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終活前に知っておきたい 相続の手間が省ける「民事信託」とは?

7/18(火) 17:40配信

ZUU online

人生のエンディングを考えることを通じて自分を見つめ、自分らしく生きる「終活」が注目されるようになった。読者の方は、終活と聞いてどのような手法を思い浮かべるだろうか? たとえば遺言書の作成や生前贈与を思い浮かべる方が多いのではないだろうか。

確かにこれらは現在でも主要な手法であることは間違いないが、最近では、自分の財産の運用は自分の手で決めるという本来の目的を達成するために、あらたな手法「民事信託」が注目されていることはご存知だろうか? 民事信託の登場で変わってきた相続の方法について紹介していこう。

■相続発生で起こる3つの事態

ここで相続についておさらいしておこう。
仮に遺言書の作成など何も対策していない場合には、死亡時の被相続人の相続財産を法定相続分という民法に定められた割合で相続人となるものが取得する。たとえば、父親が亡くなった場合、土地建物(各1000万円とする)がある場合、母一人子一人であれば母と子が土地建物は土地・建物それぞれを2分の1の持分で共有する形になるのである。

この場合、以下のような事態が想定される

1. 相続発生後、遺産分割の手続きで土地建物を母親、もしくは息子単独の名義にすることは可能だが、遺産分割をするという場合には別途手間が必要である。
2. 遺言書で相続人の誰かを土地建物の相続人として指定したとしても遺留分の問題が出てくるケースもありうる。
3. 相続人が親と子の二人だけの場合にとどまらず、子供が複数いてそのうちの一人が行方不明であったり、認知症で意思能力を有していなかったりという場合には手続きはより複雑になり、費用や時間がかかることになる。

こういった状況に対処するのに有効だということで注目されてきたのが、2007年に新たに施行された信託法によって可能となった「民事信託」なのである。

■民事信託、投資信託とは違うの?

ここでまた、信託についてもおさらいしておこう。

信託というと投資信託のことを思い浮かべる読者も多いことだろう。従来の信託法は信託銀行などの事業者(受託者)が委託者から信託財産を受け取り、信託の目的にしたがってこれを管理、運用益を受益者に配分するという商事信託についての仕組みを規定していた。

2007年の新しい信託法による変更点は、従来の銀行等のプロではなく、信頼関係のある人に受託者となってもらうという点。代表的な例で言えば、受託者を家族の誰かにして自宅を管理してもらうという形式が可能となったのだ。

■実例で見る「民事信託」を使った対策

先の例で解説していこう。
父(90)、母(90)、息子(60)、孫(30)、遺産は父親名義の土地建物(各1000万円)とする。

<実例>
1. そろそろ終活を始めようと思っていた父親は、民事信託というスキームがあることを聞き、早速専門家と相談した。
2. 特に、自宅としている土地建物には愛着があり庭には立派なつつじが一面に植えられている。建物も古くはあるが伝統的なつくりなので修繕すればまだまだ持つものだと近所の大工から聞いていた。
3. 父親の望みとしては、
・自分の死後も、できるだけ自宅を管理してもらいたい。
・母親(妻)も高齢で、自宅に独りで住み続けることが難しいようであれば速やかに、住んでくれる人に売却、あるいは賃貸してもらいたい。

このような場合に、遺言書などで対策することも可能だが、遺留分の問題などもあり、また死亡時に遺言は効力を生じるために遺言書を作成した時点では自分の死後どのような事由が生じるかは予想できない。自分の死亡時点で、相続人の誰かが認知症になっている等の事情があれば、不動産の処分等ができずに凍結状態となってしまう可能性もあるのである。この場合、たとえば売却することも抵当に入れて改修資金の調達も難しくなる。

民事信託を用い、受託者をかわいがっていた孫に決め、自宅管理を任せてみる手もある。この場合、信託契約を締結し、土地建物を孫の名義に移し、その登記簿には信託の登記がなされることになる。他人名義になることを不安に思うかもしれないが、不動産の場合には信託の登記という特殊な登記を同時に申請し、これは信託財産であるという旨が公示されるということである。

信託後について確認しよう。信託がなされると、その信託財産の法律上の管理処分などは信託の目的に従い受託者が行うことになる。信託した自宅に住み続けることは可能だ。信託後に父親が認知症になったとしても、信託の契約書の中にそれを想定した項目を追加していれば、不動産は凍結状態にならずに管理や賃貸だけでなく、売却することができることとなる。

不幸にも父親が亡くなったとしても、その相続人に認知症で意思能力を欠くものがいたとしても、受託者である孫が健在ならば、不動産の管理処分に関しては滞りなく行われる。以上のように、自分が健在のうちに信託財産の管理態様を決めてしまえる点に心理的な安心感が生まれるのではないだろうか。

■まだまだ展開余地がある民事信託のこれから

以上、民事信託について簡単に触れてきたが、施行されてようやく10年というところであり、まだまだ展開の余地がある分野である。今回は自宅についてのケースを紹介したが以下のようなことをおさえておくといいかもしれない。

●事業承継にも使えるとの指摘もされている
●相続税の申告期限や被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の期限など、相続にかかるタイムリミットまでに迅速に不動産関連の手続きができるなどのメリットがあげられる
●不動産に限っての紹介だったが、信託にかかる登録免許税は不動産の固定資産評価税の0.4パーセント、上記の例で8万円であり、資産保有会社等の設立もしなくてよいケースであれば、廉価に対策できる

デメリットとしてあげられるのは、民事信託はケースごとのオーダーメイド契約であるために十分な事前調査が必要であること、あくまで受託者となってくれる人との信頼関係ありきなので、人選が難しいといったところが挙げられる。

この夏、親戚一同で集まる機会があれば、自分の不動産を誰かに託してみようか、あるいは託されてみようかと一考してみてはいかがだろうか。

司法書士 石橋 那由他
福岡で開業中の司法書士。不動産の売買や相続・会社登記を得意としています。

最終更新:7/18(火) 17:40
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