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欧州で加速するEVシフト トヨタへの影響は?

7/19(水) 7:10配信

ITmedia ビジネスオンライン

 高級車メーカーとして知られるスウェーデンのボルボ・カー・コーポレーション(ボルボ)は7月5日、2019年以降に発売する全てのモデルを電気自動車(EV)もしくはハイブリッド車(HV)にする計画を明らかにした。

【テスラモーターズ車「Model 3」(出典:テスラモーターズ公式Webサイト)】

 同社は6月に、「ポールスター」を高性能EV専用ブランドとして再構築する方針を打ち出しており、EVシフトの姿勢を鮮明にしていた。19年以降は、ポールスターブランドで2車種、既存のボルボブランドで3車種のEVを市場に投入していく予定である。

 一方、従来ブランドについては、家庭用電源から充電ができるプラグインハイブリッド(PHV)、もしくはモーターを補助動力として使用するマイルドハイブリッドのいずれかとし、内燃機関(ガソリンエンジンやディーゼルエンジン)のみのモデルは生産しない。

 ガソリンもしくはディーゼルを搭載した既存製品については、フルモデルチェンジから除外するという。結果として、内燃機関のみを搭載した製品は年々減少し、将来的にはボルボのラインアップから消滅することになる。最後のモデルは25年に製品化される見通しなので、数年でエコカーシフトは一気に進むことになる。

 ボルボは世界市場でそれほど高いシェアを占めているわけではないが、ブランド力は今も健在であり、市場に対して一定の影響力を持っている。また、スウェーデンの企業だが、中国企業の所有となっており、将来的には中国市場での本格展開が予想される。こうした状況を考え合わせると、同社がエコカーシフトを打ち出したインパクトは大きい。

●加速するEVシフト

 この動きは、ボルボだけではない。5月に行われた仏国大統領選で政権交代を実現したばかりのマクロン政権が、40年までにガソリン車の販売を禁止する方針を打ち出した。仏国最大の自動車メーカーであるルノーは、政府が大株主であり、傘下の日産自動車(日産)はEVの開発に力を入れていることなどを考え合わせると、欧州においてEVシフトが加速する可能性が高まってきた。

 仏国のガソリン車の廃止プランは、ユロ・エコロジー相が主導している。ユロ氏は、仏国の著名な環境運動家であり、シラク政権やオランド政権など、保守・リベラルを問わず、入閣を打診されてきた過去がある。ユロ氏の入閣はマクロン政権の目玉人事の1つと言われており、政権としてもこの政策にはかなり力を入れるはずだ。

 マクロン氏は無所属で大統領になった極めて珍しい政治家であり、これまで確固たる政治基盤を持っていなかった。だが、大統領選後に行われた国民議会選挙では、マクロン氏が立ち上げた新党「共和国前進」が7割近い議席を獲得。社会党や共和党などの既存政党は事実上、瓦解した状態にある。

 マクロン氏の政治手腕は未知数だが、取りあえず国民議会で圧倒的多数を確保した事実は重い。さらに言えば、マクロン氏は筋金入りのEU(欧州連合)主義者として知られており、仏国に対するEUの期待はかなり高まっている。

 タイミングを同じくして、米国のトランプ政権が地球温暖化対策の枠組みである「パリ協定」からの離脱を表明したことで、地球温暖化対策の主導権が仏国とドイツに移ることはほぼ確実な情勢となった。欧州におけるエコカーシフトを巡る環境は整ってきたと言ってよいだろう。

 次世代エコカーの標準仕様を巡っては、EVや燃料電池車(FCV)など複数の技術が併存しており、どの仕様が主流となるのかはっきりしない状態が続いていた。しかしEVメーカーのテスラが大躍進するなど、社会の流れは確実にEVに傾きつつある。一連のエコカーシフトは、事実上、EVシフトと認識して間違いないだろう。

●トヨタの強みは弱点に?

 欧州における一連の動きは、日本の自動車メーカーにも極めて大きな影響をもたらすことになる。トヨタ自動車(トヨタ)と日産はこの点に関して正反対の方向を向いており、場合によってはトヨタが不利な状況に置かれる可能性も否定できなくなってきた。

 トヨタは日本を代表する企業であり、国策として政府が推進する水素事業にある程度コミットしなければならない。また、グループ内に有力な部品メーカーを抱え、株式を持ち合うなど相互補完関係を構築している。一方、日産は傘下の自動車部品メーカーであるカルソニックカンセイをファンドに売却するなど、全社をあげて経営のスリム化とEVシフトを進めている。

 自動車メーカーにとって、高い技術を持つ部品メーカーは、経営資源そのものであり、自らのグループに囲い込むのが常識であった。だがEVの製造に高度な技術は必要とされないことから、EVが主流になれば自動車そのものがコモディティ化していくのは確実と言われている。そうなってしまうと、完成車メーカーと部品メーカーで構築してきたバリューチェーンが一気に崩壊する可能性が出てくるのだ。日産がこのタイミングで部品メーカーの売却を決定したのは、EVシフトを戦略的に選択したからに他ならない。

 トヨタはグループ内に、アイシン精機、曙ブレーキ工業、デンソーなど技術力の高い部品メーカーを多数抱えている。デンソーのように独立性の高い企業もあるが、基本的にトヨタは、部品から最終製品までを自社グループ内で製造する、いわゆる垂直統合モデルの色彩が濃い。これに対して日産は、EV化時代を見据え、完成車の製造に特化する水平統合モデルにかじを切ろうとしている。

 全てを自前でカバーするグループ戦略がトヨタの競争力の源泉だったが、もしEVシフトが一気に進んでしまうと、トヨタの強みは逆に弱点に変わってしまう。トヨタに残された時間的猶予は少ない。


(加谷珪一)