ここから本文です

ネコ飼育の始まりは農耕化によるネズミ駆除目的?イエネコ起源の謎(中)

7/27(木) 17:01配信

THE PAGE

 わたしたちホモ・サピエンスの種が初めて現れたのは、およそ20万年前。その後、いつの間にか、人間の身近な生き物として愛される存在になったイエネコの進化史は、気まぐれな表情が魅力のネコそのものと同じく、多くの謎を秘めているようです。

人は1万年前ネコを手なづけた?イエネコ家畜化起源の謎(上)

 前回に続き、古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が、最新研究をまじえながら検証します。

----------

分類学上のイエネコ

 前回「吾輩」と称する猫の知恵を借りて、イエネコの起源と初期進化に関する最近の研究をいくつか紹介してみた(こちらの記事 参照)。どうも最古のイエネコは、1万年くらい前に近東において初めて登場した可能性が高い。しかしそもそもイエネコとは何なのだろうか? 哺乳類の分類学上、果たしてどのように現在定義されているのだろうか? まずこの点をはっきりさせてみたい。


 さて吾輩がここでとりあげているネコとは、生物学的に言えば「イエネコ(Felis silvestris catus)」のことだ。ちまたにはたくさんのネコやキャットと呼ばれるものが古今東西多数存在する。伝統的なFelis catusもイエネコとしてよく耳にする。これはイエネコが亜種ではなく「独立した種」という分類上のアイデア(仮説)を意味する。

(筆者注:亜種vs種の議論は研究者の個人的な好みに左右されることも多く、どちらでも特に大きな違いはないと私には映る。両方のアイデアはどちらもイエネコはヨーロッパヤマネコから直接進化したことを示しているからだ。しかしこのネコ属Felisに属する他の多数の種や亜種との相関関係を考えるとき、いくらか違いが生じてくる。この詳細は書き出すとかなり長くなるので、いずれ機をみて改めて紹介してみたい。)

 現在ネコ属にはヨーロッパヤマネコ(Felis silvestris)の他に、数種が広く知られている。アフリカ大陸から南アジア一帯に、野生の個体群の分布は限られている。例えばスナネコ(Felis margarita)はアフリカ北部から中近東一帯にその生存が広く知られている(しかしいくつかの国で見られなくなったという報告が最近出されている)。南北アメリカ大陸に生息するピューマも以前ネコ属に属すと考えられていた。しかし最近のmDNAデータの研究は、全く別の属(Puma concolor)とするアイデアで一致しているようだ(注:ネコ属の系統というより、チータ属の系統に近い仮説を示している)。

 ちなみに日本のイリオモテヤマネコはイエネコとはまるで別の属だ。現在は独立した新種ではなく、東南アジアに広く分布しているベンガルヤマネコの「亜種」Prionailurus bengalensis iriomotensisだとする考えが広く認められているようだ。ちなみにこのベンガルヤマネコ属(Prionailurus)とイエネコが含まれるネコ属(Felis)は、かなり昔(約600万年以上前)に進化上、枝分かれした。両者はその見かけこそよく似ているが、かなり長い時間を通してそれぞれ独自の進化の道をたどって今日に至っているようだ。野生のネコの仲間は基本的に人にあまり近づかず、単独で行動するものが多いからだ。こうした点でネコはイエイヌとかなり異なるといえる(こちらのイエイヌの記事参照)。

 北米に生息する大型のネコ「ボブキャット」(=マウンテン・ライオン)もネコ属とは別者だ。動物園などで馴染みの深い大型ネコ(トラ、ライオン、ヒョウ等)は、全てヒョウ属(Panthera)の仲間に含まれる。路地裏で見かけるトラ猫は、トラと直接血の繋がりはない。似たようなトラ縞模様はネコの仲間に広く見られるため、この体柄だけをとって近縁種・同一種と定めることはできない。

 こうした全てのネコの仲間は、ご存知のように「ネコ科(Felidae)」に当たる。ネコ属、チータ属、ヒョウ属など大まかに8つの大きな系統群が知られており、現生のものでは42種が存在する。全てのネコは肉食で、ハンターとしての体つきを備えている。 少し長々とした説明をあえて紹介してみたが是非お付き合い願いたい。こうした分類学上の事実を丁寧になぞることは、「どうしてイエネコだけが人間との共存において大成功をおさめたのか?」という、根本的な問いかけにたいするカギを握っているからだ。
 
こうした分類学上の概要から吾輩が受け取る、イエネコ進化におけるメッセージは簡潔にまとめると2つある。

1.先ず「非常にたくさんの野生の種や亜種」が存在し、その進化関係は「かなり複雑だ」という事実。先にも述べたが、進化上、何度も近縁の者同士で交配が行われ、雑種も頻繁に生まれ続けてきた可能性が高い。そのためmDNAなどのデータをとおしても、進化の道筋はシンプルに見えてこないかもしれない。

2.イエネコを除く全てのネコの種は、基本的に人にはなつかない。単独行動を本能的に好むものが多く、ライオンなどの一部の例外を除き、犬やオオカミのような群れにおける社会性を持たないものがほとんどだ。極端に人を遠ざけたり、攻撃するものさえもいる。特に大型のネコをペットとして家庭に持ち込んできた際におこる悲劇は、後を絶たないようだ。

1/2ページ

最終更新:8/2(水) 6:06
THE PAGE