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俺がこんなにカワイイわけがない──誰でも“美少女に変身する”VR 「かわいさ」追求する男3人の挑戦

7/24(月) 7:10配信

ITmedia NEWS

 2017年5月、VR(仮想現実)の未来を感じさせる“新しい試み”がTwitterに投稿された。

【画像:VRで美少女になりきる男性】

 スマートフォンの画面に映るのは、ニッコリと笑いながらこちらに手を振る3Dアニメの美少女の姿。今では、3Dアニメのキャラクターが動くこと自体は特に珍しくはない。しかし、この動画には秘密が隠されている。

 ぱっちりとした大きな瞳、つややかなロングヘア、すらりとしたスタイル、かすかに紅潮した頬、快活さを感じるノースリーブの青いワンピースと、そこからすらりと伸びる細い腕──かわいらしい笑みを浮かべる美少女の正体は……男性だ。

 男性が、VRを使ってリアルタイムに美少女を“演じている”のだ。

 VRヘッドマウントディスプレイ(HMD)と専用コントローラーを使い、男性の表情や手の動きをリアルタイムに3Dキャラへ反映する仕組み。スマホ画面で見る限りは、まさか中身が男性だとは気付きようもない。老若男女関係なく、誰もがVRで美少女に変身し、なりきることができるのだ。

 この「誰でも美少女になれるVR」を開発したのは、VR/AR(拡張現実)ベンチャー企業のカバー(東京都・中央区)。16年6月に設立したばかりの若い会社だが、社員3人のうち2人が起業経験を持つベテランだ。

 「日本発のキャラクターで世界中を熱狂させたい」――その夢を実現させるため、カバーは3Dアニメキャラの配信プラットフォームを開発しているという。

●VR/AR、そして初音ミクとの出会い

 開発を始めたのは2015年。VRにハマり、開発者向けのVRヘッドセット「Oculus Rift DK2」を購入。もともと有名キャラを起用した家庭用ゲームなどを作っていた谷郷社長は、「VRでキャラを表現したい」と思っていたという。

 初音ミクの存在も大きかったという。さぞかし“みっくみく”にされていたのかと思いきや、「実は、ミクがはやっているときはそこまでハマっておらず、一歩引いた目で見ていたくらいです」と谷郷社長。「でも、落ち着いてよく見ると映像もいいし、音楽もいいなと。何よりユーザーが共創してコンテンツを作っているのがいい。そこから徐々にハマっていき、キャラ系プラットフォームを作りたいと思った」

 だが、美少女キャラの作成は一筋縄ではいかなかった。 「思うように動かすのが難しく、顔やスタイルも人様に見せられるレベルにするまで時間がかかった」と谷郷社長は振り返る。約2年をかけて細かいチューニングを繰り返し、「今、ようやくTwitterなどで皆さんにお披露目できるほどになった」と苦労を明かす。

●“第2の初音ミク”は生まれるか

 “誰でも美少女になれるVR”が目指すのは、「LINE LIVE」や「SHOWROOM」のように、生番組の配信者と視聴者が相互にコミュニケーションを取れるサービスだ。コメントや有料のバーチャルアイテムでの交流を考えているという。VRで配信し、VRもしくはARを活用したスマホアプリで視聴できるようにする予定だ。

 ほかのサービスと違うのは、画面に映る配信者が生身の人間ではないということ。「初音ミクのように、海外でも活躍するようなキャラがたくさん生まれる場になってほしい。今はVR/ARで3DCGに触れる機会も増えた。クリエイターさんの支援になれば」(谷郷社長)

 「将来的には、niconicoの『踊ってみた』『歌ってみた』『描いてみた』のように、いろんなキャラが自由にパフォーマンスするような場所になってほしい」(同)

 しかし、16年の国内VRヘッドセットの出荷台数は11万台程度。その7割以上はPlaystation VRで、VR配信ができる一般ユーザーはまだ多くない。まずは、既存の有名キャラや声優などと組んで、バーチャル音楽ライブをしたり、事前に録音したボイスをしゃべったりなど、キャラとユーザーとのコミュニケーションの可能性を探っているという。「実は女性向けに美男子キャラの開発も検討していて、こちらの方が需要はあるのではと思っている」(同)

 「課題は、開発陣におじさんしかいないこと」と、福田一行取締役CTOは冗談交じりに笑う。美少女キャラに命を吹き込む上で、女性的なしぐさやしゃべり方、“いい意味でのあざとさ”などは女性でないと出せないのだという。

 すでに完成されたように見える、先ほどの美少女キャラも、がに股、胴長など修正すべき部分はまだまだあるそうだ。「3Dアニメキャラはどうすればかわいくなるか、VR業界で日々ノウハウが共有されている」(福田CTO)

 「VRで3Dアニメキャラを表現するときは、目や口を大きくするなど、表情がはっきり分かるようにしないといけない。カメラに近づくため、手の形や動きも大事。視線も重要で、目を先に動かしてから顔を動かす、いったん下を向いてから横を向くなど、ちょっとしたしぐさにもこだわっている」(同)

●ひそかに続けた「美少女VR」開発

 今でこそ美少女キャラの開発に本腰で取り組んでいるカバーだが、設立当初は「VR卓球ゲーム」を作っていたという。ちなみに、その卓球ゲームには美少女は一切出てこない。そこにはやむにやまれぬ事情があった。

 「起業当初、いきなり『美少女キャラのVRを開発するぞ』と言って、投資を受ける自信がなかった」と谷郷社長は笑う。

 カバーが最初に開発したのは、VRを使ってオンライン対戦できる卓球ゲーム「PIN PON LEAGUE」(PC向けゲーム配信プラットフォーム「Steam」で公開。無料)。

 PIN PON LEAGUEは単なる卓球ゲームではなく、卓球場の空間を再現したようなゲーム。VR HMDと専用コントローラーでお互いのアバター(頭と手、ラケットのみ)をVR空間に登場させる。自分の立ち位置やスイングの速さなども感知するため、本当にその場で卓球をしているような感覚になる。

 「2020年に東京五輪が控えているし、日本は卓球が強いので、VRアミューズメント施設などでの需要があるのではと考えていた。しかし、『スポッチャ』のようなカジュアルスポーツ施設はすでにあるので、VRで代替するのは難しいなと」(谷郷社長)

 しかし「実はその裏で、ひそかに美少女キャラのVRも作っていた」という。「やはりキャラものを作りたいという気持ちが強く、やってみるとこちらの方が面白かった。今はVRスポーツゲーム開発はやめて、美少女VR開発に注力している」(同)

 かつて「投資を受ける自信がなかった」というアイデアだが、今では世界を見据えた大きな挑戦になった。アニメ「マクロスFRONTIER」が好きだという谷郷社長は、「2020年の東京五輪で、巨大なシェリル・ノームが空中で歌うような映像表現ができると面白い」と、VR/ARの可能性に思いをはせる。

 VRに魅せられた3人が開発する次世代の映像配信プラットフォームは、第2の初音ミクを世界に送り出せるか──。

最終更新:7/24(月) 7:10
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