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「残業100時間が常態化」「残業代は給料の4%のみ」 教職員の過酷な労働実態、過労死遺族らに聞く

7/26(水) 10:55配信

ねとらぼ

 「どれだけ残業をしても残業代は給料の4%のみ」「約半数が月に100時間以上の時間外労働をしている」。こうした状況を改善しようと「教職員の働き方改革推進プロジェクト」が時間外労働時間の上限規制を求める署名活動を行っています。教職員の過酷な労働実態について、プロジェクトのメンバー、文科省、過労死遺族を取材しました。

【画像:署名を受け取る義家文科副大臣】

 「教職員の時間外労働にも上限規制を!!」は、大学教授などの有識者で構成されている「教職員の働き方改革推進プロジェクト」が署名サイトchange.orgで行っているネット署名で、現在までに3万7500人以上の賛同者が集まっています(7月下旬からは同サイトから署名用紙をダウンロードしての紙署名にも対応)。

 日本労働組合総連合会系のシンクタンク・連合総研による2015年の調査では、時間外労働(いわゆるサービス残業)の過労死基準といわれる月100時間を超過して働く教職員は小学校で55.1%、中学校では79.8%、高校では46.4%にのぼるとのこと。この状況について「教育現場は“労働時間の無法地帯”になっている」と警鐘を鳴らすのが、プロジェクトの呼びかけ人の一人、日本女子体育大学の青木純一教授です。

●「当面は働いた時間を時間で返すべき」――日本女子体育大学の青木純一教授

 青木教授によると教職員の仕事は、児童生徒の問題行動への対応や保護者からのクレーム対応、また報告書類の提出など負担感の強いものが年々増加しており、さらに毎年のように投げかけられる教育課題(最近では小学校の英語や道徳の教科化がその例)に対応するため、常に自主的な研究や研修が求められるなど、その負担は計り知れないとのこと。

 特に難しい問題をはらんでいるのが部活動で、保護者から過度の期待を寄せられたり、一部の生徒からの「強くなりたい」「もっと練習をしたい」との要望があがることから、教職員が土日や平日の早朝などにも活動に付き合わざるを得ない状況に陥っている場合も。一方で朝練に反対の生徒や保護者も存在しており、長野県では生徒の睡眠時間や朝食の時間を確保する目的で、数年前に「中学校の朝練を原則的に禁止するように」と県から学校に要請がありました。

 ところが青木教授は長野県の現状について、「朝練が禁止されても、生徒たちが『自主活動』の名目で早朝の活動を続けているケースがあり、結局教職員がそれに付き合っているので何も変わっていない」と話し、結果的に真面目な教職員ほど負担が増えてしまう状況への心苦しさをのぞかせました。

 こうした時間外労働が横行している一方で、国は教員という仕事の特殊性を理由に時間外勤務手当(いわゆる残業代)を支払わず、教職員の給料月額の4%に相当する「教職調整額」のみを一律で支給するのみにとどめています。これは昭和47年(1972年)に施行された「国立の義務教育諸学校等の教諭等に対する教職調整額の支給等に関する特別措置法(通称「給特法」)」で定められているものですが、「給特法」で算定された4%という数字は、昭和41年(1966年)の勤務状況調査の結果を踏まえたもののため、青木教授は「時間外労働は(昭和41年)当時と比べると5倍近くも増加している」と指摘しています。

 また「給特法」は「勤務時間を申告する必要が無い」という弊害も生んでおり、タイムカードを導入している学校はわずか10%程度にとどまっている他、「自分の勤務時間が何時から何時までなのかさえ分からない」教職員が多いことも青木教授は問題視しています。

 教育現場の状況について青木教授は、これまでにも学校の行事を減らす、会議を効率良くするなど、学校単位での自主的な業務改善は全国でやり尽くしてきた感があり限界だと語り、「教職員の時間外労働を改善するための決定打がないというのが正直なところ。これからは国が労働時間数に上限を設けるなどの規制が必用になるだろう」と説明。基本的には教職員が自ら働き方に関する意識改革をすることが重要だと話しつつ、「通常勤務の時間外に働いた対価は残業代で返すのが原則だが、全国に90万人近くいる教職員に対して残業代を支払ってしまうと国の予算が枯渇する。当面は夏休みに休暇を取りやすくするなどして、『働きすぎた時間は時間で返す』という形が好ましいのではないか」との改善策を示しました。

●上限なき労働が招いた妻の死――過労死遺族

 小学校の教諭だった山口聡美さんは2016年1月に勤務先の石川県野々市市立富陽小学校で会議中に倒れ、そのまま帰らぬ人となりました。51歳という若さで旅立った聡美さんの夫で、今回のネット署名活動にも参加している白山市議の山口俊哉さんは「度重なる長時間労働と校長による無理な人員配置が妻の命を奪った」と悔しさをにじませます。

 俊哉さんによると、聡美さんは24歳から51歳までの27年間教師一筋。2014年から同校に赴任し、学年に5クラスある1年生の学年主任を務めていた聡美さんですが、月に100時間近い時間外労働が常態化。亡くなる数カ月前には「大分疲れた……」と疲れた顔を見せていたといいます。

 聡美さんの死後、納得できない思いを抱え、公務員の労災にあたる公務災害認定申請を目指した俊哉さんに立ちはだかったのは、聡美さんの命を奪ったともいえる「給特法」でした。申請のためには、出退勤時間や持ち帰り仕事を含めた実働時間など労働時間の算出が必要でしたが、「給特法」によって教職員の勤務時間の把握・管理がされていなかったため、聡美さんの正確な労働時間が分からなかったのです。

 その後、野々市市の教育委員会が調査委員会を立ち上げ、聡美さんに貸与していたPCのログイン・ログアウト時間を使って勤務時間を推定する方法で労働時間を推定。聡美さんが倒れた日からさかのぼって半年分のデータを集計したところ、PCを使用していた時間だけでも、月に80時間程度の時間外労働が発生していたと発覚しました。さらに帰宅後も夜遅くまで持ち帰り仕事をしていたことから、月の時間外労働は100時間を優に超えていただろうと推測されます。

 このような長時間労働に加えて俊哉さんが問題視しているのが、校長による不可解な人員配置です。聡美さんが学年主任を担当していた小学1年生は、2014年の時点で50代のベテラン教諭、30代の中堅教諭、聡美さんらが5人で担任をしていました。ところが2015年にはまだ若く経験の浅い教諭や非常勤講師が担任を担当することとなった他、そのうち2人が相次いで産休に入ることも決まるなど、聡美さんへの負担が増加していった可能性が考えられます。

 こうした状況について、自身も教職員であった俊哉さんは「(1年生の)担任の先生方の経験不足感が否めなかった。しかもそのうち1人は、担任になる前から産休を取ることが決まっており、(聡美さんは彼女の)負担を減らそうと気を遣っていた」と振り返り、「小学校生活でいちばん大事な1年生の担任に、こうした先生方を配置することは通常ありえないことだと考えている。校長の責任は重い」とやり場のない憤りを抱えています。

●10年前にも同じ議論が行われるも結論は出ず――文科省

 「教職員の働き方改革推進プロジェクト」では、ネット署名以外にもこれまでに集めた署名を文部科学省の義家文科副大臣や馳前文科大臣らに手渡しており、6月22日には松野文科大臣が「中央教育審議会総会」で、教員の勤務時間管理に関する改善策などを諮問(しもん)するなど問題への解決に踏み出しているように見えます。

 しかし、文科省の担当者の一人は「10年ほど前にも同じような話題が持ち上がり、議論になったが、そのときは結局結論が出るに至らなかった」と取材に対して明かしました。国がどの程度の熱意を持って問題の改善に取り組むのか、今後の対応に全国の教職者の未来がかかっています。

最終更新:7/26(水) 10:55
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