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『君の名は。』の4K UHD Blu-rayは“アニメ史上最高の画質”だ(前)

7/26(水) 18:30配信

Stereo Sound ONLINE

 映画『君の名は。』は2016年に8月に公開され、観客動員1,900万人、興行収入が200億円を突破するなど、社会現象を巻き起こした作品だ。その『君の名は。』のBlu-ray & DVDがいよいよ7月26日に発売された。

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 注目は、なんと言っても初回生産限定の『「君の名は。」Blu-rayコレクターズ・エディション』。4K Ultra HD Blu-ray(以下UHD BD)版が同梱されるのだ。劇場で多くの観客を魅了した、その高画質をホームシアターでも味わえるのか、自身のブログ「言の葉の穴」でUHD BDレビューを紹介しているライター逆木一(さかき はじめ)さんに、レビューしてもらった。ここでは前編をお届けする。(Stereo Sound ONLINE 編集部)



■画質と音質にこだわることで作品がもっと面白くなる

 新海作品は常に「距離」というテーマを根底に置き、そこから生じる登場人物の心情を繊細な映像と共に描いてきた。『ほしのこえ』では「地球と宇宙」という距離、『雲のむこう、約束の場所』では「夢と現実」という距離、『秒速5センチメートル』では「本人の意思とは無関係に変わる住所」という距離、『星を追う子ども』では「地上と地下」という距離、『言の葉の庭』では「年齢」という距離が、それぞれの作品の中で、物語の中核を担ってきた。そしてこれらの「距離」は最後まで埋まることなく、多かれ少なかれ悲劇性を含んだ結末を迎えるというのが、新海作品に共通する特徴だった。

 『君の名は。』においても、実に多くの「距離」が描かれている。「夢と現実」。「男と女」。「都会と田舎」。「時間」。そして「生と死」。これらの「距離」は、「此岸と彼岸」・「幽世」といった登場人物の発言や、幾度となく繰り返される「引き戸」の映像でも表現されている。しかし、『君の名は。』ではこの「距離」が「断絶」のまま終わることなく、まさに作中で登場する「組紐」が象徴するように、最後には「結び付く」という、今までの新海作品にはあるまじき希望に満ちた結末を迎える。良くも悪くも「知る人ぞ知る」というイメージのあった新海作品が社会現象的なヒットとなった背景には、このような物語の質的変化もあるように思えてならない。

 さて、本稿の目的はあくまで『君の名は。』のUHD BDの紹介であって内容に踏み込むことではないので、この辺りで本題に進むとしよう。

 画質と音質にこだわることで、ただでさえ大好きな作品がもっと面白くなり、愛してやまない作品からより深い感動を引き出せる。このことを知ってもらいたいがために、そしてオーディオビジュアルという趣味の魅力を伝えたいからこそ、筆者は今まで書き続けてきた。今回『君の名は。』という多くの人の心を捉えた作品のUHD BDを紹介する機会を得られたのは、その意味でも、実に喜ばしいことだ。

 『君の名は。』は、初めて「BDと同時にUHD BDもリリースされる」2Dアニメーション作品(以降は単純に「アニメ」と記述)である。「アニメはUHD BD化の恩恵をどれだけ受けられるのか」を考えるうえでも、非常に大きな意味を持っているタイトルだと言えよう。


■『君の名は。』のUHD BDは、アニメ史上最高の画質

 UHD BDの視聴は筆者の自宅にて、BDとの比較も交えてじっくりと行った。自宅視聴に先立ってHiVi視聴室でも見る機会があったのだが、結果的にその時の印象を異なる環境で再確認するような形となった。

 先に結論から述べてしまおう。

 『君の名は。』のUHD BDは、アニメ史上最高の画質を見せてくれた。

 このように思い至った理由として、まずは「解像度」の観点から述べていきたい。

 筆者が考えるに、「アニメのBD」の画質には、大きく二つの潮流があった。ひとつは、デジタル制作時代のアニメならではの、解像感に優れるクッキリとした画。もうひとつは、フィルム制作時代から連綿と受け継がれた、豊かな空気感と滑らかな描線を基調とする画だ。アニメのBDは得てしてこの二つの潮流の中で、「どちらかに振った」画としてリリースされてきた。

 1920×1080という解像度の枠内で、解像感を重視しすぎるとキャラクターなどの作画部分で描線の粗さが出で背景から浮いてしまったり、滑らかさを重視しすぎると今度は画面全体の解像感が損なわれたりと、二つの要素の両立はなかなか困難に見えた。ジブリやディズニー作品などは、解像感と滑らかさを高いレベルで両立した画を常に見せてくれたものだが、それでもやはり、「完璧な両立」は望むべくもないのか、と思っていた。

 『君の名は。』が越えたひとつの壁とは、まさにこの「解像感と滑らかさの完璧な両立」であり、そしてこれこそが、たとえ2Kマスターからのアップコンバートであるとしても、4Kでアニメが収録されることの意義なのだと感じる。画面全体には『言の葉の庭』で見られたようなデジタルアニメならではの解像感がみなぎりつつ、キャラクターの描線はジブリやクラシック・ディズニー作品のように滑らかで、決して粗さを見せない。結果的に、ロングショットの場面で小さく描かれたキャラクターであっても、描線のディテールが損なわれることがなく、さらに背景美術との馴染みがひじょうに自然なものとなる。バンディングや圧縮に起因する暗部のノイズなど、映像を阻害する要素が存在しないことは言うまでもない。

 BDの最初期に登場し、BDの器の大きさとアニメとの相性の良さを見せた『イノセンス』。DVDでは到底収めきれなかった美術の精緻を惜しげもなく開示した『スチームボーイ』。作品誕生から50年という月日をまったく感じさせない、奇跡的な鮮度に復活した『眠れる森の美女』。横溢するディテールの奔流がただただ眼福な『千と千尋の神隠し』。新海誠監督の前作にして、滴り落ちる翠の表情を極めつけの解像感で描き出し、デジタルアニメの画質の完成形とも思えた『言の葉の庭』。『君の名は。』のUHD BDは、10年以上に渡るBDの歴史の中で筆者が見てきた綺羅星の如き高画質タイトルの美点を包含しているのである。

 なお、『君の名は。』の映像はいかにもデジタルアニメ的な「ツルツル」の画ではなく、質感表現のためと思われるささやかな粒子感が付加されている。そしてUHD BDとBDでは、映像に付加された粒子感の表出に結構な差があった。BDでは夜空などに粒子がかなり強めに感じられるシーンがあり、ともすれば「ノイジー」と見なされてしまう可能性も感じたものだが、UHD BDではそのような印象がない。UHD BDではいわば「粒子が細かい」おかげで、あくまで質感表現と感じられつつもノイズと意識されることがない。

(後編:UHD Blu-rayの優位性&音質インプレッションにつづく)

【逆木一(さかき・はじめ)】
ブログ「言の葉の穴」を運営する“ネットワークオーディオ・エバンジェリスト(伝道師)“。ネットワークオーディオで重要なユーザビリティを追求し、徹底したユーザー目線の記事で人気を博す。最近ではオーディオ/AVの論評やイベントでの講演など、活動の場を広げている



■「君の名は。」Blu-rayコレクターズ・エディション 4K Ultra HD Blu-ray 同梱5枚組(初回生産限定):1万2000円+税
■「君の名は。」Blu-ray スペシャル・エディション 3枚組:7800円+税
■「君の名は。」Blu-ray スタンダード・エディション:4800円+税
■「君の名は。」DVD スタンダード・エディション:3800円+税
販売元:東宝

Stereo Sound ONLINE / 逆木一

最終更新:7/26(水) 18:30
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