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実録アカウント乗っ取り、記者はこうしてダマされた

7/21(金) 10:01配信

デイリースポーツ

 まさか自分が、というのは振り込め詐欺などでよくある話。だが「まさか」はあるのだ。今回はそれを実感した。

 先日、いわゆるLINEの“乗っ取りに”に遭った。専門家ではないにせよ、PC関係は嫌いではないし、仕事柄、ネットにも明るいつもりでいた。実際の乗っ取り犯を返り討ちにしている強者のやり取りを披露しているウェブを面白く見たこともある。だから手口もちゃんとわかっていたはずなのに……。

【いまは、暇かい?】

 ある日の昼前。FaceBookのMessengerに、とある友人から問いかけが入った。いきなりのぶっきらぼう口調だが、親しい友人だったから許そうと思った。しかし相手をする暇は実際になかった。ちょうど〆切り間際の原稿と取っ組み合いをしていたからだ。

【いや、ちょっと仕事しているけど、なにか?】

 それでお引き取り願おうと思った。彼(友人は男性)が最近、カミさん関係でゴタゴタしているという話が脳裏を過ぎった。そういう話に今、つき合わされるのはたまらん。昼間とはいえ、彼は自営業。今、暇なら出てこないか? ビールでも。そんなことも言いそうなヤツだった。

 すると、友人は、

【携帯が変わったから、LINEをログインしないといけないから、メッセージの確認コード頼める?】

 と返してきた。こうして振り返ればあまりにも疑わしい。というより、乗っ取りのマニュアルそのままだ。

 ところが疑う前に、面倒くささが先に立ってしまった。と、同時に「あ、ビールに付き合わされなくて済むのか」という、不思議な安堵感も浮かんだ。要するに、【今は暇かい?】というメッセージと、彼の名前だけで、こちらが勝手に想像(妄想?)を働かせ、勝手なストーリーを作ってしまったのだ。

 言い訳といわれればそれまでだが、こうした勝手な妄想が、普段なら見向きもしないような“誘い”に、反応してしまうのではないか。振り込め詐欺もそうだし、街頭のアンケートにも……。ダメ押しは彼の名前だった。頻繁に会って呑む相手ではなかったが、とはいえ、「暇かい?」とメッセージが来ても怪しくない。そんな程度の距離感の間柄というのも、落とし穴だったように思う。でもそれは、あとで感じたことなのだが……。

【電話番号教えてくれる?】

【検証コードは送信したよ。メッセージの四桁コード見てFaceBook送信してくれ】

 ここまで来れば、乗っ取り以外の何者でもない。なのに応じてしまったのは、前述のように忙しく、早いとこ退散して戴きたい。そんな一方的な心情からだった。

 記者は電話番号と、そして普段なら絶対に他人に教えない、というより教える必要が有り得ない確認コードを「彼」に伝えてしまった。

【LINEのID教えてください!】

【無效】

 この二文字で、遅まきながら相手が友人でないことを実感した。とくに【無效】という中国漢字と思われる字体で。相手はビールを飲みたかっている友人ではなく、海の向こうの大陸の輩であったのだ。一瞬、記者の脳裏に中国の街中の、雑居ビルの一室で、PCに向かっている多くの若い男たちのシルエットが浮かんだ。

 すぐにLINEを開けてみた。不思議なことに、普通に使用できた。なんだ乗っ取られていないのか。

【LINEのID教えてください!】

【無效】

 そうか。無効。失敗したんだ。安堵は一日も持たなかった。

 その日はなにもなかったが、翌日の昼前から、携帯が鳴り続けた。ショートメールもひっきりなしに入ってくる。「ライン乗っ取られてますよ!」「なんか変なメール来たけど、本人?」

 20人、30人の対応をしただろうか。一日がそれで尽きた。詫び電話の合間に、LINEに被害報告を出し、対処を求めた。

 この間、犯人は記者のLINEの知り合い全員に「今、暇かい?」と問いかけ、反応した人に「コンビニに行ってBit Cash」を買ってきてと依頼しているはずだ。そしてうまいこと買わせたら、そのID番号を聞き出し、中国で現金化してせしめる。それにしてもまずMessengerを乗っ取り、そこからLINEの乗っ取りやなりすましを作り、とは手が込んだことだ。

 その日の夕方、LINE社から返答が来た。記者の場合は「乗っ取り」ではなく「なりすまし」であることがわかった。完全にアカウントを使用者から奪って乱用するのが「乗っ取り」。アカウントは乗っ取れなくても、携帯番号と名前、それとプロフィール写真の3つで新たに別のアカウントを作るのを「なりすまし」というらしい。そんな違い(あるいは手法の違い?)があることも、今回の災難で知った。

 それにしても。

 友人との距離感。最初に受け取ったこちらのタイミング。それらのいくつかがポンとはまったとき、案外、人は疑いつつも応じてしまう。つまり、犯人はこちらの気持ちが勝手に作ってしまうものでもある、ということは教訓だった。

 ご参考になれば。 

 追記。

 記者の知り合いから被害報告はなし。でも実際はわからない。ネットの海は、手が届かない闇でもあるから。そして数日後、ほぼまったく同じやり方で、Messengerで別の友人から問い合わせが来た。

【今、忙しい?】