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<女性社員>なぜ「入社2年目」で管理職志向を失うのか

7/17(月) 10:00配信

毎日新聞

 女性は「入社2年目」で管理職になる意欲を失う--。独立行政法人が先月、こんな調査結果を発表した。入社1年目に「管理職を目指す」と答えていたのに2年目でその意欲を失う女性の割合が、男性の倍に上るという。女性活躍推進の時代に、なぜ女性の意欲はそがれてしまうのか。管理職志向の有無の決め手は何なのか。「入社2年目」の女性にホンネを聞いてみた。あなたは管理職になりたくない? それはなぜ?【小国綾子/統合デジタル取材センター、古川幸奈/静岡支局】

【入社2年目の女性社員、あなたはどのタイプ?】

 ◇「スーパーウーマン」の姿に「私には無理」

 「入社した時は、仕事で活躍するには管理職になるのが絶対と思っていたんです」

 住宅設備機器会社に勤める女性(24)は1年前をそう振り返った。ところが働くうちに、次第に昇進に魅力を感じなくなったという。

 大きかったのは身近な女性管理職の存在だ。「幼い子を持つ管理職ママを見ていると、本当に大変そう。映画やドラマでキャリアウーマンが輝いて見え、バリバリと働く女性にあこがれていたけれど自分には無理かな、と。管理職で社内政治に巻き込まれるのも面倒くさいし」

 同じく、管理職への意欲を1年で失ったという人材紹介業の女性(23)は「社内で若くして管理職となった女性は圧倒的に未婚、という現実に気付いた」と理由を打ち明けた。

 つまり、本来ロールモデルとなるべき女性管理職の姿を見て、ちゅうちょしたりあきらめたりしていたのだ。

 ◇管理職志向が1年で20ポイントもダウン

 今回、「入社2年目」の女性のホンネが聞きたいと思ったきっかけは、独立行政法人「国立女性教育会館」が先月発表した調査結果だった。

 2015年と16年、正社員800人以上の大企業の社員を対象に実施。両方に答えた男女745人の回答を分析したところ、1年目に「管理職を目指したい」「どちらかというと目指したい」と答えた女性は64.7%だったが、2年目には44.1%まで低下した。一方、男性は1年目、94.1%と極めて高く、2年目に85.2%に落ちるには落ちたが、意欲はなお高い上、落ち方も女性の半分ほどだった。

 管理職志向のない女性に理由(複数回答)を尋ねたところ、「仕事と家庭の両立が困難になる」(64.4%)▽「自分には能力がない」(45.8%)▽「責任が重くなる」(32.2%)▽「もともと長く勤める気がない」(20.3%)などだったという。

 結果からは、女性は入社時点ですでに管理職志向が男性より低く、さらに、働き始めてわずか1年間でさらにその意欲を男性以上に失うことが読み取れる。

 こんな結果に対して、ネットでは「女性活躍といっても、本人たちにやる気がない」などの反響が見られた。でも、管理職志向の有無って、本当に本人のやる気だけの問題なのだろうか。

 そこで、知り合いのつてをたどったり、企業の協力を受けたりしながら、出身大学や業界に偏りが出ないように、「入社2年目」の女性17人に話を聞き、入社1年目と現在で管理職への意欲がどう変わったかをアンケート調査してみた。

 さらに管理職志向の変化に着目し、「あり→なし」派(3人)、「なし→あり」派(4人)、「あり→あり」派(4人)、「なし→なし」派(6人)の4グループに分けたのが、「入社2年目の本音アンケート」の結果だ。

 ◇カギは「いろいろなタイプのロールモデル」

 わずか1年で管理職志向を失った「あり→なし」派では、身近な女性管理職の働きぶりに、ライフ・ワーク・バランスを実現する難しさを感じ取った人が多かった。また、「管理職の業務内容が魅力的に見えない」という声も目立った。

 アンケート調査結果からは、1年間の職場経験を経て「仕事と家庭の両立に苦労してまで、あえて管理職にならなくてもいいかな……」と心情が変化したことが透けて見える。

 では逆に、「なし→あり」派はどうか。わずか1年で管理職への意欲が芽生えたのはなぜだったのか。

 実はこちらも、身近な女性管理職から影響を受けていた。

 「周囲のマネジャークラスの女性には、バリキャリタイプ(バリバリ働くキャリア志向)もいれば、普通に働く人もいる。こんなふうになりたい、とあこがれや尊敬も出てきた。いろんなタイプの管理職モデルが周囲にあるかどうかが大きい」。人材サービス会社で働く女性(23)は心境の変化を語る。「周囲にいろいろなタイプのリーダーやマネジャーの女性がいるので『自分も』と考えやすい」という声もあった。

 つまり、良くも悪くも女性管理職のロールモデルの影響力が大きい、というわけだ。

 ◇長時間労働は女性にのみ、昇進率に影響

 日本で初めての女性リーダー向け雑誌「日経EW」(現在は休刊)の元編集長で淑徳大教授の野村浩子さんに17人分のアンケート結果を読んでもらった。

 「身近に感じられる女性管理職のロールモデルがいればたった1年でも管理職を目指す意欲が湧くし、いなければ逆に意欲が失われる。女性のロールモデルの存在の大きさを改めて痛感する結果です」と野村さんは語る。

 管理職の9割は男性、といわれる日本で、女性管理職は希少な存在だ。つまり男性の前には多様なロールモデルが存在しやすいが、女性にとってはそうではない。

 「アンケート結果から見てとれるのは、長時間労働や残業をいとわず、男性並みか、それ以上に働く『スーパーウーマン』風の女性管理職しかいないと、下の世代は『あんなふうに働けない』『あんなふうには働きたくない』とかえって意欲がそがれるということ。逆に、身近に多様な働き方、生き方をする女性管理職がいれば、管理職への意欲が芽生えるということです」

 多様な女性管理職のロールモデルが生まれにくい背景には、日本型雇用制度がある。

 「管理職における子どものいる比率には大きな男女差があり、子どものいる女性管理職の比率はとても少ない、という調査結果があります。また、長時間労働が男性の昇進率を高めることはないのに、女性では昇進率に大きく影響する、という研究もあります。つまり長時間労働が女性にのみ、管理職資格要件となっているのです。しかし、これからは、子育てのため短時間勤務をしながら昇進した人、一般職から総合職に転換して管理職になった人など、女性管理職の多様なモデルを提示することが大切です」と野村さん。

 ◇「仕事って面白い!」スイッチを入れられるか

 今回の調査を担当した国立女性教育会館の研究員、島直子さんは、新入社員を5年間追跡調査しようと考えた理由について「新卒者が最初に直面する職場環境が、その後のライフスタイルやキャリア形成を左右すると考えた。特に女性は、出産や育児によって制約を受けやすいので、そういったライフイベントの前の20代の早いうちに成長を先取りさせる必要があると言われているのです」と説明する。

 これには野村さんも同感だ。「特に女性は、出産などのライフイベントの前に『仕事って面白い!』というスイッチが入れば、出産、育児後もなんとか両立しようとできるんです」

 では、その『面白いスイッチ』を入れるのは何なのか。

 野村さんは「新入社員の時点で男性は『管理職候補』として鍛えられていく。一方、女性は総合職であっても男性上司がどう扱って良いかちゅうちょして、成長のチャンスを男性と同じだけ与えてもらえないケースが多いんです。入社時点では女性の方が優秀なのに、数年もたてば逆転する、などの話を多くの企業から聞きます」と語る。

 確かにアンケート結果にもそれは見て取れる。

 「なし→なし」派では、「新人はお客様のところには出ていけなくて、社内のサブ的な業務が多い。仕事を通じて何かを成し遂げたい、自己実現したいという意欲がなくなった」という声があった。

 逆に、「なし→あり派」では、管理職志向を持つに至った理由として、元々内勤だったのに外回りの営業にも同行させてもらえるようになり、常に新たな挑戦を与えられていることを挙げた人がいた。「あり→あり派」にも「任せてもらえる仕事の幅や責任が増えたことでさらに管理職志向は強まっている」という声が。

 野村さんは「管理職に打診された時、女性は『自信がない』と答える傾向がとても強い。幼いころからの男らしさ、女らしさの刷り込みもあって、職場のリーダーは男性の役割と思いがちなのです。そのため、入社後に仕事を任されないとやはり管理職は無理なのかと思ってしまう」と分析する。そして「だからこそ、むしろ男性よりも先に『面白いスイッチ』を入れてあげないと。『いつ辞めるかわからない』と女性を鍛えない男性上司の意識を変えることも必要です」とも。

 ◇女性の「やる気」をそぐのは誰か

 政府は「2020年までに指導的立場(管理職)に占める女性の割合を3割にする」との目標を掲げるが、達成は危ぶまれている。

 企業の採用担当者らがよく口にする言葉として、「管理職を希望しない女性が多い」「女性は入社時にいくら優秀でも、その先、男性ほど伸びない」というのがある。

 しかし、今回の17人の「入社2年目」の女性の声を集めている途中、「入社3年目」の女性(25)のこんな話を聞く機会があった。

 彼女の勤務先では2年3カ月前、男女約20人ずつ、合計約40人が総合職として入社した。入社2年目に全国転勤型(つまり将来の管理職候補)か、地域限定型かの働き方を選ぶという。

 「女性社員は入社当初、半分の約10人が全国転勤型を希望していたのに、2年目には5人に減りました。一方、男性は全員が入社時も2年目も全国転勤型を希望しました。新人研修の時は、女性の方がずっと自分の意見を述べるしっかりした人が多かった。男性は学生気分が抜けていないように見えた。ところが仕事を始めると男性の方が仕事を任されるようになり、徐々に逆転していく。女性はお茶出しや消耗品の買い出しなど、男性社員はほとんどやらない業務をやらされた。男性はどんどん自信をつけていき、女性は『自分は仕事ができない』という錯覚に陥るように思った」と打ち明ける。

 彼女は今も「管理職志向はある」と言いつつも、男女社員の扱いの違いを体験したことで、「ほかの男性同期社員に置いて行かれる気分や焦りはありました」と悔しい思いを語るのだ。

 また、今回のアンケート結果では、「なし→なし」派でも「起業したいから管理職志向はない」「管理職より優秀なプレーヤーでい続けたい」など、入社2年目の女性たちはそれぞれにキャリアを真剣に考えていることが分かった。

 ◇就職、結婚、出産の3点セットを実現したい

 今回の17人の声を読んで、「ワンオペ育児」の近著のある藤田結子・明治大教授(社会学)は、女性の管理職志向が入社時点ですでに男性より低い点について、「この世代の母親の大半は専業主婦かパート勤務。つまり生まれ育った家庭で、男子は管理職として働く父親がロールモデルになるが、女子には同性のロールモデルがいない。さらに、就職活動で男性が優遇されるのを見て、入社時点でやる気を失っている女性も少なくない」と説明する。

 また「今は、まじめで高学歴な女子大生ほど『3点セット』、すなわち就職、結婚、出産のすべてを実現しなきゃいけない、と考える傾向がある。どれか一つをあきらめなければ管理職になれない、となれば、管理職を選ばないでしょう」とも。

 ◇男女問わずの働き方改革で「ワンオペ育児」解消を

 藤田さんは、「女性活躍」を掛け声に終わらせぬためには「あらゆるレベルで変化が必要」と言い切る。政府であればまず保育園の整備。それから男女問わずの働き方改革。「育児休業など子育て世代に配慮する制度をいくら作っても、女性だけが子育てを担い、マミー・トラック(昇進や昇給より育児を優先する働き方)に追いやられ、キャリア形成できないだけですから」

 さらに、それだけでは足りないともいう。

 「国や企業レベルではなく、男性一人一人の意識改革を。フルタイムの共働きでも育児の8割以上を妻任せにする男性が約半数に上るのです。『ワンオペ育児』状態で、思うように仕事時間を確保できず、仕事への意欲を無理矢理引き下げることで心理的葛藤を減らそうとしている女性に『意欲がない』『管理職志向を持て』なんて言えますか」と問題を指摘する。

 野村さんも言う。「『女性活躍推進』は女性の働き方だけの問題ではありません。男性も、働きながら子育てや介護を担えるような、男女問わずの働き方改革こそが必要なのです」

 「入社2年目」の女性たちのホンネは、「女性活躍推進」のためのヒントに満ちている。

最終更新:7/17(月) 12:59
毎日新聞