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【漢字トリビア】「滴」の成り立ち物語

7/16(日) 11:30配信

TOKYO FM+

「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今回の漢字は「滴(しずく)」、「水滴」の「滴」。「滴る」と読めば、夏の季語です。

「滴」という漢字は、さんずいと音をあらわす「テキ」という字を書きます。
「しんにょう」を加えれば「適当」の「適」になる字です。
これは植物の茎と果実とをつなげる「蔕(ヘタ)」の部分を表したもの。
「蔕(ヘタ)」は、うまく実を結ぶとまるくなります。
その様子を示した「テキ」という文字にさんずいを添え、まるくなって滴り落ちる「しずく」を表したのが「滴」という漢字。
「しずく」「したたる」「したたり」という意味に用います。
「山滴る」も夏の季語。
雨の季節を経たこの時期に分け入る山の風景は、木々も岩肌も足元の苔も、すべてが緑の滴りで覆われています。

「春の山淡冶にして笑うが如く、夏の山蒼翠として滴たるが如し」
これは、中国・北宋の画家、郭煕が残した言葉です。
春を迎えた山は、淡く溶けるように微笑んでみえる。
そして、夏の山には青葉や若葉が生い茂り、みずみずしさに満ちあふれている。
いにしえの人が山を見上げて感じた素朴な喜びが、それぞれ「山笑う」「山滴る」という季語となり、今に伝わってるのです。

この時期の山は、しっとりつややかな緑の宇宙。
山肌からはぽたり、ぽたりと、湧き水が伝い落ちています。
完璧な球体を保つ透明な滴りは心身を洗い、ゆったりとしたそのリズムは、浅くなっていた呼吸を、整えてくれるのです。

ではここで、もう一度「滴」という字を感じてみてください。

解くすべもない惑いを背負って放浪の旅へ向かった自由律俳人、種田山頭火。
彼は、旅を始めたばかりの九州の山で、有名なこの句を詠んだといいます。
「分け入っても分け入っても青い山」
緑滴る夏の山で、その生命力をわが身にうつしとった喜びの句か、それとも、あてのない旅路の不安をやわらげる処方箋としての一句だったのか。
山々をめぐる旅はその後も続き、次々と句が生まれます。
「しとどに濡れてこれは道しるべの石」
「すべってころんで山がひっそり」
彼がたどった心の旅路を確かめてみたくて、ふと、夏山を目指したくなります。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。
その想いを受けとって、感じてみたら……、
ほら、今日一日が違って見えるはず。


*参考文献
『常用字解 第二版』(白川静/著 平凡社)
『読んでわかる俳句 日本の歳時記 夏』(宇多喜代子、西村和子、中原道夫、片山由美子、長谷川櫂/著 小学館)

(TOKYO FM「感じて、漢字の世界」2017年7月15日放送より)

最終更新:7/16(日) 11:30
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