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古くて新しい、JR東日本の「新型電気式気動車」

7/21(金) 7:10配信

ITmedia ビジネスオンライン

 都会生まれのタレントさんがテレビ番組で地方ロケに行き、「電車に乗ります」などと言うと「それはディーゼルカー(気動車)だから電車じゃない!」と鉄道ファンの皆さんからツッコミが入る。それは正しいけれど、もはや列車の一般名称として電車が広まっており、「電車かホントは気動車か」なんて、どっちでもいい話だ。地方の非電化路線を旅すると、地元の人々も「電車」と呼んでいる。だからもう、視聴者の指摘を受けて「※電車ではなく気動車です」なんてやらなくていいと思う。どうせ真剣に訂正するつもりはなくて、「鉄オタめんどくせぇな」くらいの気持ちだろう。

【JR東日本として初の電気式気動車「GV-E400系」】

 最近、電車か気動車かを考え始めると、ややこしいことになってきた。実は純然たる気動車は減っていて、ハイブリッド方式など新しい動力方式が増えている。ハイブリッド方式の車両はディーゼルエンジンを積んでいる。しかし車輪にはつながっていない。エンジンで発電し、モーターを駆動する。JR東日本の烏山線、男鹿線、JR九州の筑豊本線では「蓄電池電車」が走っている。バッテリーに充電した電力でモーターを駆動する方式だ。

 ハイブリッド方式は純然たる気動車ではない。電車と言われても否定しきれない。蓄電池電車は、紛うことなき電車だ。架線もパンタグラフもないけれど電車である。鉄道ファンでなければ、電車か気動車かなんて見分けがつかない。

 そして2018年に新たな動力方式が加わる。「電気式気動車」だ。JR東日本が新潟・秋田地区に新型電気式気動車「GV-E400系」を投入する。簡単に言うと、ハイブリッド方式からバッテリーを省いた駆動方式だ。エンジンで発電機を回し、その電力でモーターを回す。エネルギーの流れから表記すれば「気動式電車」でも良さそうだが、JR東日本の区分では「気動車」にしておきたいようだ。

 電化区間だけを走る車両が電車、非電化区間も走行できる車両の代名詞が「気動車」。しかし、蓄電池式電車は電車扱いだ。烏山線の列車番号の末尾記号は気動車時代はD、現在は電車を示すMになった。Dはディーゼル、Mはモーターに由来する。烏山線は烏山駅に充電設備を作った。これをもって電化という扱いのようだ。

 さて、電気式気動車「GV-E400系」については、18年度に量産先行車として2両編成と1両編成を1本ずつ、計3両を製造する。その後、新潟・秋田地区には63両を導入する計画だ。JR東日本全体では約150~250両を製造し、全国の非電化区間に順次投入する予定となっている。なお、この車両はJR北海道も採用する。寒冷地仕様の「H100形」とし、非電化区間普通列車向けの次期主力車両になる。

 JR東日本は07年に世界に先駆けてハイブリッド方式車両の営業運行を開始した。小海線の「キハE200形」で、3両を投入した。その後、仙石東北ラインに「HB-E210系」を8編成16両、観光列車用として「HB-E300系」を5編成14両導入している。ここまでハイブリッド方式車両は33両。そして、これから導入される電気式気動車は最大250両。JR東日本はハイブリッド方式車両の先駆者でありながら、次世代非電化区間向け車両は電気式気動車に見定めたといえそうだ。

●古くて新しい「電気式気動車」

 非電化区間の列車の動力は、人力、馬力、蒸気機関、内燃機関と変化してきた。そこに新たにハイブリッド方式が加わり、電気式気動車が登場した。この順序を考えると、最進化形が電気式気動車に見える。JR東日本の報道資料にも「当社としては初の電気式気動車」とある。しかし、電気式気動車のアイデアは古く、こなれた技術だ。「当社としては初の」という言葉遣いは、他社で先例があるからだ。

 “他社”には、ドイツ鉄道の非電化区間向け「ICE TD」など海外の事例が多い。そして、実は戦前の官営鉄道やJR化以前の日本国有鉄道にもあった。また、機関車にも電気式ディーゼル機関車があって、JR貨物でも採用されているし、JR九州のクルーズトレイン「ななつ星in九州」の機関車もJR貨物の同型車だ。

 ドライバーに限定されそうだけど、気動車の話はクルマに例えると分かりやすい。エンジンを搭載した客車、つまり初期の気動車は機械式といって、運転士が最適なギアを手動で選択する。クルマに例えればマニュアル車だ。気動車1両で走る分には問題ないけれど、乗客数が増えて2両以上になると面倒なことになる。1両を追加するだけなら動力のない客車を連結して引っ張ればいい。しかし、勾配の多い区間を走らせるとなると、動力車を2台つなぎたい。この場合は蒸気機関車の重連と同じで、1両につき1人の運転士が乗り、合図をしながら走らせることになる。3両なら3人、4両なら4人だ。蒸気機関車より人手が必要になる。

 そこで、米国で考案された「ガソリンエンジンを発電機として使い、発電された電力でモーターを回す」という方式を取り入れた。エンジンではなく電圧でモーターを制御するため、マニュアルミッションは不要。複数の車両の配線をつないで、1つの運転台で一括してコントロールできる。これを総括制御という。

 しかし、1台の気動車にエンジンとモーターという重い部品を載せるため非効率で、製造コストもかさむ。機関車ならともかく、気動車は機械の設置スペースに限界がある。当時の効率の悪いエンジンと直流モーターの組み合わせでは走行性能が低かった。直流モーターを高回転させるために必要な電力をまかなうためには、大きな発電用エンジンが必要だが、それを設置する場所がない。

 やがて、トルクコンバーターによる変速機が開発された。クルマでいうところのオートマチック変速機構だ。鉄道車両では液体式変速機という。これ以降、気動車に関しては液体式変速機が主流となり、電気式気動車は普及しなかった。

 ただし、機械設置スペースが大きい機関車については電気式の採用実績がある。しかし電気式気動車と同じく、当時のエンジンと直流モーターは非力で高価なため、液体式変速機を使ったディーゼル機関車が主流となった。この弱点を解決して、1992年にJR貨物が電気式ディーゼル機関車を採用する。ハイパワーの直噴エンジンと交流発電機、インバータ制御、三相交流モーターのおかげだ。

●ハイブリッド方式が後からできた

 JR東日本の電気式気動車も、考え方としてはJR貨物の機関車と同じだ。小型ながらハイパワーのエンジンと、インバータ制御、高性能三相交流モーターによって実現した。ただし、ここに至るまでにもう1つの段階を経る。ハイブリッド方式である。

 ハイブリッド方式の先駆けは自動車だ。トヨタ自動車の「プリウス」の成功で注目された。しかし、プリウスのハイブリッド方式とJR東日本の鉄道車両のハイブリッド方式は異なる。プリウスの場合はエンジンとモーターの力を両方とも車輪に伝えられる。その配分を電子制御と動力分割機構でコントロールする。これはスプリット方式ハイブリッドという。クルマにはもう1つ、パラレル式ハイブリッドがあって、これもエンジンの動力が車輪に伝わる。

 一方、鉄道車両のハイブリッド方式はエンジンを発電だけに使う。車輪を回す力はモーターだけ。つまり、モーターを高回転させるなど電力量を増やしたいときにエンジンの回転数を上げる。ここまでは電気式気動車と同じだ。ただし、バッテリーを搭載して、エンジンを止めてバッテリーの電力だけで走行可能だ。また、減速時に回生ブレーキを作動させ、モーターから電力を発生させてバッテリーに充電する。エンジンの発電とバッテリーの電力によるハイブリッドだ。この方式はシリーズ式といって、クルマでは日産自動車の「ノートe-POWER」で採用されている。

 JR東日本が開発した電気式気動車は、鉄道車両のハイブリッド方式から走行電力用のバッテリーを取り払った方式である。バッテリー電力を使った走行は不可。エンジンは常に回転してモーターへ電力を供給しなくてはいけない。電気をためられないから、回生ブレーキも使えない。従って、電力の効率的な再利用もできない。

 逆に言うと、電気式気動車の電力をもっと効率的に使うためにバッテリーと回生ブレーキを取り付けた方式がハイブリッド気動車とも言える。JR東日本の採用実績順では逆転したけれど、技術的には電気式気動車があって、その延長にハイブリッド気動車がある。

●なぜバッテリーを取り払ったか

 JR東日本はお得意の最先端ハイブリッド方式ではなく、一歩手前の電気式気動車を大量に投入し、次期非電化区間の主力とする。考えられる理由としては、ハイブリッド方式の長所よりも、バッテリー搭載の短所を取り除くことを重視したからだ。

 バッテリー搭載の最大の短所は、機構が複雑であること。エンジンとモーターを搭載するだけでも、既存の気動車より複雑である。ここにバッテリーを加え、回生ブレーキ機構を搭載すれば、さらに複雑になる。車両の生産コストも維持コストも大きくなる。投入先は赤字のローカル路線だ。走らせれば赤字という路線で、コストの大きな車両は投入できない。

 次に、バッテリーの重さだ。大容量バッテリーを搭載すれば、車体は重くなる。閑散線でガラガラの状態でも、バッテリーを運ぶためのエネルギーが必要になる。これが電力回生システムで節約できるエネルギーよりも大きいとなれば、バッテリーを外して車体を軽くした方がいい。

 バッテリー容量を小さくすればいいという問題でもない。電力回生ブレーキは、バッテリーが満充電になると作動しない。回生電力の行き場がなくなってしまうためだ。これを回生失効という。電車の場合は回生電力を架線に戻すから、他の電車の走行に使えるし、地上の充電装置にためておける。しかし、ハイブリッド車両は自分の内部で処理するしかない。回生失効を防ぐためにも、バッテリー容量は大きめにしたい。そうなるとますます重くなる。

 外部要因としては、JR東日本が地方線向けの車両を公募調達したからだとも考えられる。仕入れの透明性、公平性を重視するという会社の方針のもと、海外メーカーも含めて応募可能とした。ただし、ハイブリッド方式は制御が複雑で、開発と製造ができるメーカーは少ない。現段階では「幅広く公募調達」にならない。

 そこでJR東日本は、2017年度中に八戸線に投入する気動車については既存の気動車を採用した。既存車両の老朽化が進行し、電気式気動車の開発が間に合わなかった。そして、18年からの調達は、海外で実績のある電気式気動車となった。

 電気式気動車はハイブリッド方式より省エネ効果は少ない。しかし、既存の気動車よりメリットが大きい。モーター駆動のため、電車と同じ性能を期待できる。液体変速機が不要で、エンジン出力のロスが少ない。モーターは台車に組み込まれ、エンジンとモーターは電線で結ばれる。床下に設置したエンジンと車輪を直結するためのドライブシャフトが不要になる。機構が簡素化されることで故障の原因が減り、重量の削減にもつながる。

 今後、バッテリーの小型軽量化など技術が進めば、閑散路線向けにハイブリッド方式の車両が登場するだろう。JR東日本はハイブリッド方式を捨てたわけではない。現時点の閑散路線向けには不向きというだけだ。

(杉山淳一)