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長期休暇の一部を別の時期に分散する「キッズウイーク」は是か非か、見解を聞いた

7/15(土) 1:03配信

産経新聞

 【ニッポンの議論】

 政府は、小中学校、高校の夏休みなど長期休暇の一部を地域ごとに別の時期に分散する「キッズウイーク」を創設し、来年度から導入する方針を示している。「休み方改革」の一環として親に有給休暇取得を促し、一時期に集中しがちな国内観光を分散するのが狙い。新たな旅行需要の創出効果も期待され、創設に賛成するニッセイ基礎研究所生活研究部主任研究員の久我尚子さんと、反対するジャーナリスト、細川珠生さんに見解を聞いた。(村島有紀)

■久我尚子さん「多様な休み方改革のひとつ」

 --政府は来年度から、キッズウイークを導入したいとしている

 「たとえば、夏休み中の最後の平日5日間を他の時期に移すと、土日を合わせて、新たに9連休ができる。休暇の分散化は、かなり以前から出ている案だ。ゴールデンウイーク(GW)やお盆の混雑、夏休み期間の旅行代金の高額化を見ていると、休暇の分散化は必要だろう。分散化し、需要が標準化されることで、『混雑しているから、行きたくない』と思っていた人が旅行に出かけるようになり、新しい需要が喚起される可能性がある。交通渋滞も緩和され、社会全体が安定化する」

 --5月24日の教育再生実行会議では、親子の時間を増やすために導入するとされた

 「日本の子供たちは、諸外国と比べて自己肯定感が低い。一方、自己肯定感が高い子というのは、親子の触れあいが多く、多様な体験をしている。親子の触れ合いの時間を増やし地域の教育力に頼ることで、子供の能力を開花させるのは、将来世代の育成のために必要だ」

 --政府案では、都道府県や区市町村ごとに休みを決める方向だ。18歳以下の子供のいる労働者が一斉に休んで、地域経済に影響はないのか

 「18歳未満の子供のいる世帯は全世帯の2割超にすぎず、それほど大きな影響はないだろう。フランスでは、すでに混雑の緩和を目的に休暇の分散が行われ、全土を3つに分けて学校休業日をずらして設定している。日本全体でみると、北海道は夏休みが短く冬休みが長いなど、もともと地域差がある」

 --子供の休みに合わせて、親が休めるのか

 「日本人の有給休暇取得率は約50%と低い。日本では周囲が休んでいないと休みにくいという風潮があるので、休みやすい雰囲気作りが必要。『子供の学校が休みだから』というのは、親が有給を取得する理由になりえる。ただ、『キッズウイーク』を大々的に掲げると『子供のいない人はどうなるの?』と反発を招きかねない。そもそもこれは、有給取得率を上げるための数ある個別施策の一つ。力強さに欠ける個人消費を少しでも活性化させ、休み方改革をどう進めるかというのが目的なので、子供の有無や、正規・非正規に関わらず、業務内容や家庭の事情に合わせて休めるようになるといい」

 --有給を取得しても、所得が増えなければ家族旅行には行けない

 「休みが増えても可処分所得が増えないと、お金は使えず、需要の先食いに過ぎないという意見もある。確かに、労働者の実質賃金が伸びない中で休暇を取っても、消費の活性化は期待しにくい。そこは、今後の最低賃金の引き上げに期待したい」

 <くが・なおこ>昭和51年、埼玉県生まれ。41歳。早大大学院理工学研究科修士課程修了。NTTドコモなどを経て現職。若年層のライフスタイルや消費者行動を研究。著書に「若者は本当にお金がないのか?」。

■細川珠生さん 「学校現場が混乱し、子供にしわ寄せ」

 --キッズウイークをどう思う?

 「夏休み中でも、共働きの両親がそろって休暇を取るのは難しい。年末年始の休みを合わせるのが精いっぱいという家庭も多い。もし、秋に学校が休みになり9連休が誕生したとしても、そのスケジュールに親が合わせるのは非現実的だ。また子供が2人、3人いて、私立も含めてそれぞれ違う学校に通っていたら、どうなるのか。フランスの『バカンス法』を参考に、日本でも2週間程度の夏季有給休暇を義務付けたほうが、よほど現実的だ」

 --公立小中学校は区市町村ごと、公立高校は都道府県ごとに、休業日を決める方針のようだ

 「現在でも、学校はそれぞれの教育方針に基づいて、休業日を決めている。夏季講習を行う学校もあれば、文化祭に力を入れている学校もある。秋は特に運動会や文化祭といった行事が多く、中学生以上になると定期テストもある。部活をしていたら、全国大会や対外試合もある。今でも祝日が多いため月曜の休業が多く、学校は授業の調整に苦労している。地域ごとに休みをずらすメリットが、見当たらない」

 --政府は今月中にも官民の合同会議を開き、来年度実施のための制度設計を始める

 「あまりにも突然で考えられない。小学校の学習指導要領が改定される32年度からの導入なら、まだ理解できる。とはいえ改定により、週当たりのコマ数も、外国語や情報教育など学ぶ内容も増える。学校現場が混乱したら、そのしわ寄せは結局子供たちがかぶることになり、反対だ」

 --働き方改革という目的もある。教員の過重労働も課題だ

 「静岡県吉田町のように来年度から夏休みを大幅短縮しようとする自治体がある。年間授業日数を増やし、教員の1日当たりの授業時間を減らし、長時間労働を解消するためだという。ただ、先生が忙しいからといって、休みの日数を先生の働き方に合わせるのは本末転倒だ。夏休みはしっかり休み、その長期休暇にしかできない経験をしたほうがいい。学校のない期間も子供の成長にとって大切だ」

 --キッズウイークは、政府の経済政策「骨太方針」に盛り込まれた

 「経済成長は大事で、人口減少に備えこれからは一層、人材のレベルアップが必要になる。しかし、キッズウイークの目的は、休暇を分散化して、観光収入を増やそうということ。目先の利益にとらわれた施策で一番良くない。子育て世代は、塾代など教育費の負担が大きく、経済状況は苦しい。さまざまな教育負担が変わらない中で、『旅行に行け』といわれても正直困る。人材育成のため、子育てと同様、長いスパンで将来を見据える施策を練ってほしい」

 <ほそかわ・たまお>昭和43年、東京都生まれ。49歳。聖心女子大卒業後、フリージャーナリストとして活動。千葉工業大理事、元東京都品川区教育委員。ラジオ日本「細川珠生のモーニングトーク」出演中。

最終更新:7/18(火) 10:00
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