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携帯電話はどのようにつながるのか? 「圏内」になるためのステップ

7/18(火) 20:24配信

ITmedia Mobile

 インターネットイニシアティブ(IIJ)は7月15日、恒例のファンミーティング「IIJmio meeting 16」を東京で開催。ネットワーク本部 技術企画室の佐々木太志氏が「スマートフォンがつながる仕組み」と題して携帯電話がつながる裏の仕組みを紹介した。

【携帯電話のデジタル無線の仕組み】

 これまでのIIJmio meetingでネットワークの説明をする際は、主にMVNOの設備やその運用について語られてきた。IIJが今後、自前で運用する「HLR/HSS」(加入者情報データベース)についても、前回のIIJmio meetingで紹介されたが、今回取り上げたのは、もっと基地局寄り、スマートフォンの電源が入り、圏内になるまでに行われていることについてだ。

●無線でデータを届ける仕組み

 携帯電話は、1979年頃登場した自動車電話が、ショルダーホンになって外に持ち出せるようになり、携帯電話に進化する。最初に出た携帯電話はアナログ無線(第1世代)で、1993年にPDC方式の「デジタルmova」からデジタル無線になる(第2世代)。それ以降、全ての無線はデジタル無線だ。

 携帯電話は、基地局と携帯電話端末が電波を出して通信しているが、通信には方向があり、「上り(送信時)」と「下り(受信時)」という言い方をする。携帯電話端末からネットワークに進む方向を上り、ネットワークから端末に向かう方向を下りという。電波は上りと下り両方を同時に取り扱わなくてはいけない。上りと下りの通信を重ねることを多重というが、多重の方法には2種類あり、上りと下りで異なる周波数を使う方法を「周波数分割多重(FDD)」、非常に短い時間で上りと下りを切り替える方法を「時分割多重(TDD)」という。

 通信が行われるときは、電波(搬送波)に信号を乗せる。デジタルの場合は「0か1」のデジタル信号を電波の波に乗せて運ぶ。このデータが相手の端末に届き、元に戻して0か1が分かると通信が成立する。電波を使って0か1を送るには、その信号を搬送波に乗せて運べるようにするが、これを「変調」という。受信した側は変調と逆の「復調」を行い、0か1を取り出す。

 変調方式の代表例が「AM」と「FM」だ。デジタル変調方式の代表的なものには、電波の強さを変えることで0か1を表す「振幅偏移変調(ASK)」がある。アナログでいうAMをデジタル化すると、このASKになる。音に例えると、AMは音量を変えることに相当する。音量が大きく聞こえていれば1、音量が小さくなったら0として送信し、受信側は大きく聞こえたら1、小さかったら0に戻していくと、音から0か1を読み取ることができる、というような方法だ。

 「周波数偏移変調(FSK)」は、アナログでいうFMで、電波の周波数を変えることで0か1を送っている。他に、電波の位相を変えることで0か1を表す「位相偏移変調(PSK)」、ASKとPSKを組み合わせた「直角位相振幅変調(QAM)」もある。QAMは電波を効率的に使って0か1を送ることができ、最近ではQAMがよく使われている。

 QAMは1bitのデータを振幅偏移変調で変調。もう1bitデータを作り、位相を90度ずらして加算する。受信側では2つの波が重なって、1つの波から1bit、もう1つの波から1bitのデータを取り出すことができ、1回の信号送出で合わせて2bitのデータを取り出せる。現在のデジタル無線の基礎技術となっており、Wi-Fiや光ファイバーのケーブルモデムなどもQAMで変調されている。

 ドコモのLTE-Advancedでは、振幅を16段階(音の強さが16段階)に分けて4bit分のデータを送ることができ、それをもう1つ作って重ねることで4×2=8bitのデータを1度で送れるようになっている。LTEでは、この搬送波を複数重ね合わせることで、さらに高速通信を実現している。これがOFDMA(直交周波数分割多重接続)という方法だ。

 現在はOFDMAを使って、QAMで作られた波を空間の中に詰め込んで送るという技術が採用されている。OFDMAのOは「Orthogonal(直交)」を表すのだが、佐々木氏によると、5Gでは、non orthogonalな多重、さらにもっと重ねていく変調方式が議論されていて、さらなる電波の有効活用が研究されているという。

●ネットワーク側の仕組み

 佐々木氏は次に、電波を使って送られてきた信号をネットワーク側がどう処理しているのかを説明した。

 これまでのIIJmio meetingでは、インターネットとその出口のPゲートウェイ(PGW)の説明が多かったが、今回はその前に置かれているeNodeB(いわゆる基地局)に近い部分を解説。eNodeBの裏にはMMEという機械があり、その奥にSIMを管理するHLR/HSS(図ではHSS)がある。

 スマホに電源が入っていなくても、eNodeBは報知情報と呼ばれる信号を定期的に送信している。報知情報は12ブロックからなり、その中にさまざまな情報が格納されている。受信側は電波を“聞いて”、マスターインフォメーションブロック(MIB)と、システムインフォメーションブロック1(SIB1)を確認する。SIB1の中には、SIB2から11のスケジュールが含まれているので、それに従って聞いていくと12個の報知情報を全て聞ける。この段階で端末は聞くだけなので、まだ電波は出していない。

 報知情報には、事業者を識別するためのPLMN(Public Land Mobile Network:公衆携帯電話網)が入っている。例えばドコモの場合は44010、ソフトバンクだったら44020だ。それ以外に、周波数を表すバンド番号、基地局を選別するためのCellID、無線関係のさまざまなパラメータのほか、緊急地震速報なども、この報知情報に入っている。つまり、緊急地震速報の「受信だけ」だったら、スマホが圏内にならなくても(電波を聞いているだけの端末でも)、実際に正しく動くかどうかは別にして受信できる。スマホは電源が入ると、圏内になる前に、報知情報で定められたスケジュールに従って電波を聞いていく。

 スマホは報知情報から接続する基地局を決める。この段階で、まだ端末は電波を出さず、どこに接続するか考えているだけだ。SIMカードにはRegistered PLMN(RPLMN)という、最後に接続していた携帯電話事業者の数字が記録されており、例えばRPLMNが44010であれば44010の基地局に接続しようとする。44010の基地局が複数あったら、強い電波を出す基地局に接続する。

 もし、RPLMNがない新品のSIMカードだった場合、もしくはRPLMNのeNodeBがない場合は、SIMカードに記録されているHome PLMN(HPLMN)を確認する。HPLMNはSIMカードを発行した事業者のことで、HPLMNのeNodeBがあれば、そこに接続しようとする。

 RPLMNのeNodeBもHPLMNのeNodeBもなかったら、SIMカードに記録されたOperator controlled PLMN(OPLMN)をチェックする。OPLMNは、SIMカードを発行した事業者が、自分のHPLMNのeNodeBがないときに優先する接続先のこと。このケースのほとんどはローミングの場合だ。海外では国内の基地局の電波はキャッチできないので、そのSIMカードを発行した事業者が用意した希望する事業者リストに沿って接続する。

 なお、上記に合致するeNodeBがなかった場合は、一番電波の強い基地局に接続しようとする。

 接続する基地局が決まったら、初めてスマホは電波を出す。電波を出すということは他の電波の邪魔をする可能性があるので、きちんと作法が決まっている。まず、端末はpreamble(プレアンブル)という電波を出す。他の電波の邪魔をしないタイミングで自分だけがプレアンブルを出せたら、基地局はレスポンスを返し、通信可能なタイミングをスマホに指定する。

 プレアンブルの応答で指定された送信タイミングになると、端末と基地局間のリンクとなるRRCの接続要求を出す。eNodeBはRRCの接続要求が来たら、接続確立のためのパラメータを返し、それに基づいてRRCを確立する。

 RRCが確立すると、スマホはeNodeBとの接続が確立したメッセージを返すが、それと同時にコアネットワークへの接続要求となるAttach Requestも出す。Attach RequestはeNodeBを通過し、MMEという設備に送られる。

 他社のスマホの電波でもここまでは進めるが、MMEはSIMカードが接続可能かどうかを認証する設備で、HSSにアクセスする。認証や暗号化のためのパラメータが順次戻っていき、最終的に、このSIMカードが契約的に問題なく使えるSIMカードだとなると、端末とMMEまでの暗号化のトンネル、さらにインターネットに抜けるための暗号化のトンネルのようなものが作られていく。これでようやく圏内になる。

 そして、ここまできてやっと、どのAPNに接続するかの確認が行われ、最終的にインターネットに接続できるようになる。

 なお、MMEは国境を超えて、SIMカード発行事業者のHLR/HSSに問い合わせをかけるケースがある。「IPX」といわれる中継事業者を経由して、世界中の携帯電話事業者のHSSがネットワークにつながっており、MMEはSIMカードのHPLMNを見ながら各事業者に問い合わせる。これが国際ローミング接続だ。

●フルMVNOとして、コアネットワークにも深く関わる

 これまでIIJを始めとするMVNOは、携帯電話のコアネットワークのうちPGW周りしか運用してこなかったので、「それ以前の接続については、正直、ドコモさんやKDDIさんがちゃんとやってくれる」(佐々木氏)という前提だったという。しかし、SIMロックフリースマホのトラブルシューティングや緊急地震速報の問題検証などで、無線アクセスやコアネットワークの挙動を知らないと困ることが増えたそうだ。

 IIJは2017年度以降、「フルMVNO」となってHLR/HSSを運営するようになるので、「特にコアネットワークの技術は他人ごとではなく、より深く関わらなくてはいけないようになってくる」(佐々木氏)。日本のMVNOにとっては前人未到の領域となり、「正直、よく分かっていない」が、「ユーザーに迷惑を掛けず、しっかり安定運用するために、エンジニアは技術の習得が課題になっている」と語った。また、HLR/HSSは新しいサービスを作っていくことも大きな目的だ。「新しいサービスを提供するためにも、自分たちの血肉にしていかないといけない」と、佐々木氏は気を引き締めていた。

最終更新:7/18(火) 20:24
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