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《高校野球群馬大会・白球の詩》優しさ抑え自ら鼓舞 大泉・藤本将弥投手

7/22(土) 6:03配信

上毛新聞

 初回から本塁打を浴びたが、背番号「3」のエースにひるむ様子はなかった。ゆっくりと帽子をかぶり直した183センチの長身に、周囲の励ます声が飛ぶ。対するは先発伊藤敦紀に二塁安里樹羅、復帰した遊撃湯浅大ら、全国に名の通る好選手が並ぶ健大高崎。そんな実績や戦力の差は、ゲームが始まってしまえば頭から消え去った。ただ勝利へ、ひたむきに腕を振った。

◎背番号「3」のエース

 右利きながら小学5年生から左腕投手の経験を積んだ。大泉では将来の主戦と期待され、2年生の春には公式戦マウンドを任された。秋は当然「1」を背負った。しかし秋、春の大会はいずれも初戦敗退。チームの話し合いで最後の夏は「3」と決まった。

 学童からの球友、右翼小矢野樹は、藤本の優しさが足かせになっていると感じていた。「高校で気持ちも強くなったけど、それでも勝ちきるには足りなかった」。ピンチに苦しい表情を見せ、押しきれない。どこが相手でも強気を貫く大泉では絶対のタブーだった。

 代わりに「1」を着けたのはバッテリーを組んでいた金井充主将。5月以降、練習試合で好投した。金井がマウンドに立ち、小泉輝晃がマスクをかぶる機会が増えた。

 昨秋の敗退後もマウンドから外れる時期があったから「結果を残せていない以上、夏は覚悟してた」。その上で、やる気を奮い立たせた。試合のたび、「もっと自信を持て」「弱気になるなよ」と声を掛けてくれた仲間たちがどれだけ期待していたか、さすがに身に染みた。

 「だったら『3』で勝たせてやる」。この夏、初戦は延長15回をほぼ一人で投げきり、次戦のサヨナラ勝ちでは歓喜のホームも踏んだ。もの静かで、妹にたたかれてもやり返したことがない。普段の姿と見違えるような闘志むき出しのプレーが、大泉を夏初めての4回戦に引っ張り上げた。

 だからこそ、優勝候補の健大にも対等のつもりで挑んだ。6点差の八回無死二、三塁。マウンド上で一塁金井が冗談を言い、捕手小泉がその肩をたたく。球威が落ち、もうカーブも決め球のスライダーも通じない。それでも仲間と笑い合った。金井にマウンドを譲る際も「悪い。任せた」。金井の激励で涙は引っ込めた。

 「今までなら、きっと自信なさげな顔をした。でもそんなしぐさを一度もしなかった」と森山弘監督は声を絞る。金井も「エースは最初からあいつしかいない。それはみんな分かっていた」。すべては一人の球児を奮起させるためだった。

 「気が付いたら自分から声を出していた。中心にならなきゃと、変われたんだと思う。悔いはないけど勝ちたかった」。激戦続きの夏を走り抜けた。ナインが望んだエースは、確かそこにいた。(田中暁)

上毛新聞社

最終更新:7/22(土) 6:03
上毛新聞

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