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[ニュース分析]死、精神疾患そして業務上災害…自殺ではない、それは労災だった

7/16(日) 6:03配信

ハンギョレ新聞

2000年~2016年に労災判決を受けた 自殺・精神疾患21件の分析 「業務変化」のストレスが1位 コンド総務職員を客室管理に配置 仕事が不慣れなのに「まだ終らないのか」と督促 ストレスに苦しみ極端な選択

 法は労働者の身体的健康だけでなく精神的健康も保護されるべき対象として規定しているが、現実ではストレスなどによる自殺と精神疾患の労災認定は容易なことではない。2000年から2016年まで裁判所で業務上災害と確定した21件の自殺・精神疾患の判決文を分析してみた。

 保健福祉部の『2017年自殺予防白書』によれば、2015年の自殺者は1万3513人(統計庁集計)で、死亡原因全体の5位を占めている。自殺者の中に就業者と非就業者が占める比重は、学生(生徒)・家事・無職が57.6%(7784人)、就業者は42.4%(5729人)だ。2011年の統計で自殺者中非就業者の割合が61%(9706人)、就業者割合が39%(6200人)だったことから見れば、極端な選択をした人々のうち就業者が占める割合が増えている傾向にあると言えよう。

 就業者がこのような選択をした原因を把握できるような統計はない。ただし「自殺の動機」が記録された警察庁統計数値によれば、2015年の死亡者1万3436人中559人(4.2%)の動機が「職場や業務上の問題のため」となっている。2012年には577人、2013年には561人、2014年には552人と記録されている。「職場及び業務」から生じるストレスが年に500人ほどの犠牲者を出しているわけだ。自殺にまで至らなくても「職場及び業務」による精神疾患被害者の規模も相当なものと思われるが、これも正確な統計はない。

 労働災害補償保険法(労災保険法)施行令第36条は、業務上の理由から精神的異常状態で自殺のような自害行為をしたということが医学的に認められれば業務上災害と認めるよう規定している。また、業務と関連して精神的な衝撃を誘発し得る事件などで発生した外傷後ストレス障害や適応障害、鬱病などの精神疾患もまた、業務上災害とみなしている。

 このように韓国の労災保険法は労働者の身体の健康だけでなく精神の健康も保護されるべき対象として明確に規定しているが、実際には労働者の業務上災害認定は容易なことではない。ハンギョレはクォン・ドンヒ労務士(法律事務所「明日」所属)とともに、2000年から2016年まで裁判所で業務上災害と確定した21件の自殺・精神疾患の判決文を分析した。

■「業務変化」がストレスの1位
 労働者が自殺するあるいは精神疾患にかかる理由は一つだけでは説明できない。そのため判決文に登場する多くの職場ストレスの原因のうち「業務変化」がとりわけ多く指摘されている点は注目に値する。

 コンドミニアムの総務チームに勤務していたLさんは2009年、一度もやったことのない客室管理を任された。500を超える客室を維持・管理する業務はLさんにとって不慣れな仕事だったが、副総支配人は客室の電話機に付いたシールの除去、エアコン点検などを指示し、さらに「その仕事はそんなに時間がかかるんですか」と随時督促した。客室管理業務担当になってからLさんは不眠を訴えたり不安そうな姿まで見せた。2010年8月、Lさんは業務遂行の困難さ、会社の違法な業務処理などを記した遺書を残して亡くなった。大邱(テグ)高裁は去年7月「担当業務の突然の変更、変更された業務による自尊心損傷、ひどい侮辱感と羞恥心を誘発する事件に直面して業務上の深刻なストレスを受け急激な憂鬱症状などが誘発された」としてLさんの自殺を業務上災害と認めた。

 軍需産業体に勤めていたCさんは軍需観測装備の組み立て・試験を担当していたが、2012年8月射撃統制班に移った後、大きなストレスを受けて退社まで考えるほど悩んだ。結局Cさんは同年10月12日病院に行って「新しい業務によるストレスが大きく、初めてのプロジェクトを担当して心配でよく眠れず食事もまともに取れない」と訴えた。適応障害と不安障害診断を受けてから4日目にCさんは自ら命を絶った。大邱地裁は2014年「射撃統制班に移動した後、普段扱ったこともなく関連知識もない業務を担当することになり多くの心的負担を感じるようになった」とし、勤労福祉公団の処分を覆して業務上災害と判断した。

成果主義の犠牲者
売り上げ圧迫されていたIPTV事業部長
記事負担に圧せられていた中堅記者
不眠・不安にさいなまれ命を絶つ

■ 条件・状況を考慮しない「成果主義」
 通信分野でのみ働いてきたLさんは2010年にIPTV事業部長を務めるようになった。部署移動の直後から営業損失が発生した上に2012年には市場占有率が下落し、Lさんはすべてが自分の責任に帰される雰囲気の中で「売り上げ増大」の圧迫にさいなまれた。そして2012年8月に命を絶った。ソウル行政裁判所は2015年8月「LさんはIPTV事業に関する経験が全くない状態で会社の重点事業の売り上げ増大に対して負担を持っており、販売不振が続けば地位が保障されないかも知れないという不安を感じていたものと推断される」と判断した。

 成果を上げなければならないという圧迫感は、長年やってきた慣れた仕事だからと言って違いはなかった。

 ある生命保険会社の支店長だったJさんは一日単位、週単位、月単位で目標対比実績を報告しなければならなかった。しかし2013年1~3月まで営業実績が27%下落する中でストレスを受けたJさんは2013年3月に自ら命を絶った。証券営業などを担当していたSさんも、2011年東日本大地震と世界金融危機の余波で顧客投資金に51億ウォン(約5億円)の損失が生じると「死をもって償う」として2011年8月に命を絶った。

 記者だったKさんは入社19年目にして初めて社会部に人事異動されると、精神的ストレスで鬱病診断を受けた。Kさんは他の部署に移ったが鬱病は持続し、4大河川特集企画記事を準備する中で2011年9月に極端な選択をした。勤労福祉公団は「20年間記者生活をした人であり、ストレスは認められるが死亡に繋がるほどの負担ではない」として業務上災害を認めなかった。しかしソウル行政裁判所は2014年11月「4大河川特集企画製作を担当するようになり普段の2倍の分量の仕事を消化するために心的苦痛が加重され、成果を出さなくてはという精神的圧迫感が以前より大きかったと思われる」として業務上災害不認定の判断を覆した。

解雇は復職後にまで傷跡残し
地下鉄、高速運行・安全維持等
劣悪な環境が精神疾患誘発も

■ 「解雇」は殺人だった
 2009年の整理解雇後死亡した双龍(サンヨン)自動車解雇者が28人にのぼり「解雇は殺人」だという声が高まったことがあった。高麗大のキム・スンソブ教授研究チームの「2015年共に生きよう希望研究」によれば、「過去1年間、鬱および不安障害経験」のある双龍自動車解雇者の割合(75.2%)は自動車工場労働者(1.6%)の47倍に至った。

 海藻類加工食品業体に勤めていたPさんは、会社と葛藤をきたし2013年3月に解雇通知を受けるや自殺を選んだ。社長は防犯カメラで職員の勤務を管理し、社長の頻繁な叱責に一部職員が出勤を拒否して反発した。社長はPさんが主導したと見てPさんと同僚を解雇した。光州(クァンジュ)高裁は2015年「自分が解雇されたという精神的な衝撃のほかに自分のために同僚まで解雇されたという自責の念まで加わり、耐え難いストレスを受けたと思われる」としてPさんの業務上災害を認めた。

 解雇の傷は復職後も容易に癒えなかった。学校の非正規職調理師であるSさんは2007年1月、正規職調理師が同じ学校に発令されると解雇された。 4カ月後の同年5月、地方労働委員会の不当解雇判定でSさんは学校に戻ったが、急性ストレス反応などで精神科に通うようになった。光州高裁は2011年「突然解雇されたのであり、復職するまで相当なストレスを受けたものと見られる」と判断した。

 日常的に雇用不安を経験している非正規職は特にストレスに脆弱だった。派遣労働者のSさんは2003年ある工場に派遣されてコンピュータ管理業務などを担当したが、派遣業者と工場との契約が終結して2006年5月から失職の危機を迎えた。2003年から2006年の間、1年または3カ月単位で契約を結んでいたSさんは「アルバイトでやれと言うが、ずっとそんなふうに勤めていられるか」と憤慨して酒をたくさん飲んだ。ソウル行政裁判所は2011年、Sさんの自殺を業務上災害と認めて「雇用不安による心理的圧迫感など深刻なストレスを受けたものと見られる」と明らかにした。

■「劣悪な環境」も精神疾患の危険要素
 劣悪な労働環境に露出している特定職業群のストレスも高く現れた。2003年からソウル都市鉄道(地下鉄5~8号線)で機関士9人が自殺で死亡した事実が知られ、地下鉄機関士の劣悪な労働環境を指摘する声が大きくなったのが代表的事例だ。

 ソウル都市鉄道5号線を運行していたYさんは2013年3月、自殺で世を去った。 5号線はすべての区間が地下で粉じん濃度が高いのに換気が難しく、当時の9組5交代という勤務形態も一般人の生活パターンとは非常に異なるものだった。裁判所は「劣悪な勤務環境は医学的に見て、精神疾患の発病または悪化に一部危険要素として作用し得る」と判断した。ソウルメトロの機関士であるKさんも2007年にパニック障害診断を受けた。ソウル行政裁判所は2009年にKさんの業務上災害を認めて「機関士として高速運行に対する不安感、正確な時間に出発と下車を繰り返さなければならないところから来る緊張感、運行遅延による経緯書提出と乗客抗議などで持続的な精神的・心理的ストレスを受けてきたものと見られる」と明らかにした。

 特にKさんの判決文は、一般的な地下鉄機関士の精神健康問題を指摘している。裁判部は「研究結果によれば、事故を経験した機関士の外傷後ストレス障害とパニック障害発病率が、そうではない機関士よりずっと高く、同一業務をする地下鉄機関士の相当数がパニック障害を訴えている」と明らかにした。 機関士だけでなく最近は感情労働者の精神的健康も社会的問題になっているだけに、ストレスに露出させられやすい業務環境を改善する事は労働者の精神疾患予防のために必須であるという指摘が出ている。

 クォン・ドンヒ労務士は「職務ストレス検診制度などを取り入れて労働者が何のために苦しんでいるのか察してこそ、自殺や精神疾患などを予防することができる。事業主と政府が労働者の精神健康を保護できるような対策も具体的に反映させて法を作るべきだ」と指摘した。

キム・ミンギョン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)

最終更新:7/16(日) 6:03
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