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シンギュラリティ時代のAIとの働き方とは?

7/20(木) 14:12配信

ITmedia エンタープライズ

 大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所(NII)の研究センターであるコグニティブ・イノベーションセンターは2017年7月3日、東京・丸の内の日本IBM 戦略共創センターにおいて、「未来の働き方」をテーマに、ラウンドテーブルを開催した。

【その他の画像】第4次産業革命による就業構造変換の姿(イメージ)(出典:経済産業省資料)

 ラウンドテーブルには、シンギュラリティ研究の第一人者であるカーネギーメロン大学のヴィヴェック・ワファ(Vivek Wadhwa)教授の他、経済産業省経済産業政策局参事官の伊藤禎則氏、NIIの喜連川優所長など20人が参加した。

 働き方改革の実行計画については先頃、日本政府が「2017年4月から“改革の第2章”に入った」と宣言している。今回のラウンドテーブルでは、こうした動きを捉えながら、「日本における働き方の課題や未来への展望」「AIは日本の生産性を改善するのか」「未来のためにどのような人材と教育が必要なのか」といったテーマについて議論した。

●働き方の課題と未来への展望

 最初のテーマである「日本における働き方の課題や未来への展望」では、ワファ教授が、「日本の働き方改革には、日本固有の問題がある。海外では会社に来ないことが問題になるが、日本では、会社から家に帰ってもらうことや、プライベートを楽しんでもらうことが問題になっている」と前置きし、「日本の多くの企業からAIという言葉をよく聞くが、AIを買えば問題が解決すると思っている企業も多い。それは、電気を買えば、問題が解決できるといっているようなもの。電気は、照明器具がなければ、部屋を明るくできない。AIも同じである。AIは重要だが、それをどう使うかが重要だ」と指摘した。

 そして、「これからのロボットは、AIを使うことで、秘書になったり、友人になったり、コーチになったり、医者にもなったりしてくれる」とし、「IBMはWatsonを使うことで、これから5年後には、全ての疾病の診断を人よりうまくできるようになるといっている。また、AIは、人よりもデータの解析に長け、さらに、それをずっと覚えていてくれる。人は2、3年で次の仕事に変わったり、定年で退職したりするため、企業に知識やノウハウが蓄積されずに、失われていく。AIはその課題をカバーし、企業の生産性向上につながる」と述べた。

テクノロジーの進化で“破壊”の波が来る

 一方で、ワファ教授は、「1990年代に日本に来たときには、国際電話に数1000ドルもかかったが、いまは無料で電話ができる」とテクノロジーの進化の事例を挙げ、「これと同じように、14年以内に無制限のエネルギーが生まれ、無償で提供される。街には火力発電がいらなくなり、食料も無料になる。デジタルドクターの登場で医療も無料になる。デジタルの活用で、教育も無料になる」と予測する。

 そして、「こうした動きは産業に“破壊”をもたらし、日本にも影響を及ぼす。テクノロジーの進歩と融合を考えれば、全ての業界は5~10年で成長が止まり、株価が暴落し、経営陣がクビになるといった、さまざまな悲劇が起こる」と続けた。

 例えば、「自動運転のクルマが3年以内に登場し、5年後には東京の街中を走っている。10年後には人がクルマを運転することはなくなる。そうすれば、トヨタや日産は、いまの市場の9割を失うことになる。同様に、デジタル通貨が流通すれば、銀行マンが不要になる。ロボットがモノを製造すれば、中国の製造業はなくなり、中国経済が低迷する」という。

 ただし、「日本における朗報は、高齢化が進むものの、ロボットが台頭することで生産性が向上するという点。AIで労働力が改善する。煩雑な仕事はAIに任せることができる」とも指摘した。

参加者から見た、働き方の課題や展望

 働き方の課題や展望について参加者からは、「日本では、新卒一括採用や終身雇用、年功序列といった仕組みが定着しており、働き方を変えるには、大きな課題がある」との指摘が挙がったほか、「AIは生産性を高めていくのは明らかだが、最後の顧客の接点となる部分が自動化できるかどうかは課題。純粋役務に当たる作業をどう効率化するかが鍵である」といった声が挙がった。

 これに対してワファ教授は、「いまから5年後のAIは様変わりしている。そこに向けたプランニングをしてほしい」と語り、いまの技術やその延長線上の技術で判断しないことを促した。

●AIは日本の生産性を改善するか

 2番目のテーマである「AIは日本の生産性を改善するのか」については、経済産業省経済産業政策局参事官の伊藤禎則氏が「AIやロボットの領域で日本にアドバテージがある」と指摘する。

 「AIが人の仕事を奪ってしまうというよりも、AIに人の仕事をやってもらうことで人手不足を解消できるメリットが先行する。また、日本のロボット技術の原型は“ドラえもん”であり、人に寄り添い、人を手伝うものと考えられている。さらに日本はリアルテクノロジーでも強みがある。ロボットや製造技術に強さがあるもアドバンテージとなる」(伊藤氏)

 加えて、「製造現場でここまでデータが取られている国はない。ドイツがインダストリー4.0でやっていることは、日本がやっていることを周回遅れでやっているともいえる。これはあらゆる業界で見られる日本固有の状況であり、介護の現場でも9割のデータが残っており、先進国でもこんな国はない。だが、問題はそれらのデータが手書きであるという点」とした。

 一方、「日本における課題は、多くの仕事がAIに置き換わった後に残った仕事が、報酬の低い仕事や、付加価値が低い仕事だけになった場合にはどうするかという点」と言及。このため「付加価値の高い仕事の領域をいかに増やすかが大切。日本の労働環境は、流動性が低く、異なる業種や経歴によるコンビネーションが少ないため、成長性の高い領域に移動できる可能性は低い。ここを修正していく必要がある」と述べた。

 続いて、「働き過ぎといわれる社会環境を変える必要もある。高齢者の就業や、介護や育児などの家庭生活と仕事の両立が困難といった社会問題の解決は、現在の長時間労働を前提とした働き方では実現できない。2019年度には、労働時間の上限に関して、罰則付きの厳格な法規制が導入される予定もある。そういった労働環境の改善も踏まえた上で、働き方改革の鍵となるのは、AIとデータである。そこに向けて、日本は準備ができているのかを問うていきたい」と強調した。

参加者から見た、AIによる生産性の改善

 参加者からは、自社のコールセンター業務でAIを活用したところ、対応時間の短縮やコスト削減が実現し、離職率が減少した例などが紹介され、「AIは生産性を上げるためには不可欠」といった声が挙がった。

“破壊”の波に立ち向かう日本独自の視点を

 ワファ教授は「テクノロジーは、メリットよりも、リスクを考えてほしい。ただ、AIによってもたらされる問題を捉えると、失業は全体の5%でしかない。もっと大きな問題があることを知ってほしい」と提言。

 「いまあるAIは、Excelのバージョン1.0のようなもので、まだまだ初期段階のものでしかない。今後、バージョンが上がることで世の中を変えていくことになる。スタートアップの企業が大手を食うといったことも起き始めているように、テクノロジーが世界を“破壊”することになる。この破壊的な波は、毎年違ったレベルに上がり、力を増していく。だが、それに向けて準備を整えている企業は、日本企業のわずか1%であり、残りの99%は気がついていない。米国でも気がついている企業は1~2%程度だ」と述べた。

 だが、こうも指摘する。「日本のいいところは、テクノロジーを知っている政府高官がいること、AIとは何かということを分かっている企業のトップが多いことである。日本政府は、政策としてテクノロジーをインプリメントしている。日本は、一歩先に行くチャンスがあるが、そのためにはしっかり学ぶ必要がある」。

 さらに、「200年の歴史しかない米国が考える未来は、シナリオAが『スタートレック』のような社会、シナリオBは『マッドマックス』の世界だ。いまは、マッドマックスの道に向かっている」と持論を展開しつつ、「日本は長い歴史を持つ国だ。日本の昔の価値に立ち返ってみてはどうだろうか。知識を持ち、高見を目指し、悟りを開くといった学びを、未来にも生かせるのではないか」と結んだ。

●未来のために必要な人材と教育

 3つ目のテーマ「未来のためにどのような人材と教育が必要なのか」に関しては、経済産業省の伊藤氏が再びリードした。

未来を生きる学びを習慣づける

 「今は人 対 AIという構図で語られることが多い。だが、本質は、AIを利用できるのか、できないのかということであり、結果として、AIを利用できる人 対 AIを利用できないヒューマンという構図になる。その鍵になるのが教育である」と指摘。

 そして、「日本では、今後、2万校でプログラミング教育が行われることになるが、子どもたちが学ぶプログラミングが20年後に使われているのかは分からない。また、AIはまったく違うものになっている可能性もある。いま、6歳の子どもに何を教育すればいいのか」と疑問を投げかけた。

 カーネギーメロン大学のトム・ミッチェル教授は、これに対し、「1つは、歴史や文化などのリベラルアーツを学ぶこと、もう1つは、チームで活動するための学習をすることが大切」と、自らの調査で得た回答を紹介した。

 一方、ワファ教授は、質問に対し、「子どもが勉強したいことをさせるのが大切」と述べた。「なぜなら、勉強を習慣づけることが重要だからだ。日本でも、将来のキャリアは、終身雇用ではなく、5~10年で変わるものになるだろう。だが、学習は、一生続ける必要がある。もはや大学という制度はなくなるかもしれない。そして、子どもたちが、ここにいる大人たちと同じレベルで、Watsonを普通に使いこなす時代が訪れることだろう。そうなると、15歳になったら、あっと驚くような仕事ができるようになっているかもしれない。そうした世界で生きるためには、学習することを楽しむ子どもに育てることが大切。学びたいことをやらせるのが一番だ」。

イノベーションこそが大切

 また、「失礼になるかもしれないが、正直な話をしたい」と切り出しながら、自らもインド出身であるワファ教授は、「シリコンバレーでは、51%の企業が移民によって立ち上げられた企業だ。そのうち、スタートアップ企業の16%がインド人によるものであるが、人口比では5%にすぎない。日本人は、シリコンバレーに来ても起業はしない。来るだけで何もしないのが実態だ」と指摘。「では、なぜ、インド人はこんなに成功できるのか。それは、汚職が日常的に行われ、ルールを破るのが大好きともいえる国民性があり、それが染み着いているからだ。生き残るには、ルール破りをすることも必要なのだ」とジョークを交えて説明した。

 「シリコンバレーに人を送っただけでは、何も変わらない。やり方を変えないと意味がない。シリコンバレーには、巨大なネットワークがあり、人が2~3年で転職しては、新たなアイデアが、新たな会社で生まれる。そして、失敗を受け入れるという文化がある。ダイバーシティーもある。だが、日本の大企業のようなネームバリューがあっても、相手にしてくれないことが多い。イノベーションこそが大切だからだ。ルールを破ってでも競争するという姿勢は、日本も獲得する必要があるのではないだろうか。例えば日本IBMの社員には、日本IBMを破壊し、廃業させるようなアイデアが求められているという。ルールを破って、挑戦してほしい。そうすれば日本は成功する。すばらしいオポチュニティがある。私は日本が大好きだからこそあえて提案する。ぜひ、生まれ変わって、次のレベルに上がってほしい」と提言した。

 最後に、経済産業省の伊藤氏が「政府は、働き方改革の次のステップとして、『人づくり革命』に取り組み、政府が革命をリードしていく。名前に恥じない『人づくり革命』をしなくてはならない」とし、「これまでの働き方改革は、労働時間の問題ばかりがクローズアップされた。労働時間を短くしようという発想の前提には、働くことは嫌なことであるという認識があった。ロボットの語源は、チェコ語で、『強制された労働』という意味がある。AIやロボットには、強制された仕事をやってもらい、人は、強制されていないクリエイティビティな仕事に向かわなくてはならない」と語った。

 働き方改革は、労働時間短縮の観点や、子育て支援、介護支援のための仕組みという考え方にとどまらず、生産性を高め、競争力を高めるための取り組みであるという考え方が広がりつつある。その上で、AIやロボットの活用はプラスに働くというのが、基本的な考え方だ。

 そして、AIやロボットをより効果的に活用するには、AIに仕事が置き換えられるという議論ではなく、AIが人を支援するために活用するという仕組みづくりが必要であり、それに向けた教育も重要な意味を持つことが明らかにされた議論でもあった。

 その一方で、テクノロジーによる破壊の波は、多くの人が思っている以上に、短期間に巨大な波となって訪れると断言するワファ教授の意見には、驚きを感じざるを得ない部分もあった。これをどう捉え、どう準備をするがこれからの課題といえるだろう。