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パナソニックが目指す“革新”の量産手法とは

7/27(木) 9:10配信

MONOist

 イノベーションを持続的に生み出し続けることは可能か――。パナソニックは2017年7月26日、都内で「イノベーション量産化技術」の開発に向けた技術セミナーを開催し、革新的製品やサービスを持続的に生み出す仕組み作りに取り組む方針を示した。

【パナソニック独自の技術基盤「Panasonic Digital Platform」の画像など】

 パナソニックでは2017年4月に従来の「テクノロジー&デザイン部門」の名称を「イノベーション推進部門」に変更するとともに、同部門の中に新たに「ビジネスイノベーション本部」を新設した※)。ビジネスイノベーション本部長にはパナソニック 代表取締役専務の宮部義幸氏が就任したが、副本部長として活動を推進するのが、パナソニック ビジネスイノベーション本部 副本部長 兼 パナソニックノースアメリカ副社長の馬場渉氏である。

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 パナソニックではここ最近、外部人材の積極活用を進めており、元日本マイクロソフト会長の樋口泰行氏が、パナソニック コネクティッドソリューションズ(CNS)社の新社長に就任し注目を集めている※)。馬場氏もSAPジャパンでバイスプレジデント チーフイノベーションオフィサーを務めた経歴を持ち、これらの実績を生かしてパナソニックに、イノベーションを生み出し続けられる仕組みを構築することを目指す。

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 馬場氏は「1つ1つの事業におけるイノベーションを実現するだけでなく、もうすぐ創業100年を迎えるパナソニックが、イノベーションを量産できるようになる『技術』や『手法』を作り出していくことが目的である。日本経済全般や製造業の技術部門の新しい在り方を提示したい」と目的について述べている。

●モノづくりで実現した量産化技術をコトづくりに

 馬場氏が具体的に目指すとしているのが、モノづくりで実現をしてきた生産技術や量産技術の成功体験や手法をコトづくりで実現することである。

 馬場氏は「パナソニックをはじめ、多くの日本の製造業の成功の陰には個々の製品力だけでなく、量産化を実現した生産技術があった。QCD(品質、コスト、納期)などの生産管理手法や生産技術などを高めてきたため、モノづくりの世界で成功することができた」とかつての成功要因を強調する。実際に、基板に部品を実装する実装機などの生産財では、パナソニックは現在でも世界で高いシェアを握る企業の1つだ。

 一方でIoT(モノのインターネット)などの進展により製造業のビジネスモデルも「モノ」売りから「コト」売りへとシフトしつつある。その中で日本の多くの製造業では、成功の形を見いだせないでいる。

 馬場氏は「モノづくりからコトづくりへの流れの中で『なぜ勝てないんだ』という議論がよく行われているが、答えはシンプルである。モノづくりで強みとなったフレームワークが、新たなコトづくりの領域ではまだ存在しないからだ。コトづくりにおいても、1つ1つのビジネスモデルだけを見るのではなく、生産技術と同様に全体に通じる手法として確立していくことが必要である。これを一部の天才的な人々の属人的な取り組みで生み出すのではなく、組織的に作り上げていくことが大事だ」と述べている。

●パナソニックが抱える「タテパナ」と「ヨコパナ」の問題

 馬場氏は現状でのパナソニックの課題として「タテパナ」と「ヨコパナ」の関係性を挙げる。「タテパナ」とは従来型の組織で、事業部制などを示す。事業部ごとの製品、価格、競合、顧客接点、体験などを、それぞれの組織のみで作るという仕組みである。

 国内の多くの製造業はこうした方式で成長してきたが、ICT(情報通信技術)の進展などにより新たな製造業の形が求められる中で「従来と同じ方法を継続して世界一の企業になれるのかと考えた場合、そうではない。社会の要請としても、個々の技術や事業を深めているよりも『見方を変えて新しい価値を提供してくれ』と変化している。そのためには縦軸だけでは不十分だ。横での連携を行う『ヨコパナ』により、クロスバリューイノベーションを実現したい」と馬場氏は方針を述べる。

 クロスバリューイノベーションを実現するには、技術に加え、文化、デザインなどが必要になる。イノベーション量産化の課題としては、コストやユーザーインタフェース、分析、セキュリティ、スピード、自前主義などが挙げられるが、これらを解決する技術基盤として、パナソニックが打ち出すのが「Panasonic Digital Platform」である。

●パナソニックが打ち出す「使い倒すための技術基盤」

 パナソニックでは既に2013年から、製品などで生み出すデータを収納する共通のクラウド基盤「Panasonic Cloud Platform」を構築し活用を進めている。「Panasonic Digital Platform」は、この「Panasonic Cloud Platform」に、各種事業や製品群などに最適化したAPI(Application Programming Interface)などを組み合わせたもの。「従来はパナソニックの中でも使いたい事業部やカンパニーが使うという状況だった。しかし、全社共通の考え方として全ての事業部で活用していく方向性が明確になった」と馬場氏は述べている。

 「Panasonic Digital Platform」は、クラウドおよびAPIで構成される共通のIoTプラットフォームではあるが、パナソニックではこの基盤そのものを差別化の中心に据えることはしないという。馬場氏は「IoTプラットフォームやAIプラットフォームなどさまざまなプラットフォームが登場しているが、驚異的なスピードで進化を重ねている。そのスピード感に合わせてコモディティ化も進んでおり、パナソニックにとって付加価値のある領域だとは考えていない。差別化にこだわるところではなく、差を生み出せない領域だからこそ割り切って使うことが重要だ」と位置付けについて述べている。

 具体的にIoT製品による新たなサービスビジネスを展開することをイメージした際に、現在の開発体制では、PaaSやIaaSなどの基盤の開発に50%、その上にパナソニックとしてIoTサービスを展開するのに必要な機能や品質などを実現するのに45%のリソースがとられている。つまり、固有の価値を生む機能の開発にはわずか5%のリソースしか掛けられていない状況が生まれているのだ。

 これらに対し、コモディティ化した領域や基盤をグループ内で共通化して活用し、協力して開発を進めていくことで、基盤にかかるコストは大きく低減可能になる。本来力を注ぐべき、固有の価値を生み出す差別化領域に多くのリソースを活用できるようになるというわけだ。

 馬場氏は「既にPanasonic Cloud Platformは16事業部21のサービスで活用されているが、当初は開発に6カ月以上かかっていたが現在は3カ月に縮めることができている。さらにコストは3分の1まで低減できた」と馬場氏は現状での実績を紹介する。

●住空間を製品群で包括するパナソニックの強み

 現在既に「Panasonic Cloud Platform」が使われている事例としては、薄型テレビ「ビエラ」の「Media Center」機能や、エアコン操作アプリ、スマートHEMS(家庭用エネルギー管理システム)、みまもりエアコン、放送局向け映像編集ワークフローサービス、欧州向け暖房機リモート制御などがある。

 100カ国で180万台の機器が接続されており、108のAPIを通じて、月間10億アクセスがあるという。さらにこれを同一の技術基盤を活用することで水平連携も進めてきており、既に9サービスを掛け合わせた分析などを推進しているという。住空間のIoTログでは75億件がそろっており、分析を進めることで、従来にない新たなサービスを生み出せる可能性が広がっている。

 パナソニック内で各事業部のIoT担当者が集まるIoT事業推進会議という会議体を設立し、各事業部がどれくらいの機器を技術基盤に接続し、どういうビジネスモデルを展開するのかをコントロールできるようにしているという。

 馬場氏は「まずはIoTに接続するところからスタートし、ヨコパナでのデータ分析を進める。さらに、これらを生かして新たな価値を生み出し、新しいビジネスモデルの創出につなげていく。取り組みとしてはこの順番になるが、思考としては逆で進めないといけない。未来の価値から逆算して、現在必要なものを見つけ出していく」と取り組みの進め方について述べる。

 こうしたバックキャスト型の取り組みの1つの例が、現在シリコンバレーで進めている「HomeX」プロジェクトである。「HomeX」は、新たな住環境の姿を描き、そこに必要な家電や住宅設備、住宅家屋の在り方を模索するプロジェクトである。馬場氏は「家電や住宅設備、住宅家屋など、住空間を構成するほとんどの要素を1社で提供できる企業は世界を見てもほとんど存在しない。住空間を再設計することで新たな体験を作り出し、そこに必要な製品やサービスの開発を行いイノベーションを生み出していく」とプロジェクトの意義について述べている。

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最終更新:7/27(木) 9:10
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