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<国際熱核融合実験炉>ビゴ機構長に聞く Q&A

7/16(日) 3:00配信

毎日新聞

 日米欧など7カ国・地域が共同でフランスに建設を進める国際熱核融合実験炉(ITER)。太陽の輝きの源である核融合エネルギーの実用化を探るための国際共同研究プロジェクトが、米トランプ政権の誕生や英国の欧州連合(EU)離脱の決定に揺れている。ITER機構のビゴ機構長に聞いた。【サンポールレデュランス(フランス南部)で八田浩輔】

Q 英国は(EU共同の核融合実験施設である)欧州トーラス共同研究施設(JET)に2020年までの予算措置を講じると公表しました。ITERを巡る方針でこれまで英政府から何らかの約束はありましたか。

A 英国は核融合研究で常に重要な役割を果たしてきた。さらに英国には核融合研究で非常に重要な資産といえるJETが置かれ、ITERと協調しながら新たな実験を続けることを望まれてきた。英国がEU離脱を決めたにもかかわらず、20年までJETの運転を続けると宣言したのは非常に良いニュースだ。EUの欧州委員会がこの正しい決定を支持すれば、JETは少なくとも20年まで運転が継続される。英国の核融合政策とITERの将来にとって緊密な連携が必要なのは明確だ。英国には施設だけでなく、熟練の作業員、エンジニア、専門家などのスタッフがいる。もしJETからITER(運転開始)までの間に時間があけば、これらの人々はどうすればいいのか。

Q 今年6月のITER機構理事会で英離脱について議論はありましたか?

A 交渉は始まったばかりだ。現状で我々が分かっているのは、英政府が核融合研究にとどまる強い意志を示したことだ。核融合研究の発展とそれに携わる若い人たちにとってITERが最良の研究施設であることも英国は理解している。JETの幹部からはITERには可能な限りとどまりたいというメッセージを受け取った。ITERには多くの英国人がかかわり、英国の企業も装置などを分担して供給している。継続性は最も重要だ。仮にITERから英国が離脱することになれば、孤立することは誰でも分かる。核融合技術を進める上で大きな困難に直面するだろう。私の観点からは英国がITERにとどまることはウィンウィンの関係だ。英政府はJETの継続を通じてその立場を示したが、同時期に大臣からITER(の残留)も視野にあることを知らせる書簡が届きとても喜ばしく思っている。

Q 英離脱後の費用負担についてはどうなるのでしょうか?

A 欧州原子力共同体(EURATOM)では加盟国の国内総生産(GDP)に基づく分担がある。私の考えでは、あくまで交渉上の立場だが、英国がITERにとどまりたい場合、現在と同じ基準を負担し続けるべきだ。基準を変えることになれば、他の加盟国にも影響するし、EU加盟国からも疑問が出る。英国がEUから離脱してEURATOMから脱退してもITERとの交渉の入り口は、同じ費用負担だ。

Q もう少し広い視点から英国がEUとEURATOMを離脱することへの懸念はありますか? 核融合研究だけでなく、科学研究全般への影響などは。

A 私は交渉担当者ではなく直接政治交渉には干渉しない。ただ英国は多くの加盟国同様にエネルギーを輸入に頼っている。エネルギー政策の観点からは自立性を高めて依存度を下げる必要がある。選択肢は多くない。再生可能エネルギーと原子力だ。英国はこれまで原子力を継続する選択をしており、私は英国の関心は原子力分野では欧州と協力を続けることにあると思う。EURATOMから離脱したとしても、その協力を続けるという意味だ。欧州側も英国と協力を続けることに利益がある。核融合を含めた原子力分野では欧州と英国は協力のための道を模索する必然性があり、双方共に理解している。非公式であったとしても、それが私がこれまで双方から受け取ったメッセージだ。

Q トランプ米大統領という別の不確実性もあります。ITERはトランプ政権下で存続できるのでしょうか。米側にITERは米国にとって良い取引であると説得を?

A 米政権と大統領に対してITERにとどまり、期待されている役割を果たし続けるよう説得を続けていく。米国の負担は(EU以外の加盟国と同じ)9%だ。単独でこのような施設を建設し、運用できる国はない。米国であろうと同じだ。世界の人口のおよそ半分、そして世界のGDPの85%を占める七つの加盟国・地域による大規模な国際協力はきわめてまれだ。我々は(将来のエネルギーとして)核融合という選択肢を持てるのか、持てないのかを知る必要がある。私はこれが長期的に米国にとっても利益になると信じている。(説得に)ベストを尽くす。

 ではITERは米国なしで存続できるのか。最も難しい問題は米国が負担する9%だ。決して大きな割合とは言い難いが、二つの重要なことがある。米国は(加盟国ごとに課された)設備や機材を製作する責任があり、すでに着手している。米国には優れた科学者もいる。もし米国が離脱し、ITERが続くのであれば、米国が費用負担する必要があるものを残る加盟国・地域が担う必要がある。遅れが生じ、費用負担も大きくなる。すでに米国の企業が着手している特定の設備を、誰かが作らなければいけない。ITERは決定的な打撃を受ける。

 それでも核融合は利用可能な技術であるかどうかを本当に知りたいと考えている加盟国・地域はITERを継続させたいと望んでいる。トランプ政権に正しい情報を提供し、このプロジェクトをきちんと運営して成功に導き、ITERにとどまることが明確に米国の利益になると伝えることは我々の責任だ。これは急を擁する。繰り返すが、調達、搬入などが複雑に連なっており、一国が責任を満たさなければ即座にプロジェクト全体に影響する。緊急性については、他のITER加盟国・地域とも共有している。もし2年で「良い決断」が下されたとしても正直に言って既に遅い。

Q イランとのITER加盟交渉の現状はどうなっていますか?

A イランは(正加盟国ではない)パートナー国として参加することを求めている。イランの指導者もITERを訪れて私と会談もしたし、私自身も施設の評価のためにイランを訪れた。我々は共同作業できる領域について確認し、それには7加盟国・地域の全会一致での合意が必要だ。当面は保留している。米国はイランの政策についての懸念があり、米国の対イラン政策が明確にならない限り、米国との議論は当面止めておきたい。

Q イランはすぐにでもパートナー国になりたいと?

A そうだ。イランは10年間出資する意志について明確に合意している。

Q 米国はイランに何を求めているのでしょう?

A ITERに限らずグローバルな戦略での位置付けだ。JCPOA(イランの核問題に関する包括的共同作業計画)が適切に履行されているかどうかを疑問視している。JCPOAには核融合での協力可能性についてもITERについても言及している。しかし、(米国内で)JCPOAが履行されているかどうかの議論がある限り、どう進めていいのか分からない。明確にしたいのは、米国が議会に適正な額の予算を要求しない以上、「新たな(参加国との)交流について検討してほしい」と聞くのはナンセンスだ。米国の意向が明確にならない限り、私自身がこの案件を米国とのテーブルに持ち込まないという選択をしている。

Q ITERは昨年、計画の遅れとさらなる負担の増加を公表しました。日本でも費用増とスケジュールの遅れには批判があります。信頼を構築するために必要なものはなんだと考えますか。

A 信頼を築くために必要なのは計画通りに進めることだ。私が(15年に)着任する前は現実的なスケジュールがなかった。このように大きなプロジェクトは多くの異なる技術を一つにしていく必要があり、望むようには早く進まない。しかし第三者の独立した評価を経て信頼できる計画を作成した。計画に基づき進捗(しんちょく)を守ることは内部での信頼構築にもつながる。日本の継続的な支援には感謝している。日本は天然資源の不足という多くの国と共通する将来の問題がある。再生可能エネルギーは除いても化石燃料はない。ウランも不足する。福島第1原発の事故による懸念から日本では安全で、環境への影響が小さく、経済的にも競争力のある代替的な技術が求められている。多くの選択肢がないのは明白だ。最近も日本からの訪問者が多くあり、強い支持を表明してもらった。日本は核融合において主要な役割を果たし続けてきた。(那珂核融合研究所がある茨城県の)那珂市はITERを支える中心的な場所だ。

Q 自然災害、テロなどへの安全対策は?

A 核融合炉に投入する燃料は非常に少ない。制御不能に陥るリスクはない。磁場や温度などパラメーターに異常があればただちに自動停止する。地震、豪雨、雪、雷でも本質的に安全だ。主要なリスクは二つある。一つは火災だ。水素を使うためだが、仮に爆発があったとしても長期的な放射線によるダメージはない。二つ目に(燃料に使う放射性物質の)トリチウムを取引しようという悪意ある行為だ。現在トリチウムは構内にはないが、構内に立ち入ることはできないし、取り扱う者には完全な訓練を行う。建屋は飛行機が突入しても、あるいは武器で攻撃されようと影響はない。核融合は人間にとっての恵みとしてのイメージがある。誰もが太陽の恩恵を受けている。だからこそ我々は最も安全な方法を真剣に示していきたいと考えている。

 【ことば】国際熱核融合実験炉(ITER) 原子核どうしを高速でぶつけ合い異なる原子核を生む「核融合反応」で生じるエネルギーの利用を目指す実験施設。1985年の米ソ首脳会談が計画の発端で、日米欧など7カ国・地域が加わるITER機構が運営を担う。日本を含む誘致交渉の末、2010年夏に仏南部で着工した。核融合は太陽の光の源で「地上の太陽」とも例えられ、今世紀後半の実用化を目指すが課題は多い。核分裂反応を利用する通常の原子力発電とは異なり、高レベルの放射性廃棄物は発生しないとされる。

最終更新:7/16(日) 3:00
毎日新聞