ここから本文です

脱北女性タレント、突然の北朝鮮帰国の「怪」

7/19(水) 14:30配信

ニュースソクラ

韓国での生活「地獄だった」と北朝鮮メディアで告白

 北朝鮮を脱出した後、イム・ジヒョンという芸名で韓国のテレビに出演していた有名女性脱出者(25)が、突然北朝鮮の対南宣伝媒体に姿を現した。韓国での生活を「地獄のようだった」と批判し、波紋を広げている。韓国側は「北朝鮮に拉致され、韓国批判をさせられているのではないか」(韓国メディア)との見方も出ているが、韓国にいる3万人の脱北者たちは衝撃を受けている。

 この女性が突然登場したのは、7月16日のこと。「私たちの民族同士」という北朝鮮が運用するインターネットサイトが、「反共和国謀略宣伝に利用されたチョン・ヘソンが明らかにする真実」という題名の映像を公開した。

 この映像の中に登場したイム・ジヒョン氏は白い民族服を着ていた。本名は「チョン・ヒソンだ」と紹介し、「2014年1月に脱出して、2017年6月、祖国のふところに、また抱かれるようになった」と説明した。

 イム氏は2016年12月から4月まで、「TV朝鮮」の、脱北者による人気テレビ番組「牡丹峰クラブ」に出演した。2017年初めには、同じ放送局の「南男北女」という番組にも出演していた。「TV朝鮮」は、韓国の代表的保守新聞、朝鮮日報系列のケーブルテレビだ。

 イム氏は公開された映像の中で、「たくさん食べられ、金もたくさん儲けることができるという幻想を持って南朝鮮(韓国のこと)に行ったが、南朝鮮は私が想像したところではなかった」と主張した。

 さらにイム氏は「私は金を儲けるために酒場をはじめとして、いろいろな所で働いたが、どれ1つうまく行かなかった。すべて金で左右される南朝鮮社会で、私のように祖国を裏切って逃走した女性たちに与えられるのは、ただ肉体的、精神的苦痛だけだ」と述べ、韓国社会の冷酷さを強く批判した。

 映像の中では、イム氏が出演した番組の1部を紹介している。イム氏は、これを見ながら「脱北者たちは、有名になりたくて共和国(北朝鮮のこと)をわざとけなし、反動宣伝をしている。全て演技だ」とも「告白」した。

 約30分の映像は、司会者の質問に答える形で淡々と進んでいくが、最後の部分でイム氏は涙を見せ、こう語った。

 「南朝鮮社会での毎日は、地獄のようだった。(北朝鮮に)帰れば銃殺されるとも言われたが、それでも私は祖国のふところに帰って、お母さん、お父さんの顔を1度でも見て死のうと考えた」

 韓国で多数の番組に出演していたイム氏は、その美貌と、北朝鮮なまりで人気があった。今年に入って本格的な芸能生活に備え、ソウルの芸術系の学校に入学している。4月には、ファンと共に誕生パーティも開いていた。このため、突然の北朝鮮行きの動機を疑問視する声も多い。

 韓国の情報当局の関係者は「脱北者が、自分の家族を北朝鮮から脱出させようと中朝国境に行き、騙されて北朝鮮へ取れ戻されるケースがある」とし、北朝鮮に入国した経緯を調査している。

 収まらないのは、「番組で嘘を言わされた」と名指しされたTV朝鮮だ。

 さっそく担当者が、「イム氏の発言は事実ではない」と反論し、「牡丹峰クラブの場合、台本は本人へのインタビューを通して構成されるし、放送前には全てファクト・チェックしている」と問題はなかったとの立場だ。

 韓国では脱北者の女性が出演し、北朝鮮での生活をあけすけに話す番組がここ数年、人気を集めている。

 こういう番組の常連となってタレント活動を本格化させる女性もいるが、「話がオーバーで、正確性に欠ける」「人から聞いた話を、自分の体験として話している」といった批判も少なくない。 

 さらにイム氏には、韓国に来る前に一時的に生活していた中国で、「生活苦から、淫乱なビデオ制作に関わっており、その映像が最近韓国に流入していた」(韓国の有力紙・東亜日報)との報道もある。このスキャンダルが広がる前に、北朝鮮に逃亡した可能性もありそうだ。

 果たしてイム氏は韓国にいた時演技していたのか、現在北朝鮮で演技しているのか、「ミステリー」(東亜日報)は深まるばかりだ。

■五味洋治 ジャーナリスト
1958年7月26日生まれ。長野県茅野市出身。実家は、標高700メートルの場所にある。現在は埼玉県さいたま市在住。早大卒業後、新聞社から韓国と中国に派遣され、万年情報不足の北朝鮮情勢の取材にのめりこんだ。2012年には、北朝鮮の故金正日総書記の長男正男氏とのインタビューやメールをまとめて本にした。最近は、中国、台湾、香港と関心を広げ、現地にたびたび足を運んでいる。

最終更新:7/19(水) 14:30
ニュースソクラ