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【漢字トリビア】「浜」の成り立ち物語

7/23(日) 11:30配信

TOKYO FM+

「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今回の漢字は「浜」。海水浴に砂遊び、バーベキューに花火大会。夏の浜辺はにぎやかです。

「浜」という字の旧字体(濱)は、さんずいに「来賓」「主賓」の「賓(ヒン)」と書きます。
この文字を、金文の時代にまでさかのぼってひもとくと、建物の屋根を意味する「うかんむり」の下に、動物の後ろ足をあらわす形(「万」)を描き、その下に「貝」という文字が書かれています。
ここで示されている建物とは、祖先を祀る霊廟のこと。
その中に生贄となった動物の足、さらに宗教的儀礼で使う道具としての「貝」を供えて、神を迎えます。
さんずいは水をあらわす部首ですから、「浜」という字は海のほとり、浜辺で行う儀礼的な行為を意味しているのです。

かつて、いにしえの人々は天体の巡りと潮の満ち干きをよみ、海原の上空に群がる鳥たちの様子を眺めて漁に出る日を決めていました。
その上で、海の安全と豊漁を願う儀式をおごそかに行います。
浜辺にしつらえた祭壇に供え物を並べて、祝詞や神楽を奉納し、神さまを味方につけて、男たちを漁へと送り出してきたのです。
それは、今もなお日本各地の浜辺で見られる風景のひとつ。
年始に行われる鎌倉の「船おろし」や、東北・宮城の夏を彩る「塩釜みなと祭」など、切なる願いはあの頃と同じです。
さらに、漁に出ない日の人々は、貝や海草、植物を取り、衣食住のすべてを濱でまかなっていました。
そこには、広大な命の源に感謝を捧げながら営む、ささやかだけれど豊かな暮らしがあったのです。

ではここで、もう一度「浜」という字を感じてみてください。

文明の病・水俣病の犠牲になった海の民。
彼らの気高い魂の姿を描き続けてきた作家、石牟礼道子。
彼女は水俣の人々をこう、表現しています。
「広大な天地と海に育てられ、魚や鳥や草木ともの言いかわし、森羅万象を読み解き、ほとんど歌垣を思わせる声で日常会話をつむいで来た人たちである。」
浜がゆたかであったころの「魂の物語」を取り戻すため、彼らは今なお、戦い続けています。
いにしえの人々が神々と交わした約束を、思い出させてくれる浜辺。
その先に広がる「命の遠い源」へ、ほんのひととき、想いをはせてみたいものです。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。
その想いを受けとって、感じてみたら……、
ほら、今日一日が違って見えるはず。


*参考文献
『常用字解 第二版』(白川静/著 平凡社)
『渚 石牟礼道子 詩文コレクション 3』(石牟礼道子/著 吉増剛造/解説 藤原書店)

(TOKYO FM「感じて、漢字の世界」2017年7月22日放送より)

最終更新:7/23(日) 11:30
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