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【千葉魂】「一丸となって、貪欲にやろう」 伊東マリーンズ、巻き返しへ

7/25(火) 10:52配信

千葉日報オンライン

 オールスターが終わり後半戦を翌日に控えた7月16日。練習を終えた直後のことだった。監督室のドアをノックする音がした。入ってきたのはチームスタッフたち。しかも一人、二人ではなく1軍に帯同している全員だった。「ちょっとお話がありまして」。突然の訪問に伊東勤監督は驚いた様子で招き入れた。全員が入室したのを確認すると一人のスタッフがスッと隠し持っていたものを差し出した。それは銀色に光るミット。ナゴヤドームでのオールスターゲームで指揮官が野球殿堂入りを表彰されたのを受けてのサプライズプレゼントだった。

 「最初はなんだろうと思った。ビックリしたよ。そしてうれしかった。前半戦は心が沈んでいることも多かったけど、なにか心が洗われた気分だった。オレは一人じゃない。ファン、選手、裏方さん、みんなで戦っている。誰もが心が折れそうになる前半戦だったけど、オレたちの野球は全員野球。束になって戦っていることをもう一度、痛感させられた」

 そしてうれしそうにマジマジとミットを眺めた。ふと疑問に思ったことをスタッフに聞いた。「なんで銀なんだ?」。返ってきた答えにまたうれしさがこみ上げてきた。「最初は金も考えました。でも監督は現役時代に11度、ゴールデングラブ賞に輝いている。金色のミットはもうすでに沢山持っているだろうなあと思いまして」。その細かい心配りが心に響いた。そしてこのプレゼントは野球殿堂入りが発表された1月下旬からスタッフの間で話し合われ、準備が水面下で進められていたことを知り、さらに深く感謝した。

 「全然気が付かなかったよ。このミットはオレが現役時代に使っていたスポーツメーカーさんで作られたものだけど、そのメーカーの人もなにも言っていなかった。やられたなあ」

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 練習前には改めて全員一丸を強調していた。選手たちが集まっていた一塁側ファウルゾーンから、あえてセンター付近に移動を促し、球場全体が見渡せるところで訓示を行った。当初、訓示は予定されていなかったが後半戦前日に、やはりみんなに想いを伝えたいと思った。

 「前半戦はオレがみんなをうまく導いてあげることができなかった。本当に申し訳なく思っている。すべては自分の責任。後半戦はこんな状態の中、声をからして応援していただいているファンのために一丸となって貪欲にやっていこう。一日一日を悔いのないようにきょうやれることをやろう。応援してくれている多くの人に応えるのがプロ。それができなければプロじゃない。前半戦はこれだけ負けた。その屈辱を忘れずに戦っていこう」

 炎天下の中、熱く強く想いの丈を伝えた。そして迎えた後半戦。初戦となった17日のバファローズ戦(ZOZOマリンスタジアム)。1点ビハインドの劣勢の中、最終回に加藤翔平外野手が逆転サヨナラ打を放った。最後は粘り強くつないで逆転勝利をもぎとった。誰もが勝利を信じ、ベンチにいる選手も大声を上げて打席にいる仲間に声を届けた。指揮官は勝利よりもそのチームの姿勢がうれしかった。

 「翔平がよく追い込まれてから、粘って打ってくれた」

 サヨナラのヒーローの加藤が仲間たちと抱擁する姿に指揮官はある日のことを思い出した。加藤をスタメン起用しながら無安打に終わった試合の翌日。スタメンから外しベンチスタートを命じた。試合中、周囲に誰もいないところを見計らって隣に座った。そして語り掛けた。

 「なあ、翔平。去年、結婚をして家族ができた。守るべきものができたよな。それで昨日みたいに打席で同じようなことをやっていてはダメだぞ。もっと貪欲に考えないと。このままだと終わってしまう。終わってから後悔しても遅いぞ。プロはそういう世界だ。オマエは野球で家族を喜ばせてあげないとダメなんだぞ」

 加藤は黙ったまま聞いていた。すると突然、大粒の涙がこぼれ落ちてきた。試合中のベンチで目にしたその涙に指揮官は、想いはちゃんと伝わったと感じた。だからその次の回の守備から出場を命じた。涙した自分の心に対して、プレーで応えるのがプロ。もう一つのメッセージを送った。

 「ベンチでボロボロと涙を流してね。まるでオレが泣かしているみたいだった。でも、その涙の中に込められた気持ちは大切。普段はあまり感情を出さないタイプだけど、内に秘めた思いと、なんとかしたいという熱いものを感じた」

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 その後、加藤は昨年首位打者を獲得したチームメートである角中勝也外野手の打撃を参考にしたフォームに取り組むなど自己改革を繰り返した。そしてマリーンズ後半戦最初のゲームでヒーローになってみせた。伊東監督は7月23日のホークス戦(ヤフオク)で史上23人目となる監督通算600勝を達成した。

 つらく悔しく悲しいことが多かった2017年前半戦のマリーンズ。しかしその中で伊東マリーンズは、もがきながらも一致団結し光を見出そうとしている。熱く、泥臭く、束になって、どんな状況下でも限界と思わずに突き進むのがマリーンズ。らしさを少しずつ取り戻しながら、ただ、ただ、前に突き進む。

(千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)