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藤井聡太四段の対局中の出前ですっかり名所に 東京・千駄ヶ谷の「みろく庵」はどんな店か 「豚キムチうどん」とは 

7/16(日) 17:30配信

産経新聞

 プロデビュー後、29連勝を果たし将棋の連勝記録を30年ぶりに塗り替えた中学3年生の天才棋士、藤井聡太四段(14)。抜群の大局観を養う上で一役買ったのではないか-と、注目を集めたのが「豚キムチうどん」。新記録である29連勝がかかった対局中、麺党で知られる藤井四段が将棋会館(東京都渋谷区)で昼食に頼んだ。出前をした日本そば店「みろく庵」は、今では名所となり、藤井四段の勝負強さにあやかろうと、豚キムチうどんを頼む客が引きも切らないという。

■5店のメニューから選んだ「みろく庵」の豚キムチうどん

 「藤井君が食べたと報道されたら、突然豚キムチうどんが人気メニューになってしまいました。(食べれば勝負事に強くなれると)縁起をかついでいるのかな。暑い日が続くっていうのに、売り切れてしまう日もあるんですよ。もう、ちょっとしたフィーバーですね」

 うれしさと困惑が相半ばといった複雑な面持ちで話すのは、「みろく庵」(檜垣善啓社長)を切り盛りする女将(おかみ)、檜垣えりこさん(66)だ。

 「みろく庵」は、JR千駄ヶ谷駅(同区千駄ヶ谷)から歩いて3分、将棋会館からなら15分ほどの住宅街にある、ごく普通のそば店だ。

 6月26日、藤井四段は公式戦無傷の29連勝をかけて「将棋会館」で行われた第30期竜王戦決勝トーナメント1回戦、増田康宏四段(19)との対局に臨んだ。

 日本将棋連盟渉外部手合課の三枝勇人主任(31)によると、午前10時に始まった対局は、正午から午後零時40分までが昼食の休憩にあてられた。

 対局者には連盟担当者から、あらかじめ、日本そば、中華料理、すしなど将棋会館周辺の5店の店屋物メニューが手渡されていた。

 藤井四段は5つのメニューに一通り目を通すと、「みろく庵」を選び、優に100は超えるであろうの同店の料理の中から「豚キムチうどん」(950円)を選んだ。

 連盟担当者から注文を受けたみろく庵の配達担当の男性が会館入り口にバイクで乗り付けたのが午前11時53分。豚キムチうどんんは、正午前に無事に届けられた。

 藤井四段が昼食に豚キムチうどんを食べた。報道され、インターネットのSNS(交流サイト)などで拡散されると、直後からみろく庵には、豚キムチうどんを注文する客が引きも切らず、ついには売り切れとなってしまった。

 「この日を境に豚キムチうどんを普段の倍近く用意するようにしました。これまでは出ても日に30食程度でしたが、今では50~70食ですね」とえりこさん。

 みろく庵には、将棋ファンや食通とおぼしき幅広い年代のお客がひっきりなしに訪れるようになり、マスコミの取材も殺到。知名度は一躍、全国区となった。

■「おいしかった」と満足してかえってもらえたら

 みろく庵は、1982年創業だから今年で35年目。将棋会館“御用達”の出前店の1つだ。店内にはテーブルが詰め込まれ、席数は30。夜は居酒屋メニューも。

 「別にまどろっこしいコンセプトなんて何もないわよ。お客さんがおそばをおなかいっぱい食べてくれて、最後に『おいしかった』と満足して家に帰ってもらえればそれでいいの」

 藤井四段のプロデビュー戦初戦に立ちはだかった「ひふみん」こと、加藤一二三九段(77)も常連客の1人だという。

 史上初の中学生棋士としてデビュー後、大山康晴さんら名だたる大物棋士と対局、数々の実績を残し6月に引退した「ひふみん」は、会館から出前をとるだけではなく、店に顔も出すこともあるそうだ。

 また、みろく庵から1キロほど離れた神宮球場を本拠地とするプロ野球「ヤクルトスワローズ」の選手も練習後、クラブハウスなどから出前を頼むという。藤井四段が29連勝を飾ったその日には、由規投手(27)が藤井四段の勝負強さにあやかろうと「鴨南蛮そば」(同800円)を注文したという。

 漫画雑誌「月刊コミックフラッパー」(KADOKAWA)に連載中の人気漫画「将棋めし」の作者である漫画家、松本渚さんもネタの仕込みで取材に訪れることがあったという。

 「将棋めし」は、主人公のプロ棋士が対局の休憩中に食べるメニューを紹介し、その食事がいかに勝負の行方を左右するかを描く。異色のテイストの源泉はみろく庵にあったのだ。

■出前メニューを増やす

 「開店の頃から将棋会館さんに利用していただいてます。対局中の大勢の棋士が将棋連盟の職員を通して注文してくれるんです」とえりこさん。

 連盟の三枝主任によると「食事をしながら対局はしません。持ち時間が5時間以上の対局では夕食休憩があります」。

 通常の対局なら、昼食休憩は前述のように正午~午後零時40分。夕食休憩は午後6時~同40分と決まっている。

 将棋会館の対局中に、店屋物を注文する棋士が多いのは、会館からの外出が禁じられていることの影響が大きいという見方がある。

 2016年、「離席が目立つ」として三浦弘行九段(43)が将棋ソフトの不正使用を疑われる問題が起きたことを受け、連盟は東西の将棋会館で行う公式戦の電子機器規制を定めるとともに、同年12月14日から棋士に対し、対局中に会館からの外出を禁じた。

 そして連盟は今春、休憩中に利用できる出前店を東京の会館で1店増やして計5店に、大阪の会館では3店増やして計6店とした。

 三枝主任は将棋ソフト不正利用疑惑との関連については明言を避けたが、「対局中の棋士に対し食事の際の便宜を図ろうと、選択肢を増やした」と話す。

■特徴? 特徴なんかないですよ

 さて、その豚キムチうどんのお味は?

 記者はみろく庵入り口に最も近い2人掛けの「1番テーブル」に座った。壁にはインターネットテレビ局「AbemaTV」の将棋チャンネルのPRポスターが掲示され、藤井四段が羽生善治棋士(46)らと一緒に収まっていた。

 2つ左隣の2人掛けの席では、友人同士とみられる70代の女性2人がメニューを熟読。1人が「藤井君がすごいことになっちゃっているから、私も『豚キムチうどん』に挑戦するわ」と宣言すると、いま1人は「こんなに暑いのに温かいものを食べるの?」と苦笑いしている。

 待つこと15分。えりこさんが、ぐつぐつと煮立った豚キムチうどんを運んできてくれた。

 「特徴? 特徴なんて何もないですよ。見ての通り、これが温かい豚キムチうどん。私としてはお客さんにおなかを満たしてほしいという思いだけ」

 考えるな、感じろ-と言わんばかりのえりこさん。カンフー映画「燃えよドラゴン」(1973年)のブルース・リー(1940~1973年)にも通じる心構えが必要らしい。

 いかにも辛そうな赤い汁だが、レンゲで口に運ぶと、意外にも辛くない。むしろ甘辛と言っても差し支えないだろう。味を引き締めるキムチと、まろやかな味を演出する半熟の卵が絶妙なコントラストをなしている。

 4~5センチに薄く切られた豚肉もたくさん入っている。太く長く重いうどんも印象的だった。思わず箸からうどんを落としてしまうこと数回。赤い汁がワイシャツにはねてしまうのを見るや、すかさずえりこさんが炭酸水を持ってきてくれ、1~2分かけて丁寧にシミを拭きとってくれた。

 なぜ、藤井四段が豚キムチうどんを選んだのか。理由は分からないが、疲れやすく、食欲も出ない夏に食べる意味は大きいようだ。

 料理研究家の吉原ひとみさんは「疲れに効果があるといわれているビタミンB1。部位にもよりますが、豚肉に豊富に含まれています。ビタミンB1は、うどんに含まれている糖質(ブドウ糖)を体内でエネルギーに変える働きもあるようです」と解説。

 また、食べやすさも挙げ、「うどん単体では栄養がそれほど含まれていないものの、消化が良く食べやすい。食欲がなかったり、暑い日でも、キムチの酸味や香辛料をうどんに加えることで食欲増進につながるのではないでしょうか」と話す。

 暑い日が続くが、藤井四段のパワーの源の1つを試食し、元気をもらうのも一考かもしれない。



 ちなみに-。29連勝を飾った日の夕食は1966年創業の中華料理店「紫金飯店原宿店」(渋谷区神宮前)の「わんたんめん」、28連勝を決めた澤田真吾六段との対局(関西将棋会館)での昼食は「小雀弥(こがらや)福島店」(大阪市福島区)の「胡麻味噌とじうどん」、そして、ひふみんを下したプロデビュー戦の昼食は「みろく庵」の「みそ煮込みうどん」-と、藤井四段、まさに麺党の面目躍如といったラインアップだった。(文化部 高橋天地)



 ●みろく庵 

 【住所】東京都 渋谷区千駄ケ谷4の19の14  【電話】03・3403・6031 

 【営業時間】月~日曜日午前11時半~午前1時  【定休日】年末年始

 【その他】カード不可

最終更新:7/16(日) 17:30
産経新聞