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若いがん患者の「生殖」を守れ がん専門医と産科医が手を握った理由

7/15(土) 11:41配信

産経新聞

【医療最前線】

 がんと診断された若い患者が将来の妊娠や出産を諦めなくて良いように、がん治療の専門医師と生殖医療を行う産科医が協力して患者の治療に取り組む動きが始まった。日本癌(がん)治療学会は今月中に、若いがん患者の「妊孕(にんよう)性温存に関する診療ガイドライン(指針)」を公表する。こうした動きの背景には、がんが「治る病気」になってきたことが大きい。

 ■がんの治療が最優先

 「2人に1人ががんになる時代、早期発見や治療の進化で70~80%の人は治癒する時代に入った。治療中や治療後の生活の質を大切に、人生の喜びを守っていくことが注目されている」

 日本癌治療学会の北川雄光理事長は13日、指針公表にあたっての記者会見でそう述べた。

 学会が作成した指針は40歳未満でがんと診断された患者が対象で、将来、子供を持つ可能性を残す治療方法をまとめたものだ。具体的には、抗がん剤の影響や生殖器の手術などで子供を持てなくなる場合に備え、あらかじめ精子や卵子を凍結保存しておく方法や、手術の際の切除部位などが示されている。また、治療からどのくらいたてば生殖医療を開始して良いかについても言及している。

 もちろん、どの場合においてもがんの治療が最優先であることは大前提だ。その上で、将来の子供を持てる可能性について適切に情報を伝え、患者が希望する場合は、早期に生殖医療の専門医を紹介することが明記されている。また、若い人のがんには遺伝性のものも多いが、その場合は子供もがんになりやすくなる可能性があり、遺伝カウンセリングを受けられるようにする。

 ■10年後、20年後の人生

 指針の内容は乳がんや子宮頸(けい)がん、精巣がん、白血病、脳腫瘍、小児がん、肉腫など多岐にわたり、こうした横断的ながんに対する妊孕性温存に関する指針の作成は初めて。ではなぜ、このような指針が必要だったのか。

 指針を作成したワーキンググループの鈴木直・聖マリアンナ医大教授によると、欧米には同様の指針がすでにあるといい、今回の指針は海外のものも参考に、日本特有の事情などにも配慮して作成された。

 一般的に、がんの治療を行う医師は生殖医療の専門医ではないため、これまでは卵子、精子の凍結保存などの生殖能力の温存について説明が行われないことが多かった。ワーキンググループの青木大輔委員長は「昔は治った後に子供を持つということまで考えが及ばなかったが、今はがんサバイバーが増え、10年後、20年後の人生が考えられるようになった」と話す。

 生殖医療に取り組む医師の方も、これまではがん治療医から患者を紹介されても標準的な医療が何かが分からなかったが、指針ができたことにより、がん治療医と生殖医療専門医の双方が納得できる治療が進められる。医師だけでなく、看護師や薬剤師、臨床心理士など科や職種を超えた連携が進むことも期待される。一方で、人手不足などから協力体制づくりが難しい地域もあるとみられ、今後の課題となっている。

 ■助成働きかけも

 また、治療を希望しなかった患者や、希望しても生殖能力の温存が難しい患者への心理的なケアも求められる。例えば、がんの種類によっては卵巣の中にがん細胞が残っている場合もあり、卵巣の凍結保存が適用外となることもある。鈴木氏はそうした患者への支援として、「子供を持たなかった場合の情報も与えるべきだ」と語る。さらに、「若い患者さんはただでさえがんの治療費がかかるなか、経済的理由から温存を諦めざるを得ないかもしれない。国や自治体の公的助成制度ができるよう働きかけもしていきたい」と意気込んでいる。

     ◇

 【生殖細胞の凍結保存】 将来の妊娠のため精子や卵子、受精卵を液体窒素などで凍らせて保存する技術。卵子や精子は解凍して体外受精させた後、女性の子宮に戻す。不妊治療のほか卵子の老化に備えた凍結も行われているが、日本産科婦人科学会はがんなどの治療で妊娠できなくなると予測される場合のみ、「医療行為と考えられる」との見解を示している。

最終更新:7/15(土) 11:41
産経新聞