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「定時退社」「残業時間2割減」三井住友海上とJALの挑戦

7/19(水) 8:38配信

ITmedia ビジネスオンライン

 場所や時間に縛られず働きたい。生産性を向上し労働時間を短縮したい。「働き方改革」がうたわれ、新しい働き方や組織のあり方に期待を寄せる声が高まっている。

【三井住友海上の「退社時間宣言ツール」】

 そんな中、既に柔軟な働き方を実現した企業が現れている。例えば、三井住友海上火災保険は社員約2万人に対して「原則午後7時退社」を可能にした。日本航空はわずか半年で残業時間を2割減少させている。

 急激な組織改革には多くの障壁が存在するのも事実だ。上記の2つの企業も、労働時間短縮に伴う生産性向上や、多様な働き方への対応、社員の意識改革など、実現に向けてさまざまな課題を乗り越える必要があった。

 働き方改革を成功に導いた企業は、どのようにして変革を進めたのか。ITmedia ビジネスオンライン編集部が主催するセミナーで、三井住友海上火災保険の「働き方改革推進チーム」と、日本航空(JAL)の「人財戦略部ワークスタイル変革推進グループ」の事例が紹介された。

●「原則午後7時退社」を実現する4つの取り組み

 基調講演では、三井住友海上火災保険 人事部の荒木裕也氏が登壇した。同社では、今年4月から「遅くとも原則午後7時前に退社」というルールを定め、全社員約2万人を対象に取り組んでいる。荒木氏は「働き方改革の主役は社員1人1人。『全社員総活躍』に向けて、個人がさらに生産性を高めることで、『活気あふれる最強の職場』の実現を目指す」とその狙いを話す。

 今回の取り組みにあたり、人事部を中心に本社部門各セクションの組織長から構成する「働き方改革推進チーム」が結成された。「遅くとも午後7時前退社」を実現するためには、労働時間の短縮=業務効率の向上が必要不可欠となる。推進チームでは「生産性の向上」「個人・マネジメント意識改革」「無駄・非効率の排除」「多様な働き方の支援」という4つの観点から就業環境の整備を実施している。

 「生産性の向上」では、全社員へのシンクライアントPCの配布や社用スマートフォンの配備などのインフラ整備を実施し、完全ペーパーレス化を実践。「個人・マネジメント意識改革」では、トップからのメッセージを発信し、マネジメント層の研修も行うなど、働き方の意識を変えることに注力した。

 「マネジメント研修は同部門の部長が課長に向けて実施し、研修の成果を職場へ落とし込んだ。加えて、外部の専門家が監修した『働き方改革ガイドブック』の作成や、全拠点を対象にした『働き方改革セミナー』の開催などを通じ、全社員への浸透を図った」(以下、荒木氏)

 「無駄・非効率の排除」では、全業務の棚卸しによりプロセスを抜本的に見直し、毎月1人30分~1時間かかっていた定型業務を洗い出し、職場毎に見直しを行った。また、全国の拠点で発生している約400の定型業務をExcelやVBAを使ってワンクリックで終えられるよう自動化することに成功した。

 在宅勤務のルールを拡充した「多様な働き方の支援」では、昨年10月からの9カ月間で、1100人の社員が在宅勤務を実施している。また、育児休業中の社員によるテレワークも試行中。キャリアロスの解消や職場復帰に備えたリハビリを実現するために、制度を利用する不安感を払拭するためのトライアルを実施している。

 「働き方改革においては、変化に消極的になってしまう社員も生まれがち。社員全員が笑顔で改革に取り組めるよう、社内の雰囲気を盛り上げる施策も重視している。ポータルサイトの新設や定期的なニュースの発信などを通じ、各拠点での取り組みをピックアップしているのもその1つ」

●社員1人1人の当事者意識を高める

 「『働き方改革』という言葉は、いわばバズワード。一過性の施策ではなく、当たり前の業務として定着して初めて意味がある」と荒木氏は話す。そのためには各職場単位での取り組みも欠かせない。

 ユニークなのは「退社時間宣言ツール」だ。毎朝、始業前に退社時間が書かれたカードを自席に掲示しておき、退社予定を他の社員に周知するというもの。カードは午後3時~6時半までは青、午後7~8時は黄、午後9時は赤と色分けされている。職場を見渡し、青が多ければ閑散期、黄や赤が目立てば繁忙期と、一目で勤務状況を把握できる。

 「以前は退社時間をスケジューラに記入していたが、あえて物理的に可視化した。勤務時間の管理だけでなく、部下や同僚への『思いやり』としても機能している。例えば、黄色や赤のカードを掲示している社員に対しては、急ぎでない仕事を頼みづらい。結果として組織の生産性向上にも効果がある」

 全国各地の拠点で行っている取り組みも盛んだ。金沢では「残業チケット」を1人5枚(1カ月分)配布し、残った枚数に応じて表彰をしている。名古屋では「残業ルーム」という専用の会議室を設け、午後7時以降の残業は社員が集まって集中して終わらせる。働き方改革の機運を盛り上げる施策が、社員2万人の当事者意識を育み始めている。

 「当社の働き方改革は決してハイテクなものではなく、むしろローテク。ITを活用した取り組みを進めるなどまだ改善の余地はある。働き方改革は個人と組織の両軸で回すもの。創出した時間で自己成長を図ってもらい、ひいては組織を強化してもらいたい」

●女性リーダー不足をきっかけに、全社員の意識改革へ

 特別講演では、日本航空 人財戦略部の久芳珠子氏が登壇。同社が働き方改革に取り組み始めたのは2014年12月。専任組織である「ワークスタイル変革推進室(当時)」を立ち上げたきっかけの1つは、女性リーダーの少なさだった。

 「当時、グループ連結58社の全社員約3万2000人のうち、女性比率47%に対して女性リーダーは15%のみ。自社分析を徹底的に行った結果、働き方・意識・風土の3つの課題が浮かび上がった」(以下、久芳氏)

 育児休職や産休といった社内制度は整っていたが、仕事を免除する「ケア施策」が中心であり、キャリアの不安を払拭できていなかった。在宅勤務や長時間労働の是正を通じ、キャリアブランクを埋める「フェア施策」への転換を図る上で、女性社員だけでなく全社員の意識を変える必要があると判断した。2010年の経営破綻以降、長時間労働が常態化していた企業風土を改善する狙いもあった。

 「当初は変革チームの6人中5人が兼務であり、本業が忙しいなどの理由でなかなか進まなかった」と久芳氏は振り返る。最初の大きな動きは、社内の調達本部を「特区」としたオフィス改革だった。書類で埋もれていたデスクをフリーアドレス化し、個人の所有物は個別のロッカーに割り当てた。空きスペースが生まれ、不足していた会議室の確保にもつながった。

 「社内でも多忙な部署である調達本部がモデルケースになることにより、他部署から『うちはまだなのか』と声が掛かるようになった。通常業務を行いながらオフィス環境を改善するには、スモールスタートが有効だと実感した」

●「何を伝えるか」以前に「誰が伝えるのか」

 次に取り組んだのはシナリオの作成だった。特区の事例やグループ各社各部の取り組みから、共通課題を洗い出し、働き方改革に取り掛かる順番を決める。まずはペーパーレス化に着手し、モバイル環境整備や業務プロセス改善へと進めた。ペーパーレスとモバイル環境の整備により、社員が働く場所や時間から解放される流れだ。

 同時に、社員の意識を変える施策も実施する。JALグループの間接部門約4000人を対象に開催した「意識改革ワークショップ」では、先行部門の社員が講師を務めた。

 「なぜ改革に取り組むのか、どうすればうまくいくのか、社員自らの経験とともに伝えてもらった。トップダウンより、聞き手と同じ立場の社員が語る言葉には説得力がある。『何を伝えるか』も大事だが、『誰が伝えるか』も大切」

 ワークショップは、必要性や背景を伝える「マインドセット」と、各自の知識を底上げする「スキルセット」の2部に分かれている。マインドセットは必修だが、スキルセットは1コマ15分単位のミニワークショップを複数受講可能。「在宅制度の正しい理解」や「ペーパーレス化とは?」など、スキルレベルに合わせて細分化されたテーマから選択できるようにし、社員同士のスキルレベルの高低差を埋めた。

 部門ごとに働き方改革が進められてきたところで、全社共通のルールも策定した。「会議は午後5時半まで」「電話・メールは午後6時半まで」などと目標を定めると共に、全部門別に勤務実績を見える化する。フレックス勤務や在宅勤務制度など、柔軟な働き方ができるよう環境整備も進めた。

 こうした活動が実を結び、開始から約半年で残業実績は約2割改善。2016年度は3割の組織で残業半減を達成した。2017年度末までには総労働時間1850時間(注:総労働時間1850時間を達成するためには、年休を20日取得し、残業を月間約4時間までに抑える必要がある)を目指すという。

 「2015年度は意識改革と基本インフラ整備、2016年度は業務プロセス改革というように段階を踏みながら、1つ1つの課題をクリアしてきた。今後は意思決定のスピードアップを図るなど、社員全員が『JALで働いて良かった』と思えるような新たな価値を生み出していきたい」