ここから本文です

あの事件を先に緻密に描いてしまった、真保裕一さんの取材力とこだわり

7/15(土) 12:05配信

スポーツ報知

真保裕一さん「暗闇のアリア」

 1990年代から幅広いテーマのエンターテインメント小説を生み出している作家・真保裕一さん(56)の最新刊「暗闇のアリア」(KADOKAWA、1728円)が14日、発売された。約400ページの長編ミステリーは「連鎖する謎の自殺」がテーマ。先の読めない展開で読者を夢中にさせる真骨頂のハードボイルドだ。真保さんに作品の魅力と物語が生まれるまでの裏側を聞いた。(甲斐 毅彦)

 スケールの壮大さと重量感、そしてどう展開するのか予想がつかない奇想天外さは、まさに真保さんが描くハードボイルドの王道といえるだろう。90年代から「連鎖」「ホワイトアウト」「奪取」などのヒット作に魅了されてきたファンとしては、待望の一冊だ。

 「最近はハードなものより、軽いものが受けている気がして、今どきこれで大丈夫かな、という気もしました。90年代はお弁当箱のような分厚い本が売れた不思議な時代でしたが、今は薄い本の方が売れていますから。でも、連載(小説野性時代)している時に『これ面白いんじゃない』と言ってくれる編集者がいたんで。力を入れて書きました」

 物語は北アフリカの紛争地帯で幕を開ける。ある経産省キャリア官僚が首をつった状態で死亡。娘は電話で「もう生きていけない」という父親の最期の声を確かに聞いた。だが妻は、夫は自殺ではない、殺されたのだ、と確信する。相談を受けた元刑事が、内密に過去の事件を調査していくと不可解な「自殺」を遂げた人たちがいることが次々と明らかになる…。

 「分厚いミステリーには、どこへ着地するのか分からず、えっこんなふうになるの?という面白さがあると思います。どこへ連れて行かれるんだっていうのを楽しんでもらいたいんですよね。登場人物がうねりに巻き込まれて、読者もそれを一緒に体験できるような話が書けたらいいな、とはいつも思っています」

あの国際的犯行を、先にしかも緻密に

 フィクションならではの大展開だが、読み応えを感じさせるのは、細部へのこだわりだ。犯行のカラクリとなる技術は、著者自身の取材に基づくもの。ネタバレになるので内容は明かせないが、作品内には今年発生した国際的な重大事件を想起させるシーンがある。だが、実際の事件が起こるよりも真保さんの執筆の方が早かった。しかも、その犯行は真保さんが描いた手口のほうが、はるかに緻密だ。

 「(実際に起きた)あんな茶番劇のようなものにはしないですから。ニュースが流れた後、編集者にメール送ったんですよ。変なのが起きちゃったね、と(苦笑)。でも(事件と物語では)レベルが違う」

 少年時代から望月三起也氏の「ワイルド7」など数多くの名作漫画に親しみ、ディック・フランシス(英国)らのミステリーを愛読。作家デビュー前にはアニメーターとして活躍していた真保さんの引き出しの多さは驚異的だ。作品のテーマは推理小説にとどまらず経済、歴史…と幅広い。そして09年の「デパートへ行こう!」で始まった「行こう!」シリーズも人気となった。アイデアは全く尽きないという。

 「ほんと不思議ですよね。自分でもよく浮かぶもんだな、と。子どもの頃から漫画、アニメ、小説が大好きで、物語を作りたいと思って、50年近くそういう訓練をしてきたようなものですから。いつも一生懸命に取っかかりを探しているのは間違いないです。電車に乗っていてもいろんな人を観察してるって家族に言われますね。生活していれば何か引っかかるものってあると思うんですよ」

1/2ページ

最終更新:7/15(土) 12:05
スポーツ報知