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ブラジル政界汚職、食肉大手の司法取引で新局面

7/19(水) 15:30配信

ニュースソクラ

検察がテメル大統領を起訴、国会は受理せず

 2014年3月から始まったブラジルの大型汚職事件の捜査は、3年以上の年月を経て新しい局面に入ったようだ。政治家に対する資金源となった企業についていえば、これまでの主役は政府系石油会社ペトロブラスと、同社から仕事を受注しようとした建設会社だった。

 しかし、今年5月以降は、世界最大級の食肉処理・加工会社JBSが震源となって大きな政治スキャンダルに発展している。

 JBSは米欧豪やラテンアメリカでのM&A(合併・買収)を通じてこの10年余りで急成長した企業で、バチスタ家が経営権を握る同族会社である。2016年の売り上げは1703億レアル(現在の為替レートで6兆円弱)であり、グループ全体の総輸出額139億ドルのうち11.9%は日本向けである。

 以前から不正への関与がささやかれており、これまでも様々な容疑で捜査の対象になっている。2016年9月には政府系年金基金からの資金提供をめぐる汚職疑惑が浮上し、2代目であるバチスタ兄弟(次男ウェズレイと三男ジョエズレイ両氏)が一時、経営者としての職務の停止に追い込まれているし、今年3月には食肉の検査官を買収して衛生基準を下回る肉を出荷していたとして、他の大手とともに摘発された。

 5月に明らかになった証言・証拠は、そのバチスタ兄弟が司法取引に応じた結果、出てきたものだ。発端はブラジル紙「オ・グローボ」による5月17日の報道。

 ジョエズレイ氏が3月にテメル大統領と会ったときに交わした会話をひそかに録音し、捜査当局に提出したのだ。それは大統領本人が不正を指示する内容だったという。JBS幹部が大統領の元側近に賄賂を贈るときの様子を捜査当局が録画することにも協力している。

 その後、JBSはジョエズレイ氏の取締役辞任や、JBSの持株会社による103億レアル(5月末の相場で約3500億円)の罰金支払いで司法当局と合意したことなどを矢継ぎ早に発表している。

 いまだに真相究明の途上ではあるが、罰金額をみただけでも、当局がJBS関連の汚職事件をいかに大規模なものととらえているかが推察できるだろう。

 6月下旬には連邦検察庁が大統領を収賄容疑で起訴している。ただ、大統領自身は容疑を否定し、辞任する考えはないと主張し続けている。大統領に対する起訴を受理するには下院の3分の2の賛成が必要。テメル大統領の連立与党は拒否する構えで、公判がすぐに始まる可能性は低いとみられている。

 来年10月に大統領選・上下両院選が控えているため、昨年に続く大統領弾劾劇は避け、残り1年半ほどは政治的混乱を避け、テメル大統領でつなぎたいと考える与党議員が多いようだ。

 JBSの将来も不透明である。今回の問題が起こった後、サンパウロ証券取引所に上場している同社の株価は大幅に下落し、いまも低迷している。今年上期のニューヨーク上場の計画も宙に浮いている。

 一方、相次ぐ買収の過程で外貨建ての債務は膨らんでいる。政府系金融機関が大株主になっているブラジルを代表する大企業であり、”too big to fail”(大きすぎてつぶせない)企業と考えられるが、これまで進めてきた国際化路線は見直しを迫られる。

 一連の汚職捜査は、首都ブラジリアのガソリンスタンドを舞台にした裏金のやり取りの摘発から始まったことにちなんで、「ラバ・ジャット(洗車)作戦」と呼ばれている。この3年余りの間にも何回か大きな節目があったが、今回は業種の広がりに加え、疑惑の核心に現職の大統領がいること、証言・証拠の生々しさに特徴がある。

 捜査のゴールは見えず、闇は深まる一方だ。

■松野 哲朗(経済ジャーナリスト)
1960年埼玉県生まれ。85年日本経済新聞社に入社し、経済部記者、国際部記者、マニラ支局長、静岡支局長などをへて2015年退社、フリーに。

最終更新:7/19(水) 15:30
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