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だから世界的に「メディア不信」が広がっている

7/20(木) 8:23配信

ITmedia ビジネスオンライン

 日本のネット界隈では「マスゴミ」という言葉がすっかり定着している。

 安倍晋三首相がからむニュースや、メディアのあり方などについてのニュースがネットで報じられると、きまってコメント欄には「マスゴミ」という言葉が並ぶ。

【新聞の閲覧状況が減少している】

 最近、読売新聞が加計学園の問題で驚くような記事を掲載して、いかにも「マスゴミ」らしい仕事をしたのは記憶に新しい。文部科学省の前事務次官、前川喜平氏が「出会い系バー」に通っていたという、あの記事である。

 霞が関界隈の記者に話を聞くと、読売新聞記者でも直前までこの記事の掲載を知らなかった者が多かったようで、しかも地方版のすべてで記事が統一されていたことから、政権につながる「上層部」からの指示だったのだろうとのことだった。事実なら、読売が日本の「マスゴミ」全体のイメージに与えた悪影響は小さくない。

 公益財団法人の新聞通信調査会が行なった調査によると、2016年、新聞を全般的に見て満足であると答えているのは全体の51.8%。前年から2.1ポイント減少した。不信感がゆっくりと高まっている中、今年の調査がどうなるのか、見ものである。

 メディアの誤りや偏向などが議論され、メディアのイメージが悪くなりつつある背景には、間違いなくインターネットの存在がある。ネット上でメディアへの“批評”(単なる“言いがかり”も含め)が、いまだかつてない規模で行われるようになったからだ。読売新聞の記事も、ネットのない時代なら業界の話題として週刊誌ネタで終わっていたかもしれない。

 既存メディアに対するネットの影響力を考えると、ある疑問が湧いてくる。ネットは世界中で普及しているが、メディアの信頼性が落ちていると考えられるのは、日本だけなのか? 世界ではどうなのか? 

 先に答えを言ってしまうと、もちろん日本だけではない。実は海外でも、メディアの信頼性は落ちているのだ。

●米メディアの信頼性はガタ落ち

 米国では、ドナルド・トランプ大統領が「フェイク(偽)ニュース」という言葉をTwitterで乱発し、就任後もずっとネットで拡散させている。その言葉を大手メディアも日常的に拾っており、トランプの思惑通りに、ネットを起点として「トランプVS. 既存メディア」の構図ができ上がっている。ここまで露骨な対立はトランプ以前の米国にはなかったことである。

 現在、トランプは記者会見を行わず、とにかくネットを介してメディアへの攻撃を繰り返している。その理由は、メディアに直接突っ込まれたり間違いを正されることなく、支持層にダイレクトにアピールするためだ。

 ちなみにトランプはメディアを「野党」のようなものだと呼び、批判している。ただメディア本来の役割は「権力監視」であることを考えると、トランプの主張はある意味で正しい。米国ジャーナリズムの基本は、「クリティカルシンキング(批評的な見方)」であり、メディアが、大統領をうんざりさせるほど厳しい目で政権を監視するのは、メディアのあるべき姿であり、存在意義でもある。

 では現在、米国民の目からみたメディアの評価はどうなのか。もともと米国では、ジャーナリストの社会的な“地位”は日本などと比べて高い。米国では、地方紙などで訓練を受けて経験と実績を積んでから、全国紙などにステップアップするのが通例で、そうした下積みを経て、ニュースや外交、安全保障など国家的なニュースを対象にして取材を行えるようになっていく。有能なベテランジャーナリストがいろんなキャリアを積んで集まる全国紙の記者ともなれば、世間から一目置かれる存在となる。

 ただネットの普及とトランプ政権の誕生もあり、様相は変わりつつある。米ハーバード大学と調査会社ハリスが行なった調査によると、全体の65%が既存の大手メディアにはフェイクニュースが溢れていると考えている。トランプの支持基盤である共和党員に至っては、80%が既存メディアはフェイクニュースだらけだと考えている。一方、ネットの情報はどうかと言うと、84%がネットの情報はどこまで信じればいいのかが分からないと答えている。

 また別の調査でも、メディア不信が数字になって現れている。調査会社ギャラップは、2016年、メディアを信頼できると答えた米国人はたったの32%で、この数は1997年の53%からかなり落ち込んでいると指摘している。

 こうしたメディア不信の理由のひとつには、メディアは「エリート」側にいると批判的に見るトランプ支持者の人たちの感情を、大統領がわざとあおっていることがある。つまり、トランプのツイートによるメディア批判が効いていると考えられる。そのせいで、今、米メディアの信頼性はガタ落ちになっているのである。

●英国でもメディアの信頼度が低下している

 他の国ではどうか。英国もメディアの信頼度低下が報告されている。英調査会社YouGovが行なった、英国で一番真実を語っていると思うメディアはどれか、との調査に衝撃的な結果が出ている。なんと、1位になったのは「Wikipediaの執筆者たち」で、回答者の64%がWikipediaを挙げたのである。

 英国民は既存メディアよりも、ネット上にある“百科事典”を信頼していることになる。2位に入ったのは「(英公共放送の)BBCの記者」で、回答者の61%が真実を語っているだろうと答えた。英ガーディアン紙などの一般紙の記者に対しては、45%が信じられると答えている。

 また英国の別の調査によると、メディアを信頼できるとした英国民は24%で、2016年の36%から大きく下落した。英国の場合、2016年のブレグジット(EU離脱)の国民投票で、メディアの事前予測に反して離脱が決定したり、同年にほとんどのメディアの予想に反してトランプ大統領が誕生したことなどが、メディア不信につながっていると見られている。

 実は、日本や英米で見られるメディア不信は、いま世界的な傾向となっている。

 英調査会社エデルマンは、世界28カ国を対象にメディアに対する意識調査を実施していて、2017年1月にダボス会議でその結果を発表した。それによると、メディアの信頼性は世界的に見ても51%から43%に低下しており、これまでの調査で最低の数字を更新した。

 中でもメディアへの不信感が顕著だったのは、オーストラリア、カナダ、アイルランド、コロンビアだった。同社によると、この信頼低下の背景には、メディアがこれまで以上に「エリート」側であると見られるようになっており、批判的に見る人が増えたというのがある。またネットの台頭ももちろん低下の要因になっており、同社の調査では、5年前から既存メディアよりもネットを頼る人が増えていると指摘している。

●かつてなく厳しい目にさらされている

 ここまで見てきたとおり、ネットの普及は、世界的にメディアの信用低下を助長しているようだ。また米国や英国の調査によると、メディアに不信感をもっているのは、特に若い世代が多い。というのも、若い世代はネットを年配者よりも活用している傾向にあるからだ。

 ネットをより使うことで、既存メディアだけに依存しなくなり、幅広い情報にアクセスでき、自分たちでそれを取捨選択できる。紙面の限られたスペースのせいで、すべての情報を掲載できない新聞などは明らかに不利で、削った情報を「恣意的な編集」と思われてしまうのは避けられない。信用されなくなるわけである。

 読売新聞が報じた前川前事務次官の「出会い系バー」記事が、現場の記者たちが言うように「上層部」の指示だったとすれば、読売巨人軍の黄金期も知らず、購読歴もない若者ならば、ネット上で読売新聞の評判などの情報を読んで、不信感を抱くかもしれない。そういう流れが積み重なれば、遠くない未来、つまり10年から20年ほど経って今の若者が中年になれば、同社の部数にどんな変化が起きるのかは、ここで言うまでもない。

 よくネットを使えば無料で情報が得られるために、新聞などの既存メディアは厳しい立場に追いやられているという話を聞く。もっともな意見だが、それ以上に、ネットの普及で、新聞社が掲載する記事の問題点が浮き彫りになり、その情報が広く知られるようになっている事実のほうが重大ではないだろうか。

 メディアはネットの時代に、いまだかつてなく厳しい目にさらされている。おそらく「上層部」は、ネットの本当の影響力をまだ理解していないのかもしれない。

(山田敏弘)