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「ヂクッ」強烈な痛み、10分で全身にじんましん…ベテラン記者の“強毒アリ体験記”

7/17(月) 12:08配信

産経新聞

 日本の港湾で相次いで発見されている南米原産のヒアリ。今のところ海外から船舶で持ち込まれたヒアリがみつかった段階で、日本での生息域の拡大などは確認されていない。だが海外では、強い毒を持つヒアリに刺され死亡する事例も多数報告されている。強毒アリに刺されると、人間の体はどのような症状をきたすのか。米国で刺された海外報道担当のベテラン記者(50)が「体験記」をつづった。

 日本各地の港で強毒のヒアリが発見されたとのニュースが日本中を駆けめぐっている。筆者は1990年夏、留学先の米国で、ヒアリとみられる強毒アリに刺され、危うく死にかけた経験を持つ。そのときの様子を紹介することで今後の警鐘としたい。

 イラクのサダム・フセインによるクウェート侵攻後、湾岸の戦地に赴く学生が相次いだ米南部アラバマ州の南アラバマ大キャンパス。気温が30度を超えるうだるような暑さの中、テニスをしていた際のことだった。

 「ヂクッ」。地面にあったテニスボールを何気なく左手で拾い上げたところ、薬指の根もとに突然、強烈な痛みが走った。少年のころ、林の中で蜂に刺されたのと同じ感覚だった。

 「一体何事か」。驚いて手のひらを見ると、1匹のアリがもぞもぞと這っているだけだった。

 「日本と違って、異国の地だから、強く噛むアリもいるのだろう…」。そう思って、たかをくくっていると、10分ほどで、あっという間にじんましんが体全体を覆った。

 ゾンビ-。慌ててトイレに駆け込み鏡で見た自身の顔はそんな容貌だった。短時間で顔はどす黒く変色し、無数の異様なイボに覆われていた。

 ただ事でないとと感じ、大至急、病院に向けて車を飛ばした。医者は「注射、注射」と叫び、直ちに処置に取りかかった。

 数分後。「これでOK」との医者の言葉とともに注射が終わると、アッという間にじんましんが消え去った。これもまた不思議な経験だ。

 治療代は日本円で実に4万円。海外保険に入っておらず、懐にはこたえたが、命には代えられない。

 日本の港で今、「ヒアリが50匹発見された」「100匹も発見された」という物騒なニュースが飛び交っている。そのたびに、27年前の「悪夢」が思い出されてならないのだ。

 ヒアリは南米原産だが、約80年前に米国に侵入し、アラバマ州などの米南部地域を中心に広く生息域となっている。米国の一部統計では、年間500万人以上が刺され、毎年十数人の死亡例が報告されている。

 米国のヒアリ生息域の住人は半分以上が刺された経験があるといわれている。ただ、刺されても重傷となるのはまれだ。

 問題は、アナフィラキシーショックと呼ばれる症状だ。体内に入ったヒアリの毒がごく微量でも、アレルギー反応を起こし、重篤な症状をきたす場合がある。米国での死亡例を伝える報道では、刺された人が呼吸困難になって、死に至るケースが紹介されている。

 専門家によると、刺された後の数十分は安静に過ごし、症状が悪化しないかを確認。動悸(どうき)や息苦しさ、手の震えなどの異常が出れば速やかに病院で診察を受けるか、救急車を呼ぶ方がよいという。

 ヒアリは船舶の出入りを通じ、オーストラリアなどのオセアニア地域や台湾、中国に拡大している。公園や学校の運動場などでもアリ塚を形成し、盛んに活動をするという。

 ヒアリの生命力は強く、米紙USAトゥデー(電子版)によると、豪雨などで陸上が水浸しになっても、ヒアリが即席の「イカダ」のようなものを数分で作り、それに多数のヒアリが乗って難を逃れるという生態が、昆虫学者らによって観察されているという。

 そうしたヒアリの生命力や繁殖力の結果、いったん侵入した地域で繁殖してしまうと、除去や根絶は非常に難しいようだ。

 台湾では2000年代初めにヒアリの侵入が確認され、政府が防除の国家プログラムを推進。地元メディアの報道では、大学の研究機関と連携して、ヒアリの巣を発見するビーグル犬を投入するなどの工夫をしているが、根絶のめどは立っていないようだ。

 オーストラリアではヒアリが発見された01年以降、集中的な除去プログラムを進めてきたが、根絶に至る前に新たな繁殖地が確認される「いたちごっこ」の状態だ。オーストラリア放送協会(ABC)の報道によると、政府は7月、これまで投じたプログラム推進費の3億豪ドルに加え、3・8億豪ドル(330億円)の追加費用を求めている。

 日本国内でも、日常の生活圏でヒアリの繁殖を許してしまえば、米国で刺されたベテラン記者のような痛い目に遭う恐れが、常につきまとうことになる。海外のケースは、「水際」でヒアリの侵入を防ぐ対応策がいかに重要かを教えてくれる。

最終更新:7/18(火) 9:30
産経新聞