ここから本文です

ロボットやAI活用 日本女子バレー「IT革命」までの道のり

7/20(木) 7:10配信

ITmedia NEWS

 スポーツ界のIT活用が進んでいる。特に顕著なのがプロスポーツの現場だ。2020年の東京五輪・パラリンピックに向け、各メーカーが技術開発に本腰を入れている。

【画像:練習に参加する人型ロボット】

 例えば、新体操の採点を支援する3Dセンシング技術。3Dレーザーセンサーで選手の動きを捉え、観客の邪魔にならない高精度な採点を助ける新技術が、東京五輪での実用化に向けて開発されている。

 こうしたスポーツのIT化の流れは過去にも、スポーツ観戦、選手の練習方法などを大きく変えてきた。中でもここ15年ほどで日本選手の在り方が一変した競技の1つが「バレーボール」だ。

 海外選手と比べて身長にハンディキャップがある日本女子バレーは、10年以上前から専属アナリストを呼び、データ活用を推進。超えられない身長差の壁を頭脳で克服してきた。

 「日本女子バレーのIT活用は、世界で見ても1、2を争うレベルで進んでいる」――08~16年の五輪で日本女子バレー代表チームの専属アナリストを務めた渡辺啓太さん(日本スポーツアナリスト協会代表理事、日本バレーボール協会 ハイパフォーマンス戦略担当)は話す。

 実際、代表チームの練習場である味の素ナショナルトレーニングセンター(東京都北区)では「ブロックマシン」と呼ばれるロボットを導入。タブレット端末と連携し、世界のトッププレイヤーのブロック動作を再現している。そんな練習相手が存在するのは「おそらく世界で見ても日本だけではないか」という。

 テクノロジーを武器に、10年の世界選手権と12年のロンドン五輪では銅メダルを獲得した日本女子バレー代表チーム。だが、いまでこそ“IT強者”とされる日本女子バレーも、「2000年頃は世界に後れを取っていた」(渡辺さん)。そんな日本は、女子バレー界でいかにしてIT先進国の地位を得ていったのか。

●「日本のプライド」がIT導入の壁に

 10年のバレーボール世界選手権で、タブレット片手に選手へ指示を出す眞鍋政義監督(当時)の姿が印象に残っている人は多いだろう。

 渡辺さん自身も「2010年はブレークスルーの年。世界中から『マナベは一体何をやっていたんだ?』と問い合わせが殺到した」と振り返る。このころは監督だけでなく、選手やコーチも積極的にデータを活用し始めたタイミングでもあるという。

 しかし、2000年代初頭までは、日本は世界に後れを取っていた。

 17年現在、「世界トップレベルにおける女子バレーチームの約95%が使っている」のが「データバレー」というイタリア発の統計分析ソフトだ。選手やボールの位置情報、プレイ内容などを手入力し、試合データを収集・分析する。

 00年ごろにはすでにイタリアやアメリカなど欧米中心に世界で普及していたが、日本は導入に及び腰だった。その理由を「技術大国日本のプライドが邪魔をしたのでは」と渡辺さんは分析する。

 90年代~00年代当時、日本国内のバレーボールトップリーグには、東芝、日立、パナソニック、日本電気(NEC)など大手コンピュータ企業を母体とするチームが多かった。「当時は、自分たちの方がいいものを作れるだろうという自負があったのでは。独自の国産システム開発は結局実現せず、03年頃にようやくデータバレー導入を検討し始めた」

 ただしデータバレー導入後も、すぐにデータ活用が進んだわけではない。渡辺さんが、日本バレーボール協会の専属アナリストになったのは06年。それまでもボランティアでデータ分析をしていたが、「海外チームには専属アナリストがいる一方で、日本は04年まで国際大会のたびにスタッフや機材が変わっていた」という。

 日本もデータを扱う専門家をつけるべきではないか──世界のトップチームに追い付くため、柳本晶一監督(03~08年に日本女子代表監督を務める)の時代から、渡辺さんの挑戦は始まった。

●「難しそう、面倒くさそう」と思われたら終わり

 渡辺さんは06年当時を振り返り、「まるで訪問販売の押し売りのように、こんな情報は役に立ちませんかと常に監督に提案していた」と笑う。

 アナリストはどんな情報を提供すべきか分からず、監督や選手もどんな情報が欲しいのか分からない状態。控えの選手が試合中のビデオ撮影係を担い、音声でプレイ情報を吹き込むなど、手弁当なアナログ作業も多かった。

 ゼロからのスタートだったが、渡辺さんは毎日のように練習や試合に同行。チーム内で密にコミュニケーションを取る中で、徐々に信頼を勝ち取っていく。

 「相手に伝わることがゴール。監督や選手に、データ活用が難しそう、面倒くさそうと思われたらそこで終わり。実際にコートの中でどう役立つかを実感してもらうことを常に心掛けていた」

 一方的に話しても選手の身にならないため、わざと余白の多い資料を渡してペンでメモを取らせるなど、記憶に残るよう工夫したこともあった。

 データを活用する風土が根付いたいま、チーム内で最も使われているのが、スマートフォンやタブレットで試合映像を確認できる専用アプリだ。映像と入力データを結び付けられ、例えば「A選手」「アタック」などで検索すると、その特定のA選手がアタックしたシーンだけを順に再生できる。

 このアプリは日本独自で開発したもの。ネット動画視聴サービスのように直観的な操作で巻き戻し/早送りなどもできるので、選手たちも移動時間などで気軽に利用しているという。

 「バレーは情報戦。監督がコートにIT端末を持ち込めて、自由に情報共有できるので、アナリストが介入できる余地も非常に大きく、やりがいがある。戦略と戦術で優位に立ち、身長差の壁を克服したい」

●次はAIとVRに期待 「ただし過信は禁物」

 先進的な取り組みで日本チームを支えてきた渡辺さん。だが「テクノロジーへの過信は禁物」と、あくまで冷静だ。

 「テクノロジーがもたらす力は大きい。最初のうちは、驚きや目新しさで選手、コーチ、監督の誰もが興味関心を持つが、実用性がないと意味がない。そのテクノロジーがどう役立つのか。技術をスポーツに落とし込むのがアナリストの役目」

 そんな渡辺さんがいま注目する技術は、AI(人工知能)とVR(仮想現実)だ。

 16年のリオ五輪までは、試合中の情報をアナリストがシステムに手入力して機械学習させ、相手セッターの行動を予測していた。今後はAIの自動画像認識機能に期待しているという。トラッキング技術を用いて選手のプレーを自動入力できれば、アナリストはもっと分析に時間を割けるようになる。

 同種のシステムとして、サッカーやラグビーでは実際にトラッキングシステムが活用されている。だがバレーボールやバスケットボールなど「高さの情報が重要な競技での応用はまだまだ」。AIに向けられる期待は大きい。

 VRに期待するのは、イメージトレーニングでの活躍だ。普段練習では体感できない高さやスピードは、試合という限られた本番の機会で経験するしかない。VRや自由視点映像の活用によって、コートにいる選手の目線で相手チームの動きを見られれば、相手選手の動きやサーブの回転をどこでもイメージできるようになる。

 例えばプロ野球では、16年にNTTデータがVRヘッドマウントディスプレイを使ったトレーニングシステムを開発。投手が投げるボールを打者視点で仮想体験できるもので、東北楽天ゴールデンイーグルスが17年から本格利用している。

 「コート上での練習は疲労が蓄積してコンディションへの影響を及ぼすリスクがあるが、場所を選ばずにリアルなイメージができるVRは、非常に大きな期待を寄せている」と渡辺さんは話す。

 日本女子バレーチームはいま、東京五輪に向け、ビッグデータを一元管理するプラットフォームを新たに作っているという。「これまで蓄積してきた実際のプレーの結果や記録だけでなく、疲労度や睡眠時間などコンディショニングデータも蓄積できれば、10年、20年というスパンで傷害予防などにも使える可能性がある。これは大きな財産で、中長期的な活用を見込んでいる」

 あと3年でどう変わるか──2020年に向け、日本女子バレーは進化を続ける。

(村上 万純)

最終更新:7/20(木) 7:10
ITmedia NEWS