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市民アスリート集団が開発する健康サービスの“ホンキ度”

7/25(火) 7:29配信

ITmedia ビジネスオンライン

 「外で打ち合わせが終わると、『じゃあ』と言って、全員が、自分の家の方向に向かって走り出すのが普通ですね」――。

【平塚潤氏の「サブスリー塾」】

 健康関連サービスなどを提供する東証1部上場企業、ネオスでヘルスケアサービス部の秋元直樹マネジャーは、日常の様子をこんな風に語る。

 同じ部に所属する古田恵一シニアマネジャーは、「昨日の帰りは、会社を出た後、皇居を2周してから、自宅まで走って帰りました。月300キロメートルは走っていますよ」と何事もなく言い放つ。

 同社ヘルスケアサービス部には、12人の社員が所属する。ほぼ全員が、マラソンをはじめ、何かしらのスポーツを日常的に楽しんでいる。部長の星野克茂氏に至っては、世界的にも過酷なレースと言われる「サハラ砂漠マラソン」に参加。2016年4月には、7日間に渡って250キロの砂漠のコースを完走してみせた。カニのかぶり物を頭にかぶって、周囲とコミュニケーションしながら走破する姿は、「世界のカニさん」として一部で有名だ。

 そうした市民アスリートたちで構成される、ネオスのヘルスケアサービス部が、数々のヘルスケアサービスを生み出している。統合健康サービス「KaradaManager」、活動量・歩数計測アプリ「Renobody」、ラーニングコミュニティー「サブスリー塾」などだ。コンシューマー向けのサービスとして同社が自ら提供するだけでなく、法人向けサービスとして、十数社にカスタマイズした形で供給している。

 これらのサービスの創出には、市民アスリートだからこその視点と、チームの共通認識とこだわりがベースにありそうだ。

●80万人が活用するダイエット・健康管理サービス

 ネオスは、通信キャリアやスマホメーカー、サービス事業者に対して、モバイルに関する技術やコンテンツを総合的に提供する「スマートプラットフォーム事業」、法人企業のリアルビジネスをインターネットやモバイルサービスを通じサポートする「コーポレートサービス事業」で構成。それぞれを自社製品やサービスとして提供するプロダクト&サービス事業と、技術やノウハウをカスタマイズして提供するソリューション事業という縦串で展開している。東証1部に上場しており、グループ連結で245人の従業員規模だ。

 同社が08年11月から提供しているのが、KaradaManagerである。元々はau向けサービスとして、KDDIと共同開発したものだったが、その後、各キャリア向けにもサービスを提供。今では国内最大規模のダイエット・健康管理サービスとして、約80万人が利用している。

 最大の特徴は、どんな人にも最適化したサービスを提供する点にこだわっていることだ。問診やクイズによって、ユーザーのライフスタイルや性格を把握し、それぞれのユーザーに合わせた健康情報の配信と、記録方法を選択でき、個別ニーズに応じたトレーナーによるプログラムの配信を行うことができる。

 「ストイックにダイエットを行いたい人は『本格ダイエットモード』を利用して、記録するのが面倒で、レコーディングが手間だと感じる人には、『らくらくダイエットモード』を利用してもらうようにしている。多くのコンテンツを用意して、どんな人にも、健康管理やダイエットが続けられたり、楽しんでもらえたりするような仕組み作りを目指した」(星野部長)という。

 KaradaManagerでは、レコーディングダイエットの手法を取り入れており、ボディ記録や運動記録、休養記録が可能だ。ズボラな人には、細かい記録を求めるのではなく、最低限の記録だけで済むようにしている。また、10万種類を超えるフードを選択方式で記録可能で、コンビニエンスストアで発売される弁当やファストフード店で発売される新メニューも、月1回のペースで更新されている。

 さらに、健康診断アドバイザーやヘルシーレシピの提案、健康コラムなどの健康支援サービスも提供しており、これもコンテンツを充実する取り組みの1つと言える。

 また、女性向けには「KaradaManager for Women」を提供。女性の健康をテーマにしたサービスだけでなく、女子力アップのアドバイスやお悩み相談室などのコンテンツを用意している。

 一方で、KaradaManagerは、法人向けにも提供されている。これまでに、食品メーカーや保険会社、通信会社などがKaradaManagerの機能を使ったサービスを行っている。消費財メーカーの花王が運営している「内臓脂肪ラボ」もその1つだ。内臓脂肪の測定結果から、健康リスクを示したり、個人ごとにお勧めの生活改善アドバイスを紹介したりする。健康リスクシミュレーションや職場での内臓脂肪ランキングといったユニークなコンテンツも提供しているという。

 そのほか、ウェアラブルデバイス「Fitbit」の公式アプリにも、KaradaManagerで使用しているフード記録情報を基にした日本語食事データベースを提供。東京海上日動とパルシステムとの連携では、女性向けヘルスケアサービス「カラダ日和」を提供している。カラダ日和では、健康状態が不安なときに、電話やメールで相談したり、病気になってしまった場合には保険の仕組みを活用したりといったリアルのサービスと連動させながら、健康をサポートしている。

●歩けば歩くだけ電子マネーが貯まる

 もう1つ、同社のヘルスケアサービスで人気を博しているのが、健康管理やダイエットをサポートする活動量・歩数計測アプリ「Renobody」である。

 順天堂大学大学院 スポーツ健康科学研究科の柳谷登志雄先任准教授が監修するアプリで、目標体重と期間を入力してゴールを決定すると、1日に必要な活動量を算出。後は目標達成に向けて歩くだけだ。歩数に応じて、消費カロリーや活動時間、歩いた距離を更新。体重を記録することで、ダイエットの進ちょくが確認できる。現在、約20万人が利用している。

 Fitbitやオムロンヘルスケアなどの各種ヘルスケアデバイスや、スマートフォンに内蔵した歩数センサーのほか、Apple「ヘルスケア」、「Google Fit」などのアプリとも連動して、データを収集するマルチデバイス連携を実現。手軽に歩数管理できるのが特徴だ。

 イオンとの連携により、電子マネー「WAON POINT」と連携。1日8000歩歩くと、1WAON POINTを付与するサービスも提供している。

 「手持ちのスマホで計測したデータを活用できる手軽さもあり、ポイント獲得を目的に積極的に歩き始めた人も多い。結果として、ポイントを貯めながら、健康につなげるといった提案ができる」(星野部長)とする。

 そのほか、モチベーションを維持するために、活動状況の経過をグラフで表示するといった機能を持つデイリーフィードバック、週間アドバイスと評価を行うウイークリーレポート、ダイエット計画の目標への到達度について評価する減量シミュレーション、毎日変化する著名人の格言の表示により、やる気を後押しするなどの仕組みも用意している。

 さらに、Renobodyを活用して、企業や団体などが手軽にウォーキングイベントを開催できるサービスを新たに開始。歩数を基にした個人対戦やグループ対戦をサポートすることで、商品やサービスのキャンペーンとの連動、企業における健康増進施策の1つに活用することができるという。

 「オープンイベントとしても、クローズドイベントとしても利用できる仕組みであり、低価格で利用できるサービスとして提供する。健康を切り口に、キャンペーンなどを実施できるものになる」(星野部長)とする。

 ここでは、歩くことで病気予防評価や管理が行えるシステム「N-system」と連携するRenobodyの特徴を生かし、利用者の歩数と中強度活動データを組み合わせ、より分かりやすい健康管理へとつなげる提案も行う。

 N-systemは、東京都健康長寿医療センター研究所の青桝幸利博士が、群馬県中之条市の高齢者5000人を対象に実施し、歩行と健康の関係性を明確にした中之条研究を可視化。活動の質と量から、病気予防度評価を100点満点で表示。身体活動に基づいて、20項目の病気、病態に対する予防率を表示できる。

 「企業の健康管理者は、疾病ごとのリスクや対象者数を把握し、分析が可能であることから、社内イベントの継続によって、うつ病リスク者が減少したことなどが確認でき、医療費削減効果などのメリットなどを明確に示すことができる」(星野部長)

 新サービスは、キャンペーンやイベントとの連動や、組織まるごとの健康増進への取り組みが可能になるため、Renobodyの新たな活用方法として、今後、注目を集めそうだ。

●大学駅伝監督のメソッドも

 ネオスの特徴は、サービス提供をデジタルだけに頼らないという点だ。その最たるものが、ラーニングコミュニティーへの取り組みである。

 ラーニングコミュニティーは、「1人では継続が難しい」「1人では実現が困難」と言われるダイエットや健康管理、トレーニングに、ヘルスコーチングによるコミュニケーションをベースとしたサポートを組み合わせたもので、ネットを通じて、1グループ8~10人のコミュニティーを形成。「人を感じる、人が寄り添うサービスという切り口を加えることで、継続率のアップを支援して効果の最大化へ導き、参加者の夢を叶えたい」と星野部長は力を込める。

 食生活のコントロールにより、脂肪を燃やし、ベストコンディションを目指す「時間割ダイエット講座」、代謝アップやメリハリボディを作るためのエクササイズ方法が習得できる「女子の体幹プログラム・オンライン」、フルマラソンでのサブスリー達成を目指す「サブスリー塾」を用意している。

 特にサブスリー塾は、マラソンランナーの平塚潤氏と連携して、同氏監修によるランニングメソッドを活用した、市民アスリート向けの本格的トレーニングンリキュラムとなっている。平塚氏は城西大学で駅伝監督を務め、フルマラソンのベスト記録は2時間10分50秒。世界陸上の1万メートル日本代表に選ばれたこともある。現在、44歳、46歳、47歳の年代別フルマラソン日本記録保持者でもあるのだ。

 「サブスリー」とは、フルマラソンで3時間を切ってゴールすることを指す。市民ランナーの3%しかいないと言われている。星野部長もサブスリーを達成した1人で、サブスリー塾を運営側として支えている。

●すべてのユーザーの目標を達成したい

 ダイエットや健康管理は、継続することが難しい。そうした中、ネオスの各種ヘルスケアサービスでは、ダイエットや健康管理に取り組む人たちが、継続できるよう工夫しているのは、これまで紹介した例からも明らかだろう。

 こうした継続へのこだわりと、それを支援するための仕組み作りには、市民アスリートとしての自らの体験が生きている。フルマラソンやウルトラマラソン、あるいはトライアスロンに参加しているヘルスケアサービス部のメンバーは、沿道からの声援が、踏ん張りにつながることを、身を持って体験している。だからこそ、応援するため仕掛けを随所に用意している。

 東京マラソンでの4回の完走をはじめ、防府読売マラソン、五島長崎国際トライアスロンなどでの完走経験がある秋元マネジャーは、「沿道からの声援が完走に向けた励みになるのは明らか」と前置きしながら、「2017年の東京マラソンのコース変更は、最後の踏ん張りのところでも声援をもらえるようになり、それが力になる」と笑う。

 古田シニアマネジャーは、「ウルトラマラソンでは、ゼッケンの情報を基に、『東京から参加の古田さん、がんばってください』と自分の名前を呼びながら声援をしてくれる。これには大きな力をもらえる」と語る。

 カニのかぶり物がトレードマークの星野部長も、「カニのかぶり物をしていると、ほかのランナーよりも、多くの声援をもらえる」と、ハンデではなく、むしろプラス効果に働くと捉えている。周りのサポートが、継続や踏ん張りには大切なことを自らが経験しているというわけだ。

 さらにこんな話もそれぞれの口から出る。

 秋元マネジャーは、「07年にジョギングを始めたときには、1キロも走れなかった。だが、少しずつ走れるようになり、08年2月の東京マラソンでは完走できた。この間、体重が10キログラム落ち、身体が思い通りに動くようになったことが心地良かった。それが今の継続につながっている」と話せば、古田シニアマネジャーは、「走ろうと決意し、ジョギングシューズを買うまでに半年。さらに、買ってから走り出すまでに3カ月。それから、ようやく走り始めた。走り出すまでには踏み出せない期間が長かった。また、走り出して3カ月はそれほど変化が体感できない。その期間は苦しいが、そこから先は自分の身体が変わりはじめた。どこまで、どう頑張ればいいのか。それを、自らの体験を基に多くの人に伝えたい」と意気込む。

 「KaradaManagerのすべの利用者が、自らの目標を達成できるようにしたい。それが我々の目標になる」と星野部長も強調する。

●市民アスリートならではの共通認識

 今後、同社のヘルスケアサービスはどのように発展するのだろうか。

 秋元マネジャーは、「ラーニングコミュニティーによる支援をもっと充実していきたい。一人ではなかなか続かないのが、ダイエットや健康管理。多くの人が挫折をせずに継続できるようにサポートしたい」と考える。

 古田シニアマネジャーは、「ランナーが利用するデバイス側からの充実も視野に入れたい」とし、ランニングウォッチとしてランナーから高い評価を得ているGARMIN(ガーミン)のサロマ湖100キロメートルウルトラマラソン専用ウォッチフェースを開発。エントリー締切日やレース開始日をカウントダウン表示する機能を提供するといった取り組みも開始している。また、ガーミンを通じて、自宅の金魚にえさを与えられる装置の実験に取り組むなど、発想もユニークだ。

 KaradaManagerそのものの機能の充実に加えて、こうした周辺サービスの強化も、利用者のダイエットおよび健康管理の継続率向上につながると言えよう。

 「自らがマラソンなどの体験を通じて、継続性の大切さと難しさを熟知しているだけに、そこへのこだわりは、他の部門と比べても徹底している。しかも、それが組織全員の共通認識となっている。だからこそ、わざわざ口にしなくても、利用者の継続性を重視したサービス作りに全員がベクトルを合わせることができる」と星野部長は胸を張る。

 これもヘルスケアサービス部のメンバー全員が、市民アスリートで構成される組織だからこその共通認識だと言えるだろう。

 「ヘルスケアサービスそのものも長年の経験と蓄積が必要であり、その点では、KaradaManagerをはじめ当社のサービスは先行している。だが、今後、人工知能(AI)をどう活用していくのか、あるいはスマホを活用したサービスの次には、どんなデバイスとの連携が必要なのか、そこでどんなサービスが提供できるのかということを考えれば、まだまだ先は長い。マラソンに例えれば、まだ走り出す前のウォーミングアップの段階に過ぎない」(星野部長)

 「もはや、先頭集団の一角」という言葉を期待していたが、星野部長はまだ走り出す前の状況であるという。正直驚いた。だが、そこにすべての人がダイエットや健康管理を継続でき、100パーセントの人が目標を達成できるサービスに挑むという強い意思が込められていることを感じた。

(大河原克行)