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ずーっと苦戦したローソンの焼鳥が、今年になって売れ始めた理由

7/19(水) 8:16配信

ITmedia ビジネスオンライン

 2017年の干支はなーんだ。

 「な、なんだよ、いきなり。えーと、酉だな」と思い出されたかもしれない。正解である。

【目立つために工夫したことは?】

 今年の干支が「酉年」であることにちなんで、ローソンは1月に焼鳥を発売した。その名は「でか焼鳥」(127円、税込)。従来品より20%ほど大きくしたにもかかわらず、価格は3円安くなっていることもあって、社内からは「ひょ、ひょっとしたら売れるかも」といった声があったそうだ。

 「な、なんだ、弱気な発言だな。『絶対に売れる!』とハッキリ言えばいいじゃないか」と思われたかもしれない。なぜ堂々と言うことができなかったかというと、ローソンはこれまで何度も焼鳥にチャレンジしてきたが、ヒット商品を生み出すことができなかったからである。成功体験がなかったので、担当者からも「売れたらいいね」といった感じで、弱気の発言が出ていたのだ。

 しかし、「ひょっとしたら……」と期待を寄せていた。なぜなら前回の酉年だった05年は「からあげクン」の売り上げが、前年比で15%アップしたから。その年、さまざまな企画を打って出たところ、累計販売が1億食を突破するなど、大きく飛躍したのである。二匹目のドジョウ……いや、二羽目の鳥を狙って「でか焼鳥」を発売したのだ。

 で、結果はどうだったのか。順調に……どころか、予想以上に売れている。16年11月に中部地区限定で試験販売したところ、目標の1.5倍も売れた。その勢いは衰えず、1月に全国販売したところ、かつて経験したことがないペースで売れているのだ。

 ローソンはこれまで何度もチャレンジしてきたのに、なぜでか焼鳥は売れているのか。その秘密を探るために、商品本部の東條仁美さんに話を聞いた。聞き手は、ITmedia ビジネスオンラインの土肥義則。

●「大きくて」「重さ」をキーワードに

土肥: ローソンの「でか焼鳥」が好調のようですね。以前から焼鳥を販売していますが、「購入したことがない」という人も多いのではないでしょうか(失礼)。「コンビニ=焼鳥」というイメージがあまりないですよね。

東條: かもしれません。ただ焼鳥の市場は大きいですよね。スーパーに行けばたくさんの種類が並んでいますし、焼鳥屋もたくさんあります。「焼鳥が好きな人」はたくさんいるはずなのに、なぜかコンビニで根付いていませんでした。

 当社でも何度もチャレンジしてきたのですが、正直に言って苦戦してきました。新商品を出すと最初は売れるものの、やがてイマイチになる。「焼鳥がなかなか売れない」という認識はあったのですが、なんとか定番商品として成長させることはできないのか。そうした課題を解決するために、でか焼鳥の開発が始まりました。

土肥: 以前はどのような商品だったのでしょうか?

東條: 鶏肉に皮を巻き付けて、串に刺していました。肉厚ではあったのですが、長さが短い。ということもあって、見た目でどうしてもボリュームに欠けているなあという印象がありました。店頭で販売していると、「短い」「ボリュームがない」といった感じがしていて、お客さまに焼鳥の良さが伝わっていないのではないか。分かりやすく伝えるのには、どうしたらいいのかを考えていました。

土肥: 「短いなあ。ボリュームがないなあ」ということで、いまのようにでかくしたのでしょうか。

東條: いえ、最初の企画段階では、いまのようなサイズではありませんでした。スーパーなどに足を運んで市場調査したところ、多くの店で小さいサイズでたくさんの種類を販売していることが分かってきました。スーパーのような形で陳列することはできないのか。といった議論もあったのですが、実際に並べてみると、小さいサイズだと目立たないんですよね。

 またスーパーと違って、コンビニの面積は狭い。いろいろな種類を並べることができないので、「カップの中に小さな焼鳥を2本入れて販売してみてはどうか」といった話もありました。ただカップの中に入れると「塩味とタレ味が混ざってしまう」「お客さまが選びにくい」といった声があって、この案はボツになりました。

 売り場で目立たせるにはどうすればいいのか。「やはり、サイズを大きくするしかないのでは」といった声がありました。焼鳥屋でも大きいサイズのモノがよく売れているので、コンビニでも導入することができるかもしれない。という流れで、「大きさ」「重さ」をキーワードに開発が進みました。

●頭の部分を少し大きく

土肥: 焼鳥をどこまで大きくできるのか、その挑戦が始まったのですか?

東條: はい。肉の刺し方、カットの方法などを研究しました。例えば、焼鳥の頭の部分(先っぽ)を大きくしました。なぜ大きくしたかというと、売り場で大きく見せることができるから。タテに並べた場合、同じ重さでも、頭の部分をちょっと大きくするだけで印象が随分変わるんです。

土肥: (目の前に焼鳥が入った袋があったので)どれどれ、ちょっと拝見。

――袋から取り出した焼鳥を見て、広報Yさんは

広報Y: 確かに、大きいですね。

東條: あ、いや、その……それはハラミなので、頭の部分はそれほど大きくありません。

土肥: Yさん、そんなに自社アピールしなくていいですよ。

広報Y: すみません、すみません。

――次に、ももを取り出す。

土肥: 確かに少し大きいですね。

東條: 大きさの研究にはチカラを入れました。以前のモノは65グラムだったので75グラムにしようとしたのですが、「いやいやそれだとインパクトに欠ける。80グラムにしよう」ということでそのサイズに決まりました。ただ、企画段階では「100グラムも可能なのでは」といった意見があって、100グラムでつくってみたものの、重たくて串がしなるんですよね。

土肥: おー、釣り竿みたい。

東條: 1本100グラムだと、その1本で満足する人がいるかもしれません。でも80グラムだと、2本、3本……といった感じで、たくさん買っていただけるのではないかということで80グラムにしました。

●大きく見せるために什器も工夫

土肥: 大きく見せるために、このほかに工夫したことはありますか?

東條: 焼鳥に少し角度をつければ、お客さまに「大きいなあ」と感じていただけるのではないか。といったことを考え、どの角度であれば大きく見せることができるのか、何度も実験を繰り返しました。結果、什器の中に焼鳥の本数が少ないときには角度をつけて、数が多いときには角度をあまりつけないように設計しました。

土肥: 例えば、5本しかないときには鋭角にして、10本あるときには鈍角にするといった感じでしょうか?

東條: はい。

土肥: 細かいですねえ。でも、それってお客さんにはなかなか伝わっていないのでは。

東條: かもしれません。ただ、店で目立たないと、なかなか売れないんですよね。近くにからあげクンやLチキが並んでいる中で、焼鳥を選んでもらわなければいけません。

土肥: 社内競争があるわけですね。

東條: はい。以前、からあげクンやLチキの開発に携わっていたので、なんとも複雑な気分ですが……。

土肥: なんと。大きく育ててちょっと後悔していませんか? ま、それは冗談として、焼鳥のサイズを大きくすることで何か新たな問題は生まれませんでしたか。例えば、什器のフタが閉まらないとか。

東條: 焼鳥が入るパックを探したところ、ウナギを入れるタイプのモノしかありませんでした。ただ、それだと持ち運びがちょっと不便なこともあって、油がしみない素材を使って、専用の袋をつくりました。

土肥: 大きさ・重さが決まった、袋もつくった、ということで試験販売を始めたんですよね。2016年11月に中部地区(約1400店舗)で行ったそうですが、結果はどうでしたか?

東條: 中部地区は焼鳥の需要が高いということもあって、24日間で100万本以上売れました。目標の1.5倍です。サイズが大きいので、発売前は「男性によく売れるのかなあ」と思っていましたが、女性にもよく購入されていることが分かってきました。

 Pontaカードのデータを使って分析したところ、最も買われているのは40代の女性。夕方の4時から夜の8時にかけて、たくさん購入しているケースが多いので、家族用に買われれているのではないでしょうか。一方の男性は1~2本購入しているケースが目立つので、自分用のおつまみとして買われているのかもしれません。

●アピールポイントを少しズラす

土肥: 2017年は酉年。1月に、でか焼鳥を全国販売したわけですが、どのような売れ行きだったのでしょうか?

東條: 1月10日に発売して、すぐに供給が追い付かない状況になりました。1週間後、店舗に発注制限をお願いすることに。安定供給ができるようになったのは3月末ごろでして……関係各位にはご迷惑をおかけしました。そうした状況の中でも、発売後2カ月で2000万本売れました。7月10日現在で、6200万本です。

土肥: その数字はどのように受け止めればいいのですか?

東條: これまでの焼鳥と比べると、よく売れています。当社では年間6000万本ほどしか売れていませんでしたが、現在は2倍以上のペースで売れています。

土肥: 焼鳥といえば「炭火で焼いています」とか「秘伝のタレを使っています」といったことをアピールするところが多いのですが、ローソンは「大きさ」「重さ」をアピールして、好結果につながったわけですね。

東條: いまも「備長炭で焼いています」といった点はアピールしていますが、以前はさまざまなことを強調していました。ですが、そうしたことってお客さまになかなか伝わりませんでした。鶏肉を皮で巻いたら売れるんじゃないかと思っていましたが、それも売り手の勝手な思い込みだったのかもしれません。

 新商品を出すと、どうしても「品質にここまでこだわりました!」とアピールしたくなるんです。お客さまからも「おいしいね」といった声をよくいただきます。でも、売れないケースがある。なぜそうしたことになるかというと、きちんと伝わっていないからだと思うんです。

土肥: 「炭火で焼いています」と書かれていても、多くの客はそんな文言は目に入っていないのではないでしょうか。そもそも、炭火で焼いているところは多いですからね。「だから、なに?」と言いたくなる。

東條: ですよね。というわけで、少し軸をズラすことにしました。それが「大きさ」「重さ」だったわけです。

(終わり)