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日本生命、AIを活用した営業支援で実現したいことは?

7/18(火) 11:02配信

ITmedia ビジネスオンライン

 生命保険の営業スタイルが大きく変わりつつある。かつては生保レディーが人海戦術でオフィスや家庭などに飛び込み営業して顧客をつかまえるようなやり方が一般的で、そこでの営業成績は経験の差が大きく影響した。

【訪問準備システムの画面イメージ】

 もちろん、そうした慣習は残っているが、一人のトップセールスだけが活躍すればいいということではなく、もっとインテリジェンスなやり方によって営業全体を底上げしようというのが昨今の動向である。

 そうした取り組みを強化しようと、大手保険会社の日本生命保険はこのたび営業支援に人工知能(AI)を活用し始めた。

●営業職員の顧客訪問前にアドバイス

 同社は2012年に営業職員向け端末「REVO」を導入。これは顧客の名前や住所、勤務先、契約情報、営業活動履歴などのデータ管理に加えて、新規契約の申し込み、保険金や給付金の請求、住所変更などの各種手続きができるといったもので、現在は約5万人の営業職員が日々活用している。

 2年前にはREVOの機能を改良。それまではバラバラだった上記の各種情報を1つの端末画面に集約、表示できるようにしたほか、営業職員が最適な顧客提案できるよう、次に取るべきアクションを具体的に指示したアドバイスメッセージを本部から配信する「訪問準備システム」を搭載した。

 訪問準備システムとは具体的に、約1000万人の顧客情報を統計分析することで、約500に細分化した顧客セグメントごとの加入傾向やニーズを抽出。このデータを基に、顧客に合わせて2000種類ほどの最適なアドバイスメッセージを表示する。

 メッセージの内容は、顧客にアポイントを取るときの切り口から、既契約者に対するヒアリング項目、提案プランなどさまざまで、営業職員一人一人にある程度カスタマイズしたのが特徴である。これによって、たとえ営業経験の浅い職員であっても、指示に従って顧客提案などができるため、営業レベルの標準化が図られるというわけだ。

 「それ以前は、営業職員あるいはそのマネジャーの経験によって次のアクションを決めていました。それではどうしても提案にばらつきが出てしまいます」と、日本生命保険 商品開発部の渡部祐士営業開発課長は同システムのメリットを説明する。

●人力の限界

 ただし、看過できない問題があった。基本的に商品開発部のスタッフが人力でメッセージを作るため、それにかかる時間や労力などの負荷が重かったのだ。当然メッセージは適当に作ることはなく、営業経験のある社員にヒアリングして、知見やノウハウを取りまとめ、それをテキストに落とし込む必要がある。

 もう1つは、さまざまな顧客や情報があるため、それらの組み合わせパターンは何千、何万種類にも上り、そこから最適なアドバイスを導き出す分析をするのは、人の力では限界があった。「ヒアリングからメッセージの作成、さらにはシステムへの入力まですべて手作業だった一方で、分析するデータ量はどんどん増えています。人力では無理が生じていました」と同部 商品開発グループの井上晴雄課長補佐は打ち明ける。

 さらにアドバイスの内容についても、営業現場の知見を基に作られているので、それが間違っていることはないが、もっと精度を高められることができるのではないかという疑問があった。

 こうした課題を解決するため、同社が選んだ手段がAIである。

●気付かなかった相関性

 AIの本格導入に先駆けて、16年12月から実証実験をスタート。どのようなことを行ったのだろうか。井上氏は「当社が保有する顧客データは既契約者以外も含めると約4000万件もあります。その一部をAIに投入して、例えば、提案日時や訪問日時、顧客の住所情報など、どのデータ項目の相関関係が高いのか、いろいろなデータを投げては何度も試しました」と振り返る。

 そこでいくつか見えてきたことがある。1つが提案のタイミングだ。同社では年に1度、契約内容確認のために顧客を訪問する活動がある。従来はその活動と同時に新規提案を行っていたが、AIによるデータ分析の結果、実は確認時のタイミングではなく、そこから継続的に顧客とコミュニケーションをとり、3カ月後に提案すると成約に至りやすいということが分かった。

 「今までは契約確認時に新たな提案も決めなくては駄目だという指示をしていました。けれども、その時点からの継続的なコンタクトこそが、顧客の満足度が高まるのだいうことが初めて分かりました。気付かなかった相関性が見えてきたのです」と渡部氏は強調する。

 まだAIに投入できるデータは一部だが、今後その量や種類を増やしていけば、より精度が高いパターンを導き出すことができるはず――。こう確信して今年4月に本番環境での運用を始めた。

 現時点でAI活用による驚くべき成果が表れているというわけではないものの、期待は大きい。「ソーシャルメディアやGPS(全地球測位システム)などから得られるデータもAIに入れて分析することで、さらに新しい気付きが生まれるのでは」と井上氏は意気込む。

 今後も試行錯誤は続くが、日本生命は一歩ずつ新たな領域に進もうとしている。

(伏見学)