しやすい特徴は、次の五つに集約されます。

 一つ目は、交渉事が極めて苦手なことです。通常のビジネスシーンならば、相手と何か取り決めをする場合は、自分の意見を言うと同時に相手の意見も聞いて落としどころを探るものです。しかし、アスペルガー症候群の人は、自分の意見ばかりを主張し、相手が遠回しな言い方をすると本当に意味することに気づきません。つまり「忖度(そんたく)」が困難なのです。

 二つ目は、とっさのシチュエーションに対応できず、混乱することが多いことです。例えば1日に4件の仕事のアポイントメントがあったとします。1件目の終了直後に2件目の相手から延期してほしいと連絡が入りました。通常ならば、空き時間で別の業務を処理するか、後半2件の相手と交渉して予定をやや前倒ししてもらうなどの調整を行うものです。ところがアスペルガー症候群の人は、「どうしようか?」ということだけが頭の中で堂々巡りをし、結局何もせずに時間を過ごしてしまいがちです。

 三つ目は、自分の作業に夢中になって周りが全く見えなくなることです。例えば、仕事で大きなプロジェクトに関わっている最中に、その中の特定部分に異常なまでにこだわって作業を進め、全体の進行状況には無頓着になります。

 四つ目は、他人の顔と名前が一致させられないことがしばしばあります。基本的にアスペルガー症候群の人は他人への関心が低く、数回会った程度の人では、顔や名前を記憶していても、それが一致させられない。Aさんに会ったのに、同じ程度会ったことのあるBさんと勘違いしてしまうという具合です。

 そして五つ目は、特定の人と深く親しくなることが苦手なことです。大人社会では、仕事であれ、プライベートであれ、「ギブ・アンド・テーク」はある程度基本です。ところが、自分がひたすら与えるだけだったり、相手からしてもらうだけだったりすることが多いのです。

 ◇アスペルガー症候群の治療に光

 アスペルガー症候群には、薬物療法という手段は今のところありません。現在、行われているのは主として認知行動療法です。人は何かが起きた時に自然に頭に浮かぶイメージがあります。これを自動思考と呼びます。認知行動療法では、アスペルガー症候群の人の自動思考をまず把握し、現実と極端な偏りがないかを探り出します。偏りがあれば、そこを医師との対話を通じて修正していくのです。当然、一朝一夕で効果が期待できるものではなく、根気よく治療を続けることが肝要です。

 一方、新たな薬物療法の可能性も見え始めています。東京大学のグループが2015年9月、脳で生成されるオキシトシンというホルモンを1日2回6週間にわたって、アスペルガー症候群の人の鼻にスプレーすることで、対人コミュニケーションの改善が認められたと報告しています。

 オキシトシンは元々、子宮筋を収縮させて分娩を促進させる作用や乳汁分泌作用などが知られています。また、他人と信頼関係を築きやすくする効果があるとの報告もあります。日本では出産時の陣痛促進目的で注射剤が使用されていますが、ヨーロッパでは授乳促進目的で経鼻薬が使用されています。

 経鼻薬という形態は、脳の前頭前野に到達しやすいという特徴があります。前頭前野は、他者の感情や考えを理解したり、他者の考えを論理的・客観的に推論したりする機能に関わる部分を含んでいます。アスペルガー症候群への臨床応用が実現すれば、現在袋小路状態の治療に光明をもたらすかもしれません。

最終更新:7/15(土) 10:00
毎日新聞