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【ライターコラムfrom川崎】12年間、チームバスのハンドルを握り続けてきた功労者へのメッセージ

7/20(木) 19:01配信

SOCCER KING

 7月1日、明治安田生命J1リーグ第17節ヴィッセル神戸戦が開催された等々力陸上競技場。

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 試合前、この日もチームバスの入り待ちを行うたくさんの川崎フロンターレサポーターの姿があった。

 これ自体は、いつもと変わらない光景ではある。チームバスに乗っている選手達に向けて横断幕を掲げることもあるが、これもさほど珍しいことではない。

 ただこの日は、メッセージを向ける対象が選手ではなかった。

「小泉さん 長い間 お疲れ様でした」

 サポーターが掲げていた横断幕に大きく書かれていたメッセージは、チームバス専属運転手である小泉透さんに向けたものだったのである。

 実は7月15日を持って、約12年間に渡ってフロンターレのチームバスの運転手を務めてきた小泉さんの定年退職が決まっており、今回は、そのためのバス待ちだったのである。

 チームバスを降りるとサポーターからのたくさんの拍手で迎えられて、少し驚いていた小泉さん。サポーターから拡声器を渡されると、「フロンターレのドライバーとしてみなさんと一緒に歩んできた12年間。無事故・無違反で、共に皆さんと歩んでこれました。ありがとうございました。またこれからもフロンターレをよろしくお願いします」と挨拶し、サポーターからメッセージの入ったタペストリーがプレゼントされていた。

 試合前のバス待ちで、運転手さんに向けた横断幕が掲げられるのは異例だろう。ただこれもフロンターレらしさと言えるのかもしれない。なお試合はヴィッセル神戸に5-0で完勝している。

 その後、浦和レッズ戦、サガン鳥栖戦を経て、小泉さんにとって最後の運行日となった試合が7月12日の天皇杯全日本サッカー選手権大会3回戦・ザスパクサツ群馬戦だ。その試合前日練習後。移動のためにクラブハウスの前にチームバスを停めて、選手を待っている小泉さんに少しお話を聞いてみた。

 おそらく小泉さんは、フロンターレの誰よりもサポーターのバス待ちの光景や激励の横断幕を見てきたはずである。ただ、自分に対する感謝のメッセージが掲げられるとは思いもしなかったのではないだろうか。フロンターレサポーターによる粋な演出を、本人はどう感じたのだろうか。

「あれはビックリしましたね。よそのチームでもこういうのは聞いたことがないから、『なんで自分が?』ってね。最後にマイクを渡されて、ウルッときましたよ。本当に、あれでサポーターに救われました」

 素晴らしいのは、約12年間、無事故・無違反でチームバスを運行してくれたことだろう。選手の身を預かる立場としては当然のことかもしれないが、長期間に渡って実行できるのは決して簡単ではない。例えば、あるとき他のチームのドライバーと話した時、前回とは運転手が替わっていたことがあったという。「どうしたの?」と事情を尋ねたところ、前任者は道を間違えたことで替えられたのだと明かされた。それだけ厳しい業界でもあるのだ。

 チームバスのフロントには、いくつかのマスコットたちが可愛らしく鎮座している。最初はふろん太の一体だけだったが、今では仲間がたくさんである(運転中は置き場所を移動している)。

「最初、クラブの事務所で一つもらってきたのかな。ただ置く場所がなかったので、サランラップの芯を使って、真ん中に置くようにした。そうしたら、ちょこちょこと増えてきたね」

 そしてラストランとなった群馬戦。

 試合前のアップでは、ゴール裏のコールリーダーから「小泉さんのために今日は絶対勝ちましょう!」の声と、大きな小泉コールが響き、ゴール裏近くでゆっくりと頭を下げる小泉さんの姿あった。

 試合は4-0で勝利。あの神戸戦から公式戦4連勝を飾ることとなった。

 試合後のミックスゾーン、チームのハンドルを握り続けてきた小泉さんのラストマッチを飾ったことについて、ピッチ上でのチームのハンドルを長く握ってきた中村憲剛に聞いてみた。

 彼は「浦和戦、鳥栖の帰りのバスもいるし、セレモニーも多かったので……。何か小泉さんがラストになってから長いかったよね(笑)」と茶目っ気たっぷりに切り出しながらも、「でも今回が本当にラストかぁ」と感慨深い様子だった。まだ実感はないのだろう。それだけ、当たり前の存在だったとも言えるのかもしれない。

 小泉さん、長い間、お疲れさまでした。

文=いしかわごう

SOCCER KING

最終更新:7/20(木) 19:01
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