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「テレワーク・デイ」に「働き方改革」のおいしいところを考える

7/25(火) 7:10配信

ITmedia エンタープライズ

 2017年7月24日、日本でも初めて官民一体となった「テレワーク・デイ」が実施された。

【7月24日のレノボ・秋葉原オフィスの様子。まさにもぬけの殻だ】

 そもそも、テレワーク・デイの見本となったのは、2012年に開催されたイギリスのロンドンオリンピック・パラリンピック競技大会だ。ロンドン市内の移動がスムーズに行えるよう、市内の企業の約8割が在宅勤務を中心としたテレワークを導入し、交通混雑が緩和した成功事例に習うもので、厚生労働省や総務省、内閣府、経済界などが国民運動プロジェクトとして働きかけていた。

 東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開会式が行われる2020年7月24日を目指し、2017年から取り組みが始まった形だ。テレワーク推進フォーラムのWebページでの参加団体は最終的に927に上り、筆者が確認した7月3日の476からほぼ倍の団体が参加表明したことになる。

 このような流れを、識者はどのように見ているのだろうか。

 政府が実施した「働き方改革実現会議」のメンバーで少子化ジャーナリストの白河桃子氏と、テレワークの推進を進めてきたテレワークマネジメント 代表取締役 田澤由利氏が、テレワーク・デイ特別企画「『働き方改革』と『テレワーク』ぶっちゃけ語り合います。」と題して、YouTubeなどでライブ配信を行った。

 白河氏は「テレワーク自体は昔から取り組まれてきたが、なかなか全国的に普及するきっかけがなかった。今回は政府が腰を上げた格好で、ワークライフバランスやダイバーシティなど、さまざまな人が10年、20年と働きかけを続けてきたことが、やっと形になりつつあるのが今だ。社長が引責辞任をした電通の事件もあり、残業を減らすのが働き方改革にひも付けされているが、それはあくまできっかけにしかすぎない」と説明する。

 田澤氏は「テレワークは働き方改革の中核になると思っていたのに、働き方改革実現会議では1つのテーマに過ぎなかったのが残念」と切り出すと、白川氏は「働き方改革実現会議は法律を作るために行われたもので、いろいろな検討要素が必要だ。テレワークはガイドラインがあるものの、かなり古くなっている。実際、会議のメンバーでテレワークを体験している人がおらず、霞ヶ関は紙ベースの文化が当たり前で、ピンとこないのが現状だ」と述べた。

 「長時間残業が経営者の意識に上ったのは、残業規制で労働時間に限りがあるのが顕在化したことにある。働き方改革は、人口が増え続け、労働時間も山ほどあり、遵法意識も低かった昔からの働き方を変えるものだ」(白河氏)

●実労働時間の把握が肝要

 労働時間が限られることで、時間あたりの生産性向上が叫ばれているが、何からスタートすればいいのだろうか。

 白河氏は、「みなさんが生産性向上って唱えているけど、業務効率向上とは本来違うものだ。日本の人口はこれから減る一方なので、生産性を上げるしかないが、個々人が頑張るだけではなく、新しいサービスなどを作る必要がある。ところが、今は後者の業務効率向上ばかりが目立っており、会議の見直しや無駄な残業削減、上司や仲間とのコミュニケーションをきちんとやっていれば解決できる内容が多い」と指摘する。

 「働き方改革では、今、富士山の何合目にいるのか進ちょくを把握できない人が多いと感じている。違法な工夫は論外だが、きちんと仕事が終わるにはどうするのかを考えるのが重要で、IT業界は今がチャンスだ。アクション内容を決めたら、それに適した仕組みやツールを導入しないと意味がなく、業務改善効率にはITが貢献できる機会が非常に多い」(白河氏)

 働き方改革のキモは、取り組むことで「ここを変えなければならない」という部分が見えてくることにあると田澤氏は言う。

 「これからの日本は、“ワンオペ稼ぎ”から“チーム稼ぎ”にならないといけない。これまでの人口ボーナス期はみんなが一律に働いていたが、今後の人口オーナス期は多様な働き方で、仕事の量ではなく質が問われ、会社から言われたことをやるのではなく、各人が自立することが求められるようになる。指示待ち社員はテレワークに合わない」(白河氏)

 田澤氏は、以前からテレワークで時間管理は重要なポイントで、時間を意識して働かないといけないと主張している。白河氏は「徐々にではあるが、好きで働いても成果が出なければ、賃金に結びつかなくなってきている。当たり前のことかもしれないが、逆に働き過ぎで倒れてしまっては意味がない。例えば、メールの確認などは今や常時接続なのでスマホなどで簡単にできてしまうし、ちょっとしたことで働き過ぎになってしまう。メールが『つながらない権利』など労働時間の上限を決める、上限規制が必要になる。事実、フランスではメールのつながらない権利の法制化を検討中で、日本でもジョンソン・エンド・ジョンソンのように時間を決めてメールを自粛するような導入事例もある。厚生労働省の新しいガイドラインでは、実労働時間を区切るようにして実労働時間の把握義務を推奨している」と解説する。

●「働き方改革」の“おいしいところ”とは

 白河氏が興味深い指摘をした。

 「働き方改革を進めるうちに見えてくるものがある。それは、ギスギスとしていた職場が解消されるといった、目に見えない変化だ。Googleは従業員が気持ちよく働けるようにほぼ完全ともいえる環境があるのに、チーム実績にばらつきがあった。調べたところ、安心して働けると感じられるチームは成績がいいことが分かった。小さい声が受け入れられるチームが一番生産性も高く、関係性がよくなる職場が働き方改革でハッピーになるという発表もあった」(白河氏)

 白河氏は「今や仕事の量ではなく質が問われている、リレーションシップがこれからは重要になる。目に見えないところがよくなるのは、働き方改革のおいしいところなのではないか」とし、「今後は成果を測れるマネジメントが重要で、働き方改革は実はマネジメント改革が求められているといっても過言ではない。最終的には、評価と報酬を変えていく必要がある」と主張し、田澤氏も「これからマネジメントが大変になる。働き方改革がきっかけで、イノベーションが起き、ビジネスチャンスが増えていくのでは」とまとめた。

 今回実施されたテレワーク・デイは、まだ初回だが、テレワークの生い立ちは古く、すでに規模の大小を問わず、さまざまな企業が行っている。今回訪れたレノボ・ジャパン(以下、レノボ)でも、7月24日に「第3回全社テレワーク・デイ」を実施した。同社は2005年の創立時からテレワークを導入しており(当時は上限が週1回)、回数無制限のテレワークも、2015年にテスト導入、2016年4月には本格導入した。

 第3回となる全社テレワーク・デイでは、東京・秋葉原のオフィスに勤務している正社員と派遣社員の合計約800人が参加し、当日のオフィスはまさに“もぬけの殻”という表現がぴったりと当てはまる状態だった。

 レノボでは、テレワークを活用することで、下記のような事業の活性化を期待しているという(レノボ・ジャパン 人事担当執行役員/NECパーソナルコンピュータ 人事担当執行役員常務 上南順生氏)。

・育児や介護などワークライフバランスの改善
・従業員の居場所を問わない安否確認
・積極的な外部交流で事業の活性化(攻めのテレワーク)

 特に2017年度は、テレワークを活用することで介護離職や単身赴任の解消に向けた施策として、「介護離職者ゼロ宣言」と「ふるさと人事」を始めている。

 同社では介護世代と規定する40代以上の社員割合が77%と高く(平均年齢は男性が46.6歳、女性が42.7歳)、高齢化社会が進む中で、優秀な社員を確保するべくテレワークを活用している。勤務場所や時間を柔軟性に持たせることで、介護や子供の看護、出産、育児といった、ライフステージに合わせた柔軟な働き方を提供しており、個別の家庭事情を考慮して職場と人事が協調して進めているという。

 一方のふるさと人事は、同社の単身赴任者ほぼ全員が40代以上の介護世代に属し、うち22人が5年以上も単身赴任が続いている現状課題の解消を目指して導入された。単身赴任の解消ができなくても、月に1~2週間のふるさと勤務をテレワークで対応、あるいは移住もできないかなど多様な勤務形態を検討して実施したところ、社員や家族の満足度や健康面の改善、介護理由の離職を防止できたとして成果を報告した。

 同社では、旧来のIBM時代からテレワークに対する下地があり、テレワークの導入に伴って人事制度や評価制度を変えたことはなく、人事からガイドラインを提供した程度にとどまっているという。

 また、「テレワークにとまどったり、ネガティブだったりする人が管理職の人にまま見られる。しかし、チームメンバーの様子は見ているが、実際に仕事内容まで踏み込んで状況を把握しているケースは少なく、思い込みが多かった。実際にテレワークを行うと上司に日々の進ちょく報告や相談が上がるようになるので、そういった気付きを得られるのが全社でテレワークを実施するメリットだ。場所や時間ではなく、どこにいても社員同士がつながって、ともに仕事を作り上げていくという意識や気持ちを大事にしている」と上南氏はテレワークのポイントを指摘した。