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職場の“味見”は学生のうちに――「Wantedly People」Web版をほぼ1人で開発した東大院生のネオジョブホッピング体験記

7/25(火) 7:55配信

@IT

 「憧れの企業に入社してみたもののイメージと違っていた」という話は珍しくない。しかし、一度就職をしてしまうと、転職には大きな決断と相応のエネルギーが必要とされる。それに「すぐに転職する」=いわゆるジョブホッパーは、日本の転職市場ではまだまだ敬遠されがちだ。

リラックスしてプログラミングをする泉さん

 それならば、インターンシップを利用して、学生のうちにいろいろな企業を「味見」してみるのはどうだろうか?

 今回紹介する泉将之さん(24歳)は、学業と生活を両立するために複数のインターンシップを経験した。味見を意識したわけではないが、複数の企業で就業体験をすることで、結果的に自分に適した仕事・職場を見つけたそうだ。

 泉さんの就職までの道のりを知れば、学生のうちに企業の味見をしておくのも悪くない、むしろ身軽な学生のうちにこそさまざまな企業に体験入社しておくべきかもしれないと思えるはずだ。

 泉さんは現在、大学院の修士課程2年生。インターンシップで「ウォンテッドリー」に週3日のペースで出勤しており、来春、同社への入社が内定している。

 ウォンテッドリーは、ビジネスSNS「Wantedly」の運営、名刺管理アプリ「Wantedly People」、ビジネスチャット「Wantedly Chat」といった、今どきのビジネスシーンにフォーカスした人気アプリを提供している企業だ。居心地が良くて働きがいがある、泉さんにとっての理想的な企業だという。

 泉さんが同社でインターンシップするのは2度目。別の企業でもインターンシップで就業体験をして、舞い戻って来たのであった。

●ランキングを見て上位校を選んだ

 小学生のころから算数が好きだったという泉さん。小中学校時代は、父親が自作したPCに触れる機会もあった。しかし、早くからエンジニアという道を志したわけではなかった。

 中学卒業後は明石高専電気情報工学科へ進学。これも「情報工学科」だから選んだというわけではなかったという。

 「理数系科目が得意だったので、地元にある理数系で難易度ランキングの高い学校へ進学しようと思いました。調べてみたら、明石高専の情報工学科が確か上から2番目だったので、決めました」

 同校では専攻科まで進み、生体認証をテーマに、スマートフォンのPINコード入力の入力速度、間隔、押す位置などから本人であるかどうかを特定する研究を進めた。

 高専時代には「チームラボ」のインターンシップで、Ruby on RailsやPythonを使ったWeb開発を経験した。しかし、卒業後すぐに就職するつもりはなかった。

 明石高専情報工学科の卒業生の多くは、大阪大、岡山大、神戸大など、関西・近畿エリアの大学に進学する。しかし泉さんが選んだのは、東京大学大学院だった。ヒューマンコンピュータインタラクションという分野に興味を持ったのがきっかけだという。

 2015年4月、東京で泉さんの新たな生活が始まった。

●味見1社目、QiitaのRails利用上位企業

 大学院では「rkmt研究室」で、情報技術でスポーツやその他人間の活動を支援する研究を行っている。

 「Kinectのようなカメラでアスリートの動きをキャプチャーし、スポーツの入門者向けのトレーニングなどにフィードバックしたり、エンターテインメントの分野で利用したり、といったことを研究しています」

 泉さんがウォンテッドリーと出会ったのは、偶然に近い。

 「実家から仕送りをしてもらっていますが、それでは足りないので、上京してすぐに何かアルバイトをしようと思いました」

 高専時代のアルバイトやインターンシップでもRuby on Railsを駆使したWebアプリ開発を行っていたので、東京でもそうした技術を使って開発ができそうなところを探したという。

 「QiitaでRuby on Railsの利用上位を調べたら、1位はQiitaで、2位がウォンテッドリーでした。調べてみたらウォンテッドリーでインターンシップの募集を行っていたので、『話を聞きに行きたい』ボタンを押しました」

●東京での味見、2社目はベンチャー企業

 最初のインターンシップでは、社内SNSの改修や機能追加を担当。RubyやAngularJSを使って開発した。

 「デザイナーが出してきた仕様に合わせて実装していくのは初めての経験で、ビビりながらコードを書きました(笑)」

 その後、修士論文の準備などで大学院の研究が忙しくなり、業務が負担になり始めてきたため、約半年後にウォンテッドリーでのインターンシップを終了した。

 とはいえ、収入を断つわけにはいかなかったので、大学院近くの社員数3人のベンチャー企業のインターンシップで働くことにした。こちらの企業では、IoT系のiOS/Androidアプリの開発を行った。技術選定もやらせてもらえたという。

 卒業間近になったので、ここでのインターンシップも終了し、後は研究の仕上げにかかれば良いはずだった。ところが、思わぬ事態に……。

 単位が足りなくて修士課程を修了できず、もう1年学生生活を続けることになってしまったのだ。

 学生生活を続けるためにはお金が必要だ。「何か仕事ない?」と、Twitterに書き込んだところ、ウォンテッドリーのCTOから声がかかった。

●味見の“おかわり”で「Wantedly People」PC版を開発する

 再び、ウォンテッドリーに舞い戻った泉さん。2度目のインターンシップでは、同社の名刺管理アプリ「Wantedly People」PC版の開発を担当することになった。

 「Wantedly People」は、既にスマートフォン版がリリースされていたが、PC版は開発未着手だった。しかし泉さんが戻ってきたので「開発をスタートさせよう」ということになった。2017年1月のことである。

 4月までは、ほぼ1人でPC版の開発を進めた。とはいえ、ほったらかしということではない。同社のインターンシップはメンター制が敷かれており、泉さんのメンターには、元Googleの経験豊富な先輩エンジニアが付いてくれた。

 だからこそ、泉さんに自由にやらせてくれたのである。また、画面デザインは、同社のデザイナーが基本的なデザインを先に仕上げてくれていた。

 「スマートフォン版が先にあったので、そこからどの機能を採用し、どの機能を割愛していくかなどを考えながら実装していきました」

 前回の社内SNSにはAngularJSを使ったが、今回の開発にはFacebookが提供しているJavaScriptライブラリであるReact.jsを使った。これを決めたのも泉さんだという。

 開発終盤の4月には、それまでアルバイトだったスタッフ1人が社員として入社し、PC版の開発プロジェクトに加わった。

 4月下旬、晴れてPC版リリースの日を迎えた。

 「リリース後1~2週間は、ユーザーからの評判を見聞きするのが怖くて、『Twitter』や『はてブ』を見られませんでした」

●味見をして、本当に望んでいることが分かった

 リリースが終わって運用フェーズに入ったある日、人事担当者から呼び出されたので部屋についていくと、新卒採用の最終面接がセッティングされていたという。

 高専時代から複数社で味見=就業体験をしてきた泉さんが、ウォンテッドリーに入社を決めた理由は何だったのだろうか?

 「本当にいろいろなことをやらせてくれたのがウォンテッドリーでした。周囲が優秀な人たちばかりなのも、良い刺激になります。もっとここで働きたいと思ったのが決め手です」

 居心地の良さもポイントだった。

 同社のオフィスは土足禁止。全員、靴を脱いでリラックスして働いている。オフィス内もデスクだけでなく、ソファやカウチ、カウンターとスツールなどが設置されており、自室にいるようにくつろいで働けるよう配慮されている。

 同社では、在宅ワークやノマドワークのようなリモート環境での仕事を推奨していない。というのも、人と人とが顔を突き合わせて仕事を進める場にこそイノベーションが生まれるという考え方が根底にあるからだ。

 こうした考え方を持つのは同社だけではない。近年では大手ネット企業やSIerなども、イノベーション創出のためのスペースを自社内に設けるケースが増えている。

 同社の取り組みは、まさにIT業界の新しい動きといえるだろう。

 実際に働いてみなければ分からない「企業風土」や「同僚の力量」、それらを知るためには、実際に働いてみるに越したことはない。

 しかし、一度就職してしまうと、そうそう身軽に転職を繰り返すことはできない。だからこそ、学生時代のうちに、いろいろな会社を味見できる「インターンシップ」が有効なのだ。

 「転職のリスクを負わずにいろいろな企業を体験して、スキルアップしたりコードを見せてもらえたりするのは学生ならではの特権」と泉さんが表現する「インターンシップ」は、新型のジョブホッピング=「ネオジョブホッピング」かもしれない。

●次回も、トップエンジニアに就活のアドバイスを聞く

 本連載では、今後もIT企業の最前線で活躍するトップエンジニアに、学生時代に行った就職活動の内容や、これから就職活動を行う学生へのアドバイスを聞いていく。ぜひお楽しみに。

最終更新:7/25(火) 7:55
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