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<医療>新社会人を襲う昼間の眠気の真相

7/17(月) 10:00配信

毎日新聞

 毎年、梅雨入りの少し前の時期から、久留米大学病院の睡眠外来では、4月に就職したばかりの新社会人の受診者が増えるそうです。なぜこの時期に新社会人の受診者が増えるのでしょうか。睡眠研究の第一人者、久留米大学教授の内村直尚さんの解説です。【ジャーナリスト・村上和巳】

 ◇中学校を境に始まる日本人の夜型化

 受診者の多くは「昼間の耐えられない眠気」を訴えます。中には業務時間の会議中や上司と話しながら居眠りをしてしまい、上司の命令で受診したという深刻な事例もあります。受診の理由極めてシンプル。睡眠不足だからです。ただ、睡眠不足を甘く見てはいけません。医学的には「睡眠不足症候群」という病名が付く、立派な病気です。しかも、とりわけ新社会人の睡眠不足は、現在の日本社会が抱える子供の生活の夜型化という社会的な問題と無縁とは言えません。

 文部科学省が小学5年~高校3年を対象に2014年11月に行った「睡眠を中心とした生活習慣と子供の自立等との関係性に関する調査」というデータがあります。その結果から子供たちの就寝時間を見てみると、小学生は85.4%が午後11時までに就寝していますが、中学1年になると59.8%に減り、2年で45.6%、3年で22.6%にまで激減します。高校生はさらに減少して16.4%になります。つまり中学3年以降は、おおむね夜型生活となっているのです。

 それでも中学、高校時はまだ校則や生徒指導が厳しいため、朝の起床時間はある程度厳守されています。ところが、大学に入学すると朝の起床時間を守る必要がなくなり、生活のリズムは大きく崩れ始めます。1人暮らしならばなおさらです。

 新社会人として勤務が始まると、大学生時代の起床時間前には会社に到着していなければなりません。必然的に睡眠時間は3~4時間程度になります。日常生活を円滑に送るために、成人はおおむね6~7時間の睡眠が必要とされていますので、明らかな睡眠不足となるわけです。

 ◇睡眠不足を悪化させる休日の「寝だめ」

 さらにこうした睡眠不足が続くと、往々にして休日にこれを解消しようとします。しかし、実はこれが睡眠不足症候群を悪化させます。ヒトの体内では生体リズムを調節する作用と催眠作用を持つメラトニンというホルモンが分泌されています。メラトニンは起床後に日光を浴びると分泌量が減少し、そこから約16時間後に分泌量が増加し始めます。つまり、ヒトは起床から16時間たたないと眠くならないといえます。日曜日の正午に起床した場合、再び眠りにつけるのは翌日の午前4時。こうなれば月曜日の業務中は当然、眠気に襲われるでしょう。

 また、そもそもヒトは「寝だめ」、つまり睡眠の「貯金」はできません。一方で、睡眠不足という名の「借金」の一部を、後の睡眠時間延長で「返済」することはできます。しかし、この返済も生体リズムを考慮すると、1日当たり最大2時間程度が限界です。平日に毎日1時間不足するだけで、週末2日間に睡眠時間を1日2時間ずつ延長しても「債務超過」状態なのです。

 ◇不眠より治療が困難な睡眠不足

 睡眠不足症候群は、不眠症と違って治療薬はありません。就寝時間を早めるのが治療の要ですが、長年の生活習慣は容易に変更できないことを多くの人が自覚しているでしょう。

 そこで、まず私たちが睡眠不足症候群の患者さんに実施してもらうのが、就寝と起床の時刻を記録する「睡眠日誌」を1カ月程度つけることです。実際に目で見ることで恒常的な睡眠不足の深刻さを自覚してもらい、生活習慣の改善を促します。これで改善する患者さんは良いのですが、本人のみでは無理なケースもあります。このようなケースでは、家族や職場の上司に来院してもらい、協力を求めることもあります。

 睡眠不足症候群は、生活の変化などがあれば、新入社員に限らず起こり得ます。しかも、睡眠リズムの変更が定着するまでには最低1カ月は必要です。もし、あらかじめ生活リズムの変更が予想されているならば、1カ月以上前から睡眠リズムの改変に取り組むことが何よりも大切です。

最終更新:7/17(月) 10:00
毎日新聞